【Re:write】第24話 名もなき神々の書と、最初の解読
―絶望を、書き換えろ。
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工房。
ドレイクが床にへたり込む。
「……生きて帰れたな」
「ええ、なんとか……」
アリアが胸をなでおろす。
カイが古文書を置く。
ずっしりと重い。黒い革の表紙。
「さて、と!」
エラーラが手を伸ばす。眼鏡が光る。
「見せたまえ、カイ・ミシマ! その禁断の知識を!」
「待て、眼鏡」
ドレイクが立ちはだかる。
「そいつはヤベえ代物だ。忘れたか?」
「危険だからこそ価値があるんだろう!? 知的好奇心の前では、リスクなど計算誤差さ!」
「お前の計算式は、いつか破滅を招くぞ……」
カイは無視して表紙を開く。
文字。
未知の象形文字。ミミズのような、星の軌道のような。
「……読めない」
エラーラが喉を鳴らす。
「私の知識を総動員しても、どの言語体系にも当てはまらない。完璧な未知……。ああ、なんてことだ、最高じゃないか!」
「最高なわけあるか! 紙切れだぞ!」
「いや、違う」
カイが指を滑らせる。
「これは言語じゃない。データ圧縮ファイルだ」
「データ……?」
「情報の密度が異常だ。並の人間が読めば、脳が焼き切れる」
カイがチョークを取る。床に数式を走らせる。
エラーラが隣にしゃがみ込む。応戦。
「文字の配置パターンに意味があるのか!」
「再帰的なアルゴリズムを特定すれば、解凍できる可能性がある」
「待って、そのアプローチは危険だ! 情報が破損する! 音で共鳴させなければ!」
「非論理的だ!」
「論理で宇宙の全てが解けると思うな!」
床が白く埋め尽くされていく。
「……始まったぜ」
ドレイクが煙管をふかす。
アリアが困ったように笑う。
「そうだ!」
エラーラが叫ぶ。
「素材だ! 味見だ!」
古文書の端を舐める。
「……んー、甘い! ほんのり、宇宙の味がする!」
「「「…………」」」
思考停止。
ミミが首を傾げる。
「うちゅうのあじ?」
「……成分分析」
カイが触れる。粘度。組成。
「……なるほど。未知の糖類とアミノ酸。特定の音波……声帯の周波数に共鳴する可能性がある」
「だから言っただろう!」
共同作業。
カイが文字を特定する。
エラーラが音階を変えて詠唱する。
「ア……」
「イ……」
「ウ……」
変化なし。
「……ダメか」
工房の隅。
ミミが不安げに身じろぎした。
アリアが気づく。
肩を抱き寄せ、背中をゆっくりと叩く。
リズム。
安心させるための、無意識の旋律。
「♪ーーー」
子守唄。
優しいメロディが、殺伐とした空気に滲む。
共鳴。
ポゥ……。
古文書が淡く光った。
「……嘘だろ」
文字が動く。集まる。言葉を形作る。
【我らの名はレギオン。我らは始まり。我らは、全てなり】
凍りつく空気。
「……なんだよ、これ……」
ドレイクの声が震える。
「あの化け物の名が……始まり……?」
「……まずいな」
エラーラの顔色が青ざめる。
「これは歴史書じゃない。世界の理を記述した、禁断の魔導書だ。人間が触れていい代物じゃない……!」
エラーラが手を伸ばす。閉じようとする。
カイが掴む。制止。
「……待て」
瞳に冷たい光。
「世界の理を記述しているなら、好都合だ」
光り輝く古文書を見つめる。
「……これを使えば、俺の『情報毒』は完成する」
「……正気かい!?」
エラーラが叫ぶ。
「それは自爆スイッチだぞ!」
「構わない」
カイは即答した。
「レオンを殺した『あれ』を滅ぼせるなら、どんなリスクだろうと、俺は取る」
沈黙。
視線が交差する。火花。
ランプの火が揺れる。
床の数式の白い粉が、息でわずかに舞う。
開かれた古文書。禍々しくも美しい光。
作業台の縁をなぞって、影が落ちる。
外で、鎚の音が一つ。
すぐ遠のく。
工房の外の喧騒が、薄い壁越しに滲んでいた。
2025/12/31改稿
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