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風を起こし、恵みの雨を呼ぶ  |【短編小説】

こちらは、RaM的なんのはなしですか創作物語の会場です。

創作大賞期間中ですが、フラフラしている作品ですので、本気で読まなくて大丈夫です。

せわしない日常のお口休めとしても、どうぞお楽しみください☕✨



あらすじ

とある路地裏に佇む喫茶店「🍀nanohanacafe🍀」。

ある日、暴風雨が店の窓を叩きつけていることに気付く。この店の看板娘となりつつある黒猫も、少し怖がっているのか、元々小さい身体を、更に丸め、小さくなっている。

この、一時的な嵐は、とある人を連れて来る予感がした。少し早めに準備を始めていたところ、来客を知らせるベルが鳴る。
ここから、どんな出逢いが、広がっていくのか。


風を起こし、恵みの雨を呼ぶ



一日中、雨が降り続いていた。空は、どんよりと暗く、降りしきる雨も、一向にやみそうにない。

雨脚が強くなりつつあった、夕刻。
突然強い風によって運ばれた雨が、外壁に強く当たる音がした。その音と共に、とある予感を抱く。それは、ここの看板猫である黒猫みーちゃんも同様のようだ。ふと目が合い、それを確信した。

「なんとなく、思うだろ?なんだか、あの方が来そうな気がしてね。雨がこれ以上強まらないうちに、ちょっと買い出しに行ってくるよ。君は、、、ここにいるよね?お店は close にしていくし、今日はこの天気だから、誰も来ないと思うけれど、もし万が一来られた方がいたら、ちょっと時間つぶしておいてね。」

その黒猫は、小さく「みゃ~」といい、目を伏せた。多少の反抗だろうか、と思いつつも、気付かないふりをして店を後にした。

それにしても、本降りの雨である。強い風に乗った雨粒が、差している傘をすり抜けて、こちらにやってきて、上着を濡らしていた。




私は、誰も気づかないような路地裏で、喫茶店「🍀nanohanacafe🍀」を営業している。

口コミならぬ、猫案内により、お客を招き入れる以外、ほとんど新規のお客は来ない。

少しずつ、外に広げていかなくてはならないと思いつつも、自分のしたいことを優先していたら、いつか見つけてもらえるのではないかと、淡い期待をしている。

今回感じた予感とは、今となってはいてもらわなくては、喫茶店舗の営業にもならないほどの重要な存在となりつつある、黒猫のみーちゃんにも関わることである。

複雑な心境を抱きながら、この予感が現実のものとなっても困らなくて済むように、事前に準備をしておくのが吉だ。

そう判断して、雨が降る中、買い出しに来た次第である。

お気に入りの菓子店と、おしゃれな食材を取り揃えているお得意さん(と勝手に認識している)の店に寄り、食材を手に入れた頃には、雨音が少し弱くなっていた。


店に戻ると、出る前と同じ位置に黒猫はいた。どうやら、不在中に、来客はなかったようだ。

「明日の開店準備をしている間に、来客がなければ、早く店を閉めよう」

そうと決めれば、話は早い。
早速明日の仕込みを始め、1時間ほどで終えた。

雨も降ったり止んだりを繰り返しており、天候が回復しそうな兆しは見えない。

18時に店を閉め、翌日に備えて休むことにした。




思ったよりも目覚めの良い朝だった。

あまりに深く眠れたため、寝過ごしたのではないかと慌ててベッドから飛び降りたが、スマホの時計を見ると、いつもの時間より5分早いくらいだ。

身支度を済ませて、簡単に朝食を摂った。
店の方に向かうと、案内猫の黒猫みーちゃんもすでに活動を始めていた。
食事を与えて、開店準備に入る。

雨はやんでいたものの、とてつもない強風だった。店の外に出てみると、西の方から、黒い雲が流されてきている。

一瞬にして、強い生温かい突風が吹いてきた。雨が降り始めるかもしれないと思い、急いで店の中に入る。その直後に、雨が降ってきた。


「みーちゃん。やっぱり、あの予感は当たるかもしれないよ。」

言葉が話せない黒猫に対して、あたかも当然のように話しかけながら、店のキッチンに戻り、お湯を沸かし始めた。


そこへ、ー カランカラン ーと、来客を知らせるドア鈴が鳴る。

『こんにちは』

聞き覚えのある女性の声がして、ドアの方に目を向け、声を返した。

「いらっしゃいませ。なんとなく予感はしていましたよ。どうぞ、お好きなお席におかけください。後ほど、お水をお持ちしますね。」

『ありがとうございます。それでは、今日はあちらにします。』

その女性は、窓際のテーブル席に向かって歩いて行った。

あの日と同じように、ロングスカートをなびかせている。ちょうど雨がやんでいたタイミングなのか、水たまりを避けてうまく歩いてきたのか、スカートのすそは、全く汚れていなかった。


『ふふ。毛並みも良いし、だいぶ良い環境で暮らさせてもらっているんじゃない?よかった。』

女性が、看板猫に向かって話しかけているのが聞こえてきた。

お水とおしぼりを出しながら、黒猫への話しかけに応じる。

「この子、お客さんを連れてくる案内猫になっているのですよ。あなたと一緒にいた時から、そういうとこありました?しかも、だいたい、この場所を求めているような方たちばかりなんです。すごい能力だなと思って。」

『どうだったかしら・・・?もちろん、いい子だったから、離れるのも、ものすごく真剣に考えたのよね。覚悟もしたしね。』

このタイミングで、黒猫が近づいてきて、みゃ~と声をあげる。

まるで、今更にゃんのはなしをしているのですか?と言わんばかりの表情だ。



このままでは間が持たないと思い、早々にこの話題を切り上げて、少々自慢げに、メニューを差し出す。

「以前お越しになった時よりも、多くのメニューをご用意しております。セットに関しては、お料理はお任せになります。お酒もご用意しておりますが、いかがなさいますか?」


『おしゃれにいただきたいところだけど、まだ10時ですし。この後も、別件の約束があるので、あまりお酒に飲まれている場合ではないのです。こちらのアフタヌーンティーセットでお願いできますか?』

「さすが、お目が高いですね。承知いたしました。ドリンクは、こちらのメニューからお選びいただきます。ちなみに、アフタヌーンティーセットをご注文の方は、飲み放題です。本日のティーは、水出しの柑橘ティーをご用意しておりました。最初は、いかがなさいましょう?」

『メニュー表も作ったのですね…!まずは、アールグレイをいただこうかしら』

「はい。お待ちください。」


女性は、鞄から本を取り出し、読もうとしていたが、黒猫の様子が気になるようで、頻回に目で追っていた。

黒猫もそれに気付いているのかいないのか、女性のテーブルに近づいたり、離れたり、と落ち着かない様子である。


キッチンで、アフタヌーンティーセットの食事の準備を行う。
昨日豪雨の中で仕入れた甲斐があった、と言ってもいい。今このお店で出せる最上級のスイーツたちを並べる。

とは言え、利益があまり見込めない喫茶店であるため、高級ホテルで提供されるアフタヌーンティーより品数は少ない。

焼き菓子を少量ずつ乗せた最下段。この中でも、オレンジピール入りのスコーンは、自分の一押しだ。

そして、カカオの香りが高いチョコレートトリュフ2種に、バスクチーズケーキ、イチゴのプチタルトを乗せた中段。

甘いものには時折、しょっぱいものも必要だと思い、お得意さんから仕入れたローストビーフを使ったサンドイッチを準備した。
彩りを気にして、プチトマトとピクルス、角切りのチーズを串に刺したピンチョス風の前菜を最上段に乗せて、完成である。


「お待たせいたしました。本日のアフタヌーンティーセットです。メニューは、こちらに置いておきますね。どうぞ、ごゆっくりお楽しみください。」


「それと…何か新しいお飲み物をお持ちしましょうか?」

『では、ホットのカフェラテをお願いできます?』

「承知しました。ほかにお飲み物が必要になりましたら、遠慮せず声をかけて下さいね。」


キッチンに戻り、片付けをしているふりをして、女性のいる方に目を向ける。以前来た時と風貌に大きな変化はないようだが、受け取る印象は違うようだ。

一口ずつ、スイーツを口に運ぶたびに、少しだけ表情が緩むように見える。

頃合いを見計らって、女性に話しかけようと思っていた。


「お味はいかがですか?」

『もちろんおいしいですよ。腕上げましたね。』

「まあ、私の力ではないのですけどね。」

『素材を生かすのも、腕の試されるところですよ』


そんな会話をしながら、水出し紅茶の注文を受け、準備のために一度下がる。向かいながら、近況をどのように尋ねると良いか、頭をひねっていた。


「お待たせしました。水出し柑橘ティーです。お口直しには、もってこいのドリンクだと思います。ぜひお楽しみください。」

『ありがとうございます。』

ストローで一口飲まれる姿は、どこかで見たことのある気がしたが、今に集中することにして、記憶を思い起こすのをやめた。


「いかがお過ごしでしたか?」

女性が、はっとした様子でこちらを見た。聞いてはいけない内容だったのか、と一瞬思ったが、女性からの返事を待つことにした。


みーちゃん黒猫と別れた後、本当にひとりの時間が増えました。助けてもらっていたこともたくさんあったこと、変化を自分で受け入れることの苦痛もあるということに気付きました。手放した分、余白も生まれて、自分の中に新しい刺激も入れることが出来るようになりました。』

一呼吸を置いて、女性はストローを口元に運び、一口飲んだ。

ストローで吸う様子を見ていたら、何か物語が始まる音がした。

でも、おそらくまだ本題には入っていなくて、何も見えてこない。魔法の言葉を言いそうになったけれども、この物語は彼女にとっては、大切なものなのだろうから最後まで聞くことにした。


『これまでも、わたしの生き方をしてきたはずでした。でも、自分の中にある大切なものが見えていなかったようなのです。余白が生まれた時に、見えてきたものは、「わたしは、このまま生きていていいのか?」という疑問でした。誰かのために、と思うことが悪いことではないと思うのですが、どうしても、自分が置き去りになってしまうというか。そういえば、このことを考えていた日も、雨が降っていました。』

『自分がどこにあるかわからなくなった後で、これまでにないくらい、ひどく体調を崩したんです。気休め程度に薬を飲んで、ただ寝ているしかできなくて。外は雨が降っていましたし、病院に行く気も起きず、持っていた薬で何とかしたんですけどね。あの時は、孤独だったなあ・・・。それは、散々体調を崩して、少しずつ調子が良くなってきた頃でした。なんか視界が明るくなった瞬間があって、「わたしが生きたい道は、こっちなのかも!」と直感で思ったんです。雨降って地固まる、じゃないですけど、それまでのわたしも、確かにわたしの中に存在しつつ、新しいわたしから芽が出た気がして。そこから、身体が軽くなりました。体重は変わっていないのに、不思議ですよね。』

「いろいろな変化があったんですね。それでは、最近はやりたいことが出来ている感じでしょうか?」

『おかげさまで、そういった感じです』

「良かったです。天気が悪いことも、何かを手放すことも、案外いいものなんですね。手放す時って、自らが望んで手放す時と、意図せず手放さなくてはならない時があるじゃないですか。たらればで、物事はなんでも言えると思うんですけど、結果はその時々で積み重ねてきた事実からしか生まれないですし。そして、その結果が見えてくるのって、すぐじゃないこともあるから、判断が難しいと思うのですけど。その時の最善を尽くしていくことだったり、地道なことでも続けていくことって、いつか自分を褒めてあげられる日が来るのかもしれないですね。」

人として生きるって、悪くないことだなと思います。もちろん嫌なこともありますけど、総合的に見て、ポジティブに思えたら、人生は快晴かなと思います。そんな人と一緒に生きるのも悪くないと思うよ』

女性は、黒猫に向けて言葉を掛けたようだった。
知らぬうちに、黒猫は、女性の足元で寝そべっていた。


この黒猫を預かることの話をした日。
この女性は、アイスコーヒーを注文していた。その日の時点で、既に芯がある方だと感じていたが、この女性の素の良いところ、活かしていきたいところを自分で気付くことが出来たというのは、生きる上で大きな光となり、その人を導いてくれるものなのかもしれない。



1時間程滞在した女性は、その後の用事があると言って、会計をするため席を立った。


なんとなく、もうしばらく会えない気がした。

アイスティーのティーバッグとスコーンを、来店記念のプレゼントだと伝えて、渡した。


黒猫も、何かの予感を察してか、店の出口までお見送りしていた。



晴れの日も、雨の日も、曇りの日も、嵐の日も。

どんな日だってあるけれど。

それぞれの人が、それぞれの地で、生きている。

そう思えることが、生きる希望を与えてくれることもあるのだと知った。



店の外は、すっかり晴れ間が広がっている。
しばらく、雨は降らなそうだ。


風を起こし、恵みの雨を呼ぶ
《了》



月1開店している🍀nanohanacafe🍀。

これまでの物語は、下記マガジンに収容しております。


noteの街に、こそっと生まれた不思議な喫茶店で起こるお話の集合体。ご入店の合言葉は、「#なんのはなしですか  」です。


関連話は、こちら。



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