わたしいきてる〜第4話 ぴーちゃんドクターヘリで大学病院へ搬送される
午後4時頃、私たちがヘリポートに到着すると、ドクターヘリはすでに到着していた。
ヘリポートには安全確保のためなのかパトカーも来ている。
救急車からドクターヘリに乗り換え、ここからはまたドクターヘリ管轄の秋田赤十字病院の医師にバトンタッチされるそうだ。
私の脳はドクターヘリを見た瞬間に、緊張と不安をワクワクにすり替えたようだった。
私は、一生に一度乗れるか乗れないかわからない乗り物に乗ることへの興奮のようなものをおぼえた。
人間の脳は危険を回避するためにいろんなことをするのだと聞いたことがある。まさにそんな状況が私自身に起こった。
私の中で、衝動と理性の戦いが始まった瞬間だった。ドクターヘリの写真を撮りたい衝動を私は理性で抑え込んだ。
「狭いので頭、気を付けてくださいね。」
パイロットにそう促され、ドクターヘリの中に乗り込んだ。
ドクターヘリに入ってすぐ、その狭さと天井の低さにびっくりした。ここにスーツケースが載せられるわけがない。
後ろの座席は3席。パイロットと背中合わせのシートに看護師、その隣に医師、医師の前にストレッチャーに乗ったぴーちゃんがいる。
看護師の向かい側、すなわちぴーちゃんのストレッチャーの隣のシートが私の座席だった。
出発直前、シートベルトとヘッドホンを装着するように言われる。私はまるで、ドラマの中にいるようなフィクション感覚に陥った。
「出発します。」
パイロットの合図の後、ものすごい轟音が体中に響き渡った。ヘッドホンをしていなければいけない理由がよくわかる。
出発して数分後、眼下に自宅が見えてきた。さっきぴーちゃんが倒れ、救急車に乗り込んだ自宅、ぴーちゃんが今朝まで元気に遊んでいた場所だ。
あれからたったの数時間。自分がどこで何をしているのかわからないくらい、まるでジェットコースターにでも乗っているような、何かに突き動かされているようだ。
気を抜くとどこかに飛んで行ってしまいそうで必死に足元を意識する。
ふと、視線を感じ、その方向に視線を向けると、医師が心配そうな、不思議そうな顔をして私を見ていた。
私は、はっと現実に意識を戻し、ぴーちゃんを見た。ぴーちゃんは眠っている。
何もできないもどかしさに私はまた外に目をやり、雄大な自然の中に元気なぴーちゃんを映し出した。
* * *
はたから見たら、変なお母さんだったのかもしれない。娘を見ずに外を見て、泣くどころか、ドクターヘリにちょっと興奮したりして。
でも、まだ私の涙は一滴も出なかった。いや、出さなかった。
『もうここまで来たら私には眠っているぴーちゃんを見守ることしかできない』
私はこの数時間でそう悟ったのだった。
いくら私がぴーちゃんの母であっても、もうここからは医療にすべてを委ねるしかない。
そこに関してはなぜか自分でもびっくりするほど冷静だった。
私が泣いたってわめいたってぴーちゃんが意識を取り戻すわけではない。
【ここからぴーちゃんを救えるのは医療だけ】
冷静にそう思えた。
『大丈夫よ。』
友人のやっちゃん以外は、誰も口にすることのなかったその言葉。
それは、私が強く持ち続けると決めた。
『ぴーちゃんが元気になって、
またあの笑顔に会えるまで、私は絶対に泣かない』
濃緑の景色を眺めながら私はそう心に誓った。
5話へ続く
