わたしいきてる〜第9話 6時間にわたる手術終了と先生からの謝罪
「終わりました。
説明しますので相談室へどうぞ。」
ドアを開けたのは、執刀医の先生だった。手術開始から6時間経っていた。
「手術は終わりました。
ただ…前回の手術ではできるだけ脳を残したかったので、あまり脳を切除せず残したのですが…
今回は脳浮腫による脳の損傷が激しく、
脳幹も圧迫されており命が危なかったので、
救命を優先しました。
命を救うために、かなりの広い範囲で脳を切除しました。本当に申し訳ないです…
脳幹が圧迫されていた状態で、脳ヘルニアをおこしていましたので、脳幹のまわりにも隙間を作るためにそこも切除しました。
そしてですね、脳には血管がたくさんあるので、脳を切除すると当然のことながら、出血します。それで、ちょっと出血が多くて一時本当に危なかったんですね…その際に輸血をしました。
今回も原因部分の血管には到達できなかったので、状態が安定したらその血管の除去に進めていきます。」
私は、先生の話を真剣に聞いて、想像力でぴーちゃんに施された医療を理解しようと必死だった。
「ダメになった右側の脳のかなりの範囲を切除しました。そのため、体の状態が倒れた時と同じ状態になるかと思います。…本当に申し訳ないです。…あと状態がこのまま安定してくれればと…」
と、執刀医の先生は、言いにくそうに言った。
何重ものオブラートで言葉を包み、ショックをなるべく与えないように私たちを気遣っているのがよく分かった。
ふと横を見ると母が泣いている。
かたや私は理解するのに必死だから涙なんて一滴も出てこない。
『倒れた時と同じってことは、麻痺で歩けない?左側動かない?ってことなのかな?ということは車椅子か…』
「車いすってことですか?」
はっきりしたことを聞きたい私は率直に聞いた。
「…そう…ですね……倒れた時の状態と同じように左側に麻痺が残る状態かなと…。救命のためだったので……申し訳ないです…。」
と先生は同じ言葉を繰り返す。
『何で謝るんだろう…』
私は、先生がなぜ謝るのか不思議だった。
人は話し方や言葉に人間性が見え隠れする。
この先生は、きっと優しい人なのだろうと思った。
あんなにギリギリの状態で始めた手術がようやく終わって、ぴーちゃんはいのちを持ってICUに戻ってきた。
私は、ぴーちゃんのいのちを救ってもらえたことが、本当にありがたかった。
この後、寝たきりになろうとも
車椅子であろうとも、2度と歩けなかろうとも
ピアノが弾けなかろうとも、
いのちには代えられない。
ぴーちゃんのいのちがある。
それだけで十分だ。
いのちさえあれば何とかなる!
そんな気がした。
10話へ続く
