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温かいスープは、過去と今をつなげる糸〔前編〕


また、親と喧嘩してしまった。

親を怒らせる自分が悪い。
期待に応えられない自分がとても醜い。

上手く話ができないんだ。
親との喧嘩は日常だ。

もうこんな日常は、終わりにしたい。


父親が昼休みに戻ってきて、昼食を準備してくれて、声をかけてくれた。素直に食べればいいのに、また怒られるのではないかと思ったら、硬くなってしまう。

父親が仕事に戻っていったのを確認して、スウェットを脱ぎ、制服に袖を通した。


部屋を少しだけ片付けて、部屋にあったわずかなお小遣いを握りしめて、家を出た。



「…まぶしっ。」


普段家を出るのは、夜家から歩いて5分の距離にあるコンビニへ自転車をかっ飛ばして行くくらいで、日中に自室の外へ行くことは、まずなかった。


外はこんなに明るかったのか。
つい声が出てしまう。



友人とのやり取りもすっかりなくなってしまったから、行くあてがあるはずもない。
ただひたすらに歩く他なかった。



気づくとイチョウ並木にたどり着いていた。

久しぶりに歩いて、すでに足は棒になっていた。

すっかり体力が落ちてしまったようだ。

イチョウが落葉する中、ベンチに座ることにした。




高校に入学して1年間は行けていた。部活の陸上も真剣にやっていたし、友人もいた。
でも、2年の春に突然部屋から出られなくなった。


元々親とは話ができた方ではなかったけど、テストの点数だけで話題をつないでいた。

中学までは、なんとかしがみついて、親の望む高校に入学したものの、そこからついていくのが厳しくなった。

これまでに取ったことのない点数ばかり見て、両親は明らかに落胆していた。そんな状態が1年ともなれば、諦められたのか、何も言われなくなった。


親と会える唯一の話題はなくなった。


家族なのに、今にも切れそうな細い糸を辿れるかどうかの瀬戸際で、ますます焦って空回りした。

勉強には手がつかなくなった。

学校に行くことも、日中に家から出ることもできなくなったのは、それがきっかけだったと思う。


はあ…。
俺の人生、こんなはずじゃなかったんだけどな。


気づくとため息ばかりになる。

きっと、険しい顔になっていたのだろう。

近くのベンチには、誰も近寄ってこなかった。



ん??

足元に何か温かみを感じた。


目を向けるとそこにいたのは黒猫だった。

いつの間に、ここに来たんだろうか?


黒猫の存在に気づいた瞬間、外の寒さに気づき、身震いした。外はだいぶ日が陰り、気温が下がってきた。体もだいぶ冷えているようだ。


黒猫が、そっと離れて歩き出した。

やっぱりそうだよね。俺の元からみんないなくなっちゃうんだよな。自分はここにいてはならない。

どこか遠くに行くしかないか…。



見捨てたと思っていた黒猫は、3歩進むたびに振り返り、俺のことを見てきた。

まるで、「ついてきなよ」と言われているかのように。



自分には、もう何も残っていない。
この時には、この後どうなってもいいか、という開き直り感もあった。

本能に赴くまま、ついていくことにした。



たどり着いた先は、喫茶店のようだった。


黒猫は、なんの躊躇もなく、入っていく。


「え。俺に、ここに入れ、と?」


看板には、nanohanacafeと書いてあるから、喫茶店なのだろうけど、普段そんな場所には行かないし、価格帯がわからない。

外からは、店のメニューがわからない仕様だった。

所持金は、1000円札が2枚と、小銭が少しなのだけど。

まあ、お金は何とかなるだろうと思いつつ、未知の世界に飛び込むのに、時間を必要とした。



覚悟が決まらず、さらに身体の芯から冷え込んできた。

季節の移ろいを知らず、上着を羽織らずに、家を飛び出してきてしまつた数時間前の自分を軽蔑した。


きっかけを探しながら立ちつくしていると、カランカランと音が鳴り、ドアが開いた。

「みーちゃん、今日は帰りが遅かったじゃないか。早く休憩したいと思って、待ってたんだからな。」

ひとりの男性が、そう話しながら出てきた。


「…っ!!」


ふたりとも驚いて、腰を抜かすところだった。


これは、驚かせてしまった自分が悪いと思い、慌てて謝った。

「あっ、すみません。自分、不審者ですよね。黒猫についてきたら、ここにたどり着いたのですが、入る勇気が出なくて。お金もそんなに持っていないですし…。」


目の前にいた男性は、一瞬目を見開いた気がしたが、穏やかな表情でそこに立ち、俺の容姿を見て、こう言った。


「君、高校生?外、寒かったんじゃない?みーちゃんは、誘うのは得意だけど、最後の詰めが甘いんだよなあ。ごめんね、お待たせして。ここ、お客さんがあまり来ないんだけど、今日は誰かが来そうな気がして、中を温めておいたんだよ。きっと君のためだったんだね。まあ、細かいことは気にせず、まず入って。」


なんのはなし…?という言葉が口元まで出かけたが、男性は早々と店内に戻ってしまった。

寒かったのは事実だ。誘われるがままに入店した。


ドアの向こうにあったのは、初めてきた自分のことでさえ、両手で受け取ってもらえるような穏やかな温かみだった。


(後編に続く)

※後編は、こちら。




noteの街に、こそっと生まれた不思議な喫茶店で起こるお話の集合体です。

合言葉は、「#なんのはなしですか  」です。


【ちょっと寄り道 なおまけ話】


この物語の登場人物たちの多くは、noteの街にいるクリエイターからイメージして生まれています。

クリエイターさんからいただいているのは、登場人物のイメージのみです。関係性はまったく異なっておりますので、悪しからず。


nanohanacafe店主のイメージは、この方。


黒猫のイメージは、こちら。

いやいや。さすがに、
この並びは、恐れ多すぎるでしょ…。
コニシ木の子さんファンのみなさま、
めぐみティコファンのみなさま、
大変申し訳ございません。


黒猫の元飼い主のイメージは、この方。

※飼い主さんは、ただいま旅に出ていらっしゃるので、店主のもとに黒猫が預けられております。




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