【短編小説】出会いと別れ。踏み出す一歩。
#なんのはなしですか 的短編小説です。
他にもストーリーを
いくつかご用意しておりますが、
本作一話だけでも、お楽しみいただけます。
通して読んでいった時に、
ひとつの世界観となるように
目指して創作している物語です。
終わりも、まだ見えていませんが、
「なんのはなしですか」と
楽しんでいただけたら幸いです。
他のストーリーを収容している
不思議なマガジンは、こちら。
本日のストーリーの関連話は、こちら。
それでは、本編へどうぞ。
私は、良くしていただいた人には、末永く恩を返したいタイプである。
ここで、裏切るということは、もってのほかの行為なのだ。
この物件の管理会社の社長から突然託された、とあるミッションと、ある人の連絡先。
社長から託されたミッションとは、ざっくり言うと、こういうことだ。
愛猫を託されること。
ひとりの女性を救うこと。
愛猫ならば、手放さないことが普通であろう。
そこには、ただならぬ事情が存在していることを察する。
ただならぬ事情がないのであれば、その女性が、とんでもなく情がない人なのか。
いや、情がなければ、猫ちゃんの今後を、こんなに必死に考えることはしないものか。
想像ばかりしていても、仕方ない。
社長からの提案どおり、私は書かれていた連絡先に電話をかけた。
情報は社長から聞いた話のみで、それも伝言ゲームでしかなく、果たして、聞いた話すべてが真実なのかはわからない。
なんのはなしか未だ分かっていないくせに、まるでわかったかのような口ぶりで、こう尋ねた。
「何かお力になれることはありますか?」と。
その問いに対する返答は、「今から行ってもいいですか?」だった。
本来であれば、怪しくて仕方ないものの、女性からの話であれば、私は断ることはできない。
電話を終えてから、30分後。
外が暗くなってきているが、時刻は夕暮れにはまだ遠い午後2時を回ったところだ。
屋根に当たる雨音が、次第に強くなってきている。
そこに、ひとりの女性と1匹の黒猫がやってきたのが見えてきた。
「こんにちは。突然のことだったのに、ありがとうございます。」
こう話しかけてくれた女性は、傘をたたみ、入店してきた。
ロングスカートのすそをなびかせながら、カウンターへ向かってくる。
黒猫は、だいぶ女性になついているようで、その後を追って、歩いてきた。
「こんにちは。こちらこそ、雨が降る中、足を運んでくださり、ありがとうございます。せっかくお越しいただいたので、何かお飲み物をお出しできればと思うのですが、いかがですか。このお店の売りは、コーヒーですが、ご希望に合わせて、割となんでもお出しできます。何がよろしいでしょう?」

「それであれば、コーヒーで。アイスコーヒーをお願いできます?外がとても湿度が高くて、少しスッキリさせたくて。」

「もちろんです。猫ちゃんにも、お水を少しお出ししましょうかね。お待ちください」

コーヒーを準備しながら、黒猫に目をやる。
やはり、あの日店の外にいた黒猫のようだ。
ひとりと一匹の目を盗み見ながら、猫に目を向けていたつもりだったのだが、思いがけず、黒猫と目が合ってしまった。
その瞬間、黒猫が「みゃあ」と小さな声で鳴いた。
「こちら、本日のおすすめ、アイスブレンドです。夏にさっぱりといただける重すぎないコーヒーとなっております。詳しくは語りません。ご自身の感覚で、受け取ってみてください。」
社長が来店した時につけることはないストローを、きれいに化粧をされている女性には、お付けすることにしている。
感想が気になるところではあるけれども、見られていると飲みにくいだろう。
女性が飲み始めるタイミングを見計らって、黒猫の方に向かい、お水を入れた皿を差し出す。
あの日、初めて出会った時にも使った皿だ。
差し出すと、黒猫は、すぐにお皿に口をつけた。
「あっ」
その様子を見た女性が、声をあげる。
何か悪いことでもしたのかと思い、女性の顔色を伺った。
顔色ばかり伺っていても、わからない。
「どうかなさいましたか?」と尋ねてみた。
「いえ…。みーちゃん、人見知りが激しくて、初めての場所ではくつろげないんです。飲み物も受け付けてくれないですし。でも、今水を出してくださってすぐに口をつけたので、びっくりして。」
みゃあ♪
女性は、みーちゃん、ここは怖くないんだねぇ〜。よかったねぇ〜。と、愛猫に語りかけている。
「そうでしたか」
会うのが初めてではないというべきなのか迷い、一度差し障りのない返事をしておいた。
無言の間が、続いていく。
女性が、ふぅっと息をつくのが聴こえた。
「わたし、旅に出たくなりました。自分を試してみたくて、大切なものと引き換えに、何かを見つけに行きたいと思いました。でも、わたしが考えている方法は、リスクも犠牲も伴います。そのリスクに、みーちゃんを付き合わせたくないな、と思いました。」
「みーちゃんには、幸せでいてほしいって思います。もちろん、一緒にいたい気持ちはありますが、みーちゃんの人生を、わたしが縛れるものではないな…と。そう思って、ある日みーちゃんのお散歩に尾行したんです。そしたら、いつもこの路地裏の通りに向かっていることを知りました。かなり細い道を通っていくので、どこに入ってるかまではわからなくて。毎回同じところで見失ってたんですが、やっぱりこの路地裏の…この街の空気が、合うのかもしれないですね。」
にゃん?
水を飲み終えた黒猫が、女性のもとにちかづいていく。
お互いに、何かを察しているようだが、私にはさっぱりわからなかった。
「このコーヒー、とってもおいしいです。なんだか、とても余韻が残る気がします。この余韻…なんでしょう。香りというのか、味なのか。」
「想いじゃないでしょうかね?本当の想いは、深くて、リアルで、心の奥まで伝わりますから。感じ取っていただいたのは、もちろんコーヒーを淹れた私の思いではなく、あなた自身とあなたの愛猫ちゃんへの想いですよね。とってもステキでした。」
女性は、神妙な面持ちでこちらを見ている。
私は話を続けることにした。
「あなたの覚悟は、素晴らしいです。私は、私のやり方で応援したいとも思います。できることは、協力します。結構です、と言われれば、それまでなのですが。」
そこまで言って、女性の方へ視線を向けた。
女性が、まっすぐな瞳でこちらを見ていることに気づき、ドキリとした。
視線を向けたことを後悔したが、すでに遅かった。
明日、荷物を持って出直すとのことで、女性と黒猫を入口で見送った。
結局、黒猫を預かることになったのだった。
預かると言うと、期間限定のような気もするが、今の話では、無期限だ。
この女性が、いつの日か旅から戻ってきて、黒猫を返してほしいと言うかもしれなければ、その日は来ないのかもしれない。
今わかっていることと言えば、明日からこの黒猫はこの店に居候するということ。ただそれだけだ。
雨はやみ、向こうに虹が見えていた。

【了】
さて、今回のオーナー以外の登場人物。
女性、黒猫のモデルとなっているのは、
誰でしょう??
興味がある方がいらっしゃるかは
わかりませんが、
次のエピソードを書き上げたら、
公開しようかなあと考えています。
◎
最後までお読みくださり、
ありがとうございました!
ここまでお読みいただいたあなたに、
幸せが訪れますように🍀
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