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温かいスープは、過去と今をつなげる糸〔後編〕

こちらのお話は、下記記事の後編です。




温かいスープは、過去と今をつなげる糸〔前編〕 あらすじ

完全に高校にいけなくなって半年。毎日家族と上手く話ができない日々に終止符を打ちたくて、半年ぶりに高校の制服を着て、なけなしのお金を手に握り、家を飛び出してきた。

黒猫に導かれるままたどり着いた先は、男性が営む喫茶店?!

誘われるがままに入店してしまったけど、ここは社会との接続がない俺がいられる場所なのか。



好きな席に座っていいよと言われたから、暖炉の近くのテーブル席を選んだ。

無意識に選んだけど、やっぱり心の底から冷え切っていたみたいだ。

俺をここに連れてきた黒猫も、暖炉のそばにうずくまっている。

あたりを見回してみるが、メニューなど置かれているようには見えない。さて、どうすればいいのだろうか。


そう思っていたのを見透かされたのか、男性から話しかけられた。

「君、お腹空いてる?ちょうどまかない…という名の夕食を準備しようかと思っていたところだったんだけど、一緒にどうかな?」


「あ、お腹空いてます。…いただきます。」


「かしこまりました。ちょっと時間もらうので、これ飲んで待っててくださいね。」


そう言って出てきたのは、自分に似合わないおしゃれな花柄のティーカップだった。

「寒かったでしょ。はちみつ入りのカフェラテです。ミルク多めにしておきました。コーヒー初心者さんでも、飲みやすいかなと思って。あたたかいうちにどうぞ。」


「ありがとうございます。」


ティーカップを口元に近づけただけで、はちみつの甘い香りが鼻を刺激する。ひとくち飲むたびに、心のトゲが丸みを帯びていくようだった。


衝動的に家を出てしまったけど、帰ったほうがいいかな…。
まあ、俺のことなんか、心配してないか。


暖炉のところにいる黒猫を眺めながら、そんなことを思っていたら、食事が提供された。


「お待たせしました。あ、これはごちそうするから、遠慮せずに食べてね。その代わり、ここで一緒に食べていい?ひとりは、寂しいから。」


「あ、はい。もちろん大丈夫です。」


「お腹空いててさ〜。ちょっと準備しすぎちゃったんだよね。ちょうどよかったわ。」


いただきます、と手を合わせて、さっそくいただく。誰かと一緒にご飯を食べるなんて、いつぶりのことだろうか。なんだか、心がくすぐったいような、一言では表せない不思議な感じを覚えた


食事が乗ったテーブルに目を落とす。

まずは、湯気が出ていて、いかにも熱そうなスープに惹かれた。

スプーンですくい、口に入れる。味わいがとても深い。甘さは、玉ねぎかな。ベースがコンソメで、細かく刻まれた玉ねぎが柔らかく煮込まれていた。上にとろけるチーズが乗っている。スープの熱で、ほどよくとろけていた。


「おいしい…」


「野菜は冷凍のものを入れただけで、あとはコンソメ入れただけなんだけどね。それじゃあちょっと寂しいかなと思って、チーズを少しのせてみたよ」と苦笑しながら、教えてくれた。見かけによらず、おしゃれなものを作っている。



スープの隣には、ワンプレートで、ご飯とサラダ、ハンバーグがところ狭しと盛り付けられている。

ハンバーグとサラダには、和風ドレッシングがかけられていた。


「お腹空いてるかなと思って、ご飯大盛りにしといたよ。高校生なら、食べられるでしょ?」

普段、親が作ったご飯を食べ逃した時は、カップ麺とかで済ませがちで、普通の高校生より食べられる量は少ないかもしれない。

食べきれる自信はなかったけれど、どれもおいしくて、気づけばぺろっと食べきってしまった。


「美味しかったです。ごちそうさまでした。」


「いえいえ。むしろ、一緒に食べてくれてうれしかったよ。食後に何か飲む?今準備できるのは、コーヒー、カフェラテ、ココアかな。もう夜だし、ココアがオススメかな」

自分で決められないと思われたのか、オススメしてくれたココアをお願いした。


あたたかいココアを飲みながら、さっきまで食べていた食事を思い返していた。

初めてきた場所で、初めて食べる食事。そのはずなのに、なぜだか懐かしさを感じた。最近の記憶ではないのは確かだが、この感じはいつなんだ。


ホワっと広がる灯りの中に、子ども時代の自分が見える。

「あっ!!」


「どうかしましたか?」と声をかけられ、声が出てしまっていた事に気づいた。


「今日制服着てますけど、実は学校に行けていないんです。今日半年ぶりに、制服を着て日中外に出て、疲れてしまってベンチに座っていたら、ここに来ていて。家を出たのも、自分はこの家にいらない存在かもしれないと思ったんです。親は公務員と先生で、これまで自分のことを成績や点数ばかりで見ていたと思っていて。今の状況の自分でいるのが許せなくて、申し訳なくて、もう終わりにしたかった。さっきいただいたスープが、とても懐かしくて。何かなと思い返してみたら、小学2年生の頃の食卓でした。両親と3歳下の妹と、ダイニングテーブルにみんなで座って野菜たっぷりのコンソメスープを食べていた日の記憶です。」

ひと呼吸置く。
これ以上話しても…と思いつつも、その思考より言葉が先に出てしまう。

「あの日にあって、今ないものはなんだろう…と考えてみたんです。あの頃は、まだ、両親は自分のことを成績とか評価で見られていませんでした。今しんどいのは、学校にも行けなくなって、勉強できていない自分の姿でいるせいなのだな…と思って。」


静かな時間が流れた。
突然こんな身の上話されても、そりゃ困るよな。

「あ…すみません。なんのはなし?って思いますよね。」
俺は、俯くしかできなかった。


「ご両親や妹さんは、お元気ですか?」

唐突に家族のことを聞かれて、拍子抜けした。


「たぶん元気…。普段会わないから分からないけど。でも、心配かけていると思います。俺、親が作ってくれたご飯も、食べる権利ないと思って、毎回は食べないですし。それでも毎日作って置いといてくれるんです。たまに、みんなが寝静まった後で、食べることもあるんですけど。」

「そうですか。君の思っているほど、評価で君のことを見ていないと思いますよ。生きていて欲しい。健康でいて欲しい。ご家族が君に願うことって、ここなんじゃないですかね?もちろん、いい成績をおさめてほしいということは思ってるかもしれないですが、それは、健康に生きてこそ出てくる願いだと思うので。」


「そうかな…。」


「そして、ここで私とご飯を食べて、心の中から出てきたのが、家族団らんの思い出だったんでしょう?それって、ご家族からしたら、とてもうれしいことじゃないっすかねぇ。」

男性は、コーヒーを飲みながら、俺の目を見てしっかりと伝えてくれた。


「俺、大事な事を忘れていたかもしれません。ありがとうございます。今日は、ちゃんと家に帰ります。これ、少しですが…」


お金を出そうとしたら、拒まれた。


「それは、大切な時のために取っておいてください。今日は、私にとっても、日常の大事な瞬間に立ち会えたので、良い日でした。外寒いと思うので、私ので良ければ着て帰ってください。だいぶ古いものですが、せっかく身体をあたためたのに冷えてしまっては、切ないです。返却不要ですので、お気になさらず。」


パーカーを渡され、ありがたくお借りすることにした。


「また来ます。その時にいい報告できたら良いなと思っています。」


「無理せずね。来る時、うちの猫が案内したので、ほぼ覚えてないんじゃないかと思います。帰り道は、つきあたりを左に曲がって、そのまままっすぐ行くと、大通りに出るから、どこにいるかは、多分わかるはずです。次にお会いできることを、楽しみにしています。どうかお気をつけて。」


お礼を言い、お店を後にした。


普段出歩く時間は夜だから、この暗さの中を歩くのはさほど抵抗がない。だけど、いつものコンビニに行く時に感じる闇の深さとは、違うものを感じる。

たくさん食べたのに、不思議と身体が軽く感じられる。栄養が手の先まで行き渡って、元気がみなぎるようだった。


今までは、朝が来るのが怖かったけれど、その気持ちは薄まっていた。


家に帰ってすぐ自室に入り、布団にもぐった。


不思議な日だったなあ。
親の顔、見れるなあ。
明日は、ちゃんと起きて、朝ごはんを食べよう。


そんなことを思っているうちに、気づいたら眠りについていた。
翌朝まで、一度も起きることなく、ぐっすり眠った。


(完)



noteの街に、こそっと生まれた不思議な喫茶店で起こるお話の集合体です。

合言葉は、「 #なんのはなしですか 」です。


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