知るメモ|【フランス】|世界中に領土を持つ海洋国家?~今でも「帝国」の名残を持つ日本人が知らないフランスの意外な真実!
フランスは世界各地に海外領土を持っている。
植民地支配時代ははるか昔にもう終わっていると思っても、フランスはまだまだ多くの地域にフランス領が点在しています。
カリブ海にはグアドループやマルティニーク。
南米にはフランス領ギアナ。
インド洋にはレユニオン島やマヨット。
太平洋にはフランス領ポリネシアやニューカレドニア
これらの地域の多くは単なる植民地ではなく、フランス本土と同じ「フランス共和国の一部」として扱われ、住民はフランス国民であり、EU市民でもあるので、当然フランス大統領選挙にも投票できる。
日本の面積が約38万平方キロメートルであるのに対し、フランス本土(ヨーロッパ部分)は約55万平方キロメートル。
EU諸国の中では最大の陸地面積を誇るのでそれだけでも十分大きな国に見えますが、実はフランスが支配する海洋空間はその約20倍にも達します。
今回は、「海洋国家・フランス」という視点から、日本ではあまり知られていないフランスの真の姿を掘り下げていきましょう。
◆ヨーロッパだけじゃない!地球上に散らばる「太陽の沈まない国」
フランス本土はヨーロッパにありますが、フランス共和国の版図はそれにとどまらない。
「海外フランス」と総称される領土が、地球上のあらゆる海洋に点在しているのです。

これらは大きく次のカテゴリーに分かれます。
① 海外県・海外地域圏(DROM)── 5か所
フランス本土とまったく同じ法的地位を持つ地域です。
住民はフランス国民として完全な権利を持ち、ユーロが使用され、EU法も適用される。
グアドループ(カリブ海) ── 人口約40万人、熱帯の島嶼地帯
マルティニーク(カリブ海) ── 人口約35万人、クレオール文化の中心地
フランス領ギアナ(南米大陸) ── フランス最大の地域圏、ブラジルとスリナムに隣接
レユニオン(インド洋) ── 人口約90万人、アフリカ東岸沖の火山島
マヨット(インド洋) ── 2011年に最も新しい海外県となったインド洋の島
特にフランス領ギアナは、EUの一部でありながら南米大陸に存在するという特異な地域。
ここには欧州宇宙機関(ESA)のロケット発射基地「クールー宇宙センター」があり、アリアン5ロケットなどをこの地から打ち上げている。
熱帯雨林が全土の90%を覆い、その面積は約8.4万平方キロメートルと、日本の四国と九州を合わせた規模に匹敵します。
② 海外共同体(COM)── 5か所
本土と同じ法律は適用されないが、フランスの一部として国民議会に代表を送ることができる準自治的な地域です。
フランス領ポリネシア(太平洋) ── タヒチやボラボラ島を含む121の島と環礁
サン・ピエール・エ・ミクロン(カナダ沖、大西洋) ── かつての「新フランス」の名残
サン・バルテルミー(カリブ海) ── 富裕層向けリゾートとして知られる小島
サン・マルタン(カリブ海) ── 島の北半分がフランス領、南半分がオランダ領という分割統治の島
ワリス・エ・フテュナ(太平洋) ── 伝統的な王国制度が残るポリネシアの島
③ 特別地位領土──ニューカレドニア
ニューカレドニアは「スイ・ジェネリス(独自の地位)」という特殊なカテゴリーに置かれています。
フランスの一部でありながら、独自の市民権(ニューカレドニア市民権)が設けられ、フランス市民権と並立する形で存在している。
その複雑な政治的状況については後で書きます。
④ 無人の島嶼領土と南極領有権
フランスは「フランス南方・南極地域(TAAF)」として、インド洋の無人島(ケルゲレン諸島、クロゼ諸島、アムステルダム島など)と南極の一部を領有権として主張しています。
南極については1959年の南極条約により現在は凍結状態にありますが、領有権そのものはフランスが主張を続けている。
これらの領土が地球全体に散らばっているため、大英帝国やスペイン帝国がかつて誇った「太陽の沈まない国」という称号は、現代においてもフランスに当てはまるのです。
パリが真夜中でも、タヒチやニューカレドニア、ギアナのどこかで必ずフランス国旗に太陽の光が降り注いでいます。
◆世界一の海を支配する国?驚愕のEEZ(排他的経済水域)
これだけ広範な海外領土を持つことで、フランスはとてつもない「海の資産」を手に入れています。
「排他的経済水域(EEZ)」とは、沿岸国が資源の探査・開発について排他的(独占的)な権利を持つ海域のことで、沿岸から200海里(約370キロ)まで設定できます。
日本が「海洋国家」として世界第6位(約447万平方キロメートル)のEEZを誇ることは知られていますが、フランスのそれは日本をはるかに上回る広さです。
フランスのEEZは約1,019万〜1,169万平方キロメートルに及び、世界第1〜2位を争う規模です(測定方法や算定基準によって幅がある)。
フランス国土の陸地面積が地球全体の0.45%に過ぎないのに対し、EEZは世界のEEZ総面積の約7〜8%を占めています。
この広大な海洋圏の90%以上はインド太平洋地域に位置しており、フランス領ポリネシア、ニューカレドニア、レユニオンなどが主な寄与地域です。
海洋資源と未来のエネルギー
この広大な海域は、単なる「場所」ではありません。
未来の経済とテクノロジーを左右する宝の山です。
漁業資源:
太平洋やインド洋の豊かな漁場を排他的に利用できるため、マグロやエビなどの高級水産物の安定した供給源となります。深海底鉱物資源:
海底には、マンガン団塊やコバルトリッチクラストなど、スマートフォンや電気自動車のバッテリーに不可欠なレアメタル(希少金属)が大量に眠っているとされています。
フランスは国立海洋開発研究所(IFREMER)を通じて、この深海探査において世界トップクラスの技術を保持しています。海底ケーブル:
現代のインターネット通信の99%は海底ケーブルを経由しています。
世界中の海に自国の領土があるということは、通信インフラの重要な中継地点を自国のみの主権下で確保できることを意味します。
「おしゃれな農業国」というイメージの裏で、フランスは世界の大洋の資源と権益をコントロールする巨大な権力を持っているのです。
また、フランスは世界の海洋保護区の約22%を自国のEEZ内に設定しており、環境保全の観点でも特異な存在感を示している。
フランスが「インド太平洋戦略」を積極的に推進している背景には、この広大な海洋資源が関わっています。
◆フランスはEUで唯一の「インド太平洋国家」
実はEU加盟国の中で、本当にインド太平洋に領土と住民を持っている国はフランスだけです。
レユニオン島やマヨットはインド洋。
ニューカレドニアやフランス領ポリネシアは太平洋。
数百万人のフランス国民がヨーロッパ以外の海域で暮らしています。
近年、国際政治のニュースで「インド太平洋」という言葉をよく耳にするようになりました。
中国の海洋進出とアメリカの対抗により、この海域が21世紀の覇権を争う最重要エリアとなっているためです。
フランスはヨーロッパの国でありながら、インド太平洋地域の自国領土に数千人規模のフランス軍(海軍、陸軍、空軍)を常駐させています。
中国が太平洋の島国(ソロモン諸島など)への影響力を強める中、フランスは自国の領土と権益を守るため、そして地域のバランス・オブ・パワーを保つために、フリゲート艦や戦闘機を頻繁に展開している。
フランスはNATO(北大西洋条約機構)の主要メンバーであると同時に、太平洋においても独立した軍事プレイヤーとして振る舞っているのです。
日本との「特別なパートナーシップ」
こうした地政学的な背景から、近年、日本とフランスの安全保障面での結びつきが急速に強まっています。
日本にとって、フランスは単なる「ヨーロッパの友好国」ではなく、「同じ太平洋に領土を持ち、海洋の自由と法の支配という価値観を共有する隣国」になりつつあります。
実際、海上自衛隊とフランス海軍は、頻繁に共同訓練を実施しており、有事の際の協力体制の構築を進めています。
フランスが実は日本での太平洋の安全保障において、極めて重要な役割を担う同盟国的な存在になっているのです。
◆南米大陸にある「EU」と、フランスを支える宇宙開発の最前線
フランスの海外領土の中でも、とりわけ異彩を放つのが南米大陸の北東部に位置する「フランス領ギアナ」です。
ギアナは島ではなく、ブラジルとスリナムに挟まれた広大な南アメリカ大陸の一部。
面積は北海道とほぼ同じ(約8.3万平方キロメートル)ですが、その9割以上が深いアマゾンの熱帯雨林に覆われています。
ここは南米にありながらフランスの一部であるため、南米大陸で唯一、ユーロが使え、EUの法律が適用される場所となっています。
かつてこの地は、映画「パピヨン」の舞台にもなった過酷な「流刑地」としての暗い歴史を持っていました。
しかし現在、ギアナはフランス、そしてヨーロッパ全体にとって、絶対に手放すことのできない「超重要拠点」へと変貌を遂げています。
その理由が「宇宙開発」です。
ギアナの海沿いの町クールーには、欧州宇宙機関(ESA)の主力ロケット発射場である「ギアナ宇宙センター」があります。
日本のJAXAにおける種子島宇宙センターのような場所ですが、クールーには世界中のどのロケット発射場にも負けない、地理的な「大いなる強み」があります。
なぜギアナが宇宙センターに選ばれたのか?
赤道に極めて近い(北緯5度):
地球は自転しているため、赤道に近いほど遠心力(外側に向かって引っ張られるように感じる慣性力)が強く働きます。
この自転のスピードを利用してロケットを打ち上げると、より少ない燃料でより重い人工衛星を軌道に乗せることができる。
クールーから打ち上げるロケットは、アメリカのケネディ宇宙センター(フロリダ州)から打ち上げるよりも約15%も有利だと言われています。安全な打ち上げ経路:
東と北が海に開けているため、ロケットの切り離されたブースターが落下しても安全が確保しやすい地形です。ハリケーンや地震が少ない:
気候が安定しており、自然災害による打ち上げ延期のリスクが低く抑えられます。
フランスが世界有数の宇宙大国・軍事大国として人工衛星を自在に打ち上げ、ヨーロッパ諸国がアメリカやロシアに依存せずに独自の宇宙開発を進められるのは、この「南米にあるフランスのジャングル」のおかげなのです。
◆海外領土の人々はなぜ独立しないのか?「帝国」の複雑な実情
ここで一つの疑問が浮かびます。
1950年代から60年代にかけて、アジアやアフリカの多くの植民地が独立を果たしました。
フランスもアルジェリアやベトナム(仏領インドシナ)などで凄惨な独立戦争を経験し、多くの領土を手放しています。
ではなぜ、タヒチやニューカレドニア、ギアナなどは、現在もフランスの一部に留まっているのでしょうか?
① 経済的な圧倒的恩恵
最も大きな理由は「お金」と「インフラ」です。
フランス本土からは、これらの海外領土に対して莫大な国家予算(補助金や公共投資)が注ぎ込まれています。
これにより、周辺の独立した島国(たとえばカリブ海のハイチや、インド洋のコモロ、太平洋のバヌアツなど)と比較して、フランスの海外領土は道路、医療、教育、社会保障のレベルが桁違いに高く維持されている。
完全な独立を選べば、本土からの資金援助が打ち切られ、一気に最貧国に転落してしまう恐れがあるため、住民の多くが「独立よりもフランス残留(あるいは高度な自治の維持)」を望んできました。
② EU市民としてのパスポート
海外領土の住民はフランス国民であると同時に「EU市民」です。
ビザなしでヨーロッパ全土に渡航し、働き、学ぶことができる強力なパスポートを持っています。
この特権を手放すことは、若者たちにとって大きなデメリットになります。
しかし、拭いきれない「格差」と「葛藤」
とはいえ、すべてが順風満帆というわけではありません。
海外領土が抱える闇は深く、現在進行形の社会問題となっています。
「フランス共和国の自由・平等・博愛」という理念の下にありながら、植民地時代の不平等な構造が完全には解消されていない。
これが、現代のフランスが抱える「帝国の名残」のリアルな姿です。
失業率と物価高:
本土からの輸入品に頼る経済構造のため、生活物価が非常に高いのが特徴です。
一方で産業が乏しく、若者の失業率は本土よりも遥かに高く(地域によっては20%〜30%に達します)、たびたび大規模な暴動やストライキが起きています。アイデンティティと先住民問題:
とりわけ問題が深刻なのが南太平洋のニューカレドニアです。
ここでは、先住民のカナク人と、フランス系移民(カルドッシュ)の間で長年対立が続いています。
◆「ニューカレドニア」21世紀の脱植民地化問題
2024年5月、ニューカレドニアで大規模な暴動が勃発した。
死者14人、経済的損害は約20億ユーロ(約3,200億円相当)、GDPの10%が失われたとも言われる。
引き金となったのは、フランス議会が強行した「有権者資格の拡大」に関する選挙法改正でした。
ニューカレドニアは1998年のヌメア協定により、地方選挙の有権者を1998年以前から10年以上居住している住民に限定していた。
これは先住民族のカナク人が人口増加する「新参フランス人」によって政治的マイノリティになることを防ぐための措置でした。
しかし、その後も約4万人のフランス本土出身者がニューカレドニアに移住してきており、「この人たちが投票できないのはおかしい」とするフランス本土側の論理と、「自決権が奪われる」とするカナク人の論理が激しくぶつかった結果が、2024年の暴力的衝突だったのです。
ニューカレドニアが持つ地政学的重要性も、事態を複雑にしている。
同地は世界有数のニッケル産出地であり、電気自動車のバッテリーに不可欠な戦略資源としてその価値が高まっている。
フランスとしては、太平洋における戦略的拠点であるニューカレドニアを容易に手放せない。
2025年7月、マクロン大統領の主導のもとでの10日間に及ぶ交渉の末、「フランス共和国内のニューカレドニア国家」という新たな地位を創設する「ブジバル合意」が成立しました。
フランスとの連帯は維持しつつ、独自のカレドニア国籍を設けるという歴史的な妥協案です。
しかしこの合意も、2025年12月の時点では独立派の主力連合FLNKS(カナク社会主義民族解放戦線)が支持を撤回し、ニューカレドニア議会の投票は賛成19・反対14・棄権19という分断を反映した結果となった。
2026年の住民投票に向けて、交渉はなお続いている。
◆フランス語という「帝国のソフトパワー」
フランスの世界的影響力を語るとき、軍事力や海洋権益と並んで欠かせないのが「フランス語」です。
日本ではその存在は知っていてもあまり聞かない言語だと思いますが、2026年時点のフランコフォニー国際機関(OIF)の最新報告書によると、フランス語話者は世界で約3億9,600万人に達し、英語・中国語・スペイン語に次ぐ世界第4位の話者数を誇る。
注目すべきは、その増加割合。
2014年の2億7,400万人から2026年には3億9,600万人へと急増しており、その成長の原動力はほぼすべてアフリカ大陸です。
現在、フランス語話者の約65%がアフリカに住んでいる。
フランス語を話す人が最も多い国はフランス本土ではなく、コンゴ民主共和国と言われるほど。
コンゴ民主共和国の人口は2026年時点で約1億1,000万人に達しており、そのうち日常的にフランス語を使用できる人は6,000万~7,000万人規模とされています。
フランス語の重心はすでにヨーロッパからアフリカへ移りつつあり、「フランス語の未来はパリではなくキンシャサ(コンゴ民主共和国の首都)で決まる」とさえ言われている。
人口増加が著しいサブサハラアフリカ(北アフリカを除くアフリカ地域)において、フランス語は教育言語・行政言語として機能し続けており、2050年には世界のフランス語話者が6億人に迫るとの予測もある。
フランスはこのネットワークを「フランコフォニー」として制度化し、現在90か国・政府が加盟する国際機関を通じて、文化・教育・経済協力を展開している。
アライアンス・フランセーズは世界130か国以上に約800か所の拠点を持ち、約50万人の語学学習者を抱える。
ただし、近年のサヘル諸国(サハラ砂漠の南縁部に広がる半乾燥地帯)ではフランス語の公的地位を見直す動きも広がっており、「フランス語圏の拡大」と「旧宗主国フランス離れ」が同時進行するという、興味深い現象が起きている。
◆観光とブランドだけじゃない!フランスが世界で「本当に稼いでいる」意外な錬金術
日本人がフランスに対して抱くイメージは、
観光
ワイン
ブランド品
美食
くらいなので、そんな国がなぜ核保有国で、なぜ世界中に軍隊を展開できるほどの力があるのか?が見えにくい気がします。
フランス経済の全体像はもっとはるかに複雑で、しかも「知られざる稼ぎ頭」が存在します。
GDP世界第7位という規模を支えているのは、4つの柱です。
柱① 「観光」来訪者数世界一だが、実は収益効率に課題がある
フランスは2024年に史上初の1億人超という国際旅行者数を記録し、世界で最も多くの人が訪れる国となっています。
2025年にも1億200万人が訪れ、国際観光収入は前年比9%増の775億ユーロ(約12兆円)という過去最高を更新した。
観光はGDPの約9%を占め、約293万人の雇用を支えている。
しかしここに「フランスの観光の皮肉」がある。
来訪者数は世界一なのに、観光収入ではスペインやアメリカに大きく後れをとっているのだ。
フランスに来る旅行者の多くは「ヨーロッパ周遊の途中でパリに2〜3日立ち寄る」という短期滞在型で、一人当たりの消費額が低い。
スペインでは観光客一人が1日あたり平均約1,000ユーロを消費するのに対し、フランスでは約650ユーロにとどまる。
では、フランスという国家は一体何で莫大な外貨を稼ぎ、経済大国としての地位を保っているのでしょうか?
その答えは、残り3つの柱となる「超ハイテクな重厚長大産業」と「人間の欲望を刺激する超高利益率ビジネス」という、極端な二極の組み合わせにあります。
柱② 「ラグジュアリー産業」フランスブランドは国家戦略である
世界のラグジュアリー市場を圧倒的に支配しているのもフランスです。
その中心にあるのがLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループ。
LVMHは2024年に約847億ユーロ(約14兆円)の売上を計上し、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、ティファニー、ブルガリなど75以上のラグジュアリーブランドを傘下に収める世界最大の高級品複合企業です。
ファッション・革製品部門だけで2024年に約411億ユーロを稼ぎ、ルイ・ヴィトン単独の売上高は200億ユーロを超える。
LVMHはフランス国内でも最大の法人税納税者であり、フランスに117か所の生産施設を持ち、約4万人の職人を雇用している。
さらにLVMHの傘下に収まらない大手も含めると、フランスのラグジュアリー産業の「フランス経済への貢献」は計り知れない。
シャネル、エルメス、カルティエ(リシュモングループ傘下だがフランス発祥)、イヴ・サンローラン(ケリング傘下)、ロレアル(化粧品)……いずれも世界市場でフランスのプレゼンスを体現するブランドとなっている。
「ラグジュアリー産業はフランスの国家戦略だ」と言っても過言ではない。
フランス政府は「メゾン」文化を政策的に保護しており、その存在がフランス語・フランス文化の世界的な影響力とも不可分に結びついている。
職人の手作業や歴史的ストーリーを付加価値に変え、原価の何十倍もの価格で商品を売る「超高利益率モデル」を完成させているのです。
柱③ 「航空宇宙・防衛産業」武器輸出大国という意外な顔
フランスが世界第2位の武器輸出国である。
1位はぶっちぎりでアメリカですが、2019〜2023年の5年間で、フランスは世界の武器輸出シェアの約11%を占め、ロシアを抜いて第2位に浮上しています。
2024年の防衛輸出受注額は過去2番目に高い180億ユーロ超(約3兆円)を記録している。
主な輸出品目はダッソー社製の戦闘機「ラファール」と、海軍グループが製造する潜水艦。
インド、インドネシア、ギリシャ、UAE、エジプトなどが主要な顧客で、ウクライナ紛争を受けてヨーロッパ各国からの需要も急増している。
民間航空においても、フランスは世界最大級の航空機製造会社「エアバス」の本拠地国です(正確にはフランス、ドイツ、スペイン、イギリスの4カ国の共同出資によるEU合弁企業だが、本社はオランダ、主要製造拠点はフランス・トゥールーズ)。
ボーイング737 MAXの安全問題もあいまって、エアバスの受注残は記録的な水準に達している。
航空宇宙産業のフランス輸出総額は2023年時点で約702億ユーロ(その7割が輸出)に達しています。
加えて、フランス領ギアナの「クールー宇宙センター」を拠点とする欧州宇宙機関のアリアン6ロケットも、商業衛星打ち上げ市場でフランスの存在感を高める戦略資産です。
柱④ 「農業と食品」意外な農業大国フランス
フランスは「ファッションと芸術の国」のイメージが強いですが、実はEU最大の農業生産国であり、小麦・スペルト小麦・乳製品においては世界有数の輸出国でもある。
農業はGDPに占める割合こそ約2%と小さいが、食品加工業を含めると経済への貢献は非常に大きい。
ワインは特に象徴的で、フランスはシャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュなどの産地ブランドを活かした高付加価値輸出で世界市場を席巻している。
LVMHのモエ・エ・シャンドンやドン・ペリニョンもこの農業・食品産業と一体化したビジネスモデルです。
フランスが賢いのは、単に小麦やブドウを大量に安く売るのではなく、そこに「ブランド」と「法律(原産地呼称統制:AOC)」を絡め、徹底的に高付加価値化している点です。
「シャンパーニュ地方で作られた発泡ワインしか「シャンパン」と名乗れない」といった厳格なルールを世界に認めさせることで、単なる農産物を「高級品」として輸出し、強気な価格設定で稼ぎ続けています。
◆フランスの「見えない競争力」原子力エネルギー戦略の全貌
フランスはもともと石炭も石油も天然ガスもほとんど産出しない「資源貧国」です。
1973年の第一次オイルショックの際、当時のフランスは電力の相当部分を石油火力で賄っており、エネルギー価格の急騰と供給不安が経済に深刻なダメージを与えました。
この危機を受けてフランス政府が下した決断が、
「国家の総力を挙げて原子力発電所を一気に建設する」
というものだったのです。
1974年から1990年にかけて、フランスは猛烈なペースで52基もの原子力発電所を建設・稼働させた。
結果として1980年代半ばには原子力が発電量に占める割合が70%を超え、フランスは「電力の自給自足」に近い状態を実現したのです。
現在のフランス原子力の規模
2024年時点でフランスは19か所の発電所に57基の原子炉を抱え、総設備容量は約63ギガワット(GW)と、米国に次ぐ世界第2位の規模です。
2024年の原子力発電量は約361テラワット時(TWh)で、電力総生産に占める割合は約67%。
これは原子力比率が世界最大であり、アメリカの約20%、日本の数%と比べてもその突出ぶりは明らかです。
2024年12月には、1999年以来25年ぶりとなる新型原子炉「フラマンヴィル3号機(EPR型)」がついに送電網に接続されました。
完成に17年以上かかり、建設コストも当初見積の3億ユーロから最終的に230億ユーロ超へと70倍以上に膨らむという前代未聞の遅延・費用超過を経ての稼働でしたが、フランスの「原子力への揺るぎない意志」を示す象徴的な出来事として受け取られています。
電力輸出大国としてのフランス
「フランスは電力を輸出している」という事実も、日本ではあまり知られていないかもしれません。
フランスは30年以上にわたってヨーロッパ最大の電力輸出国の地位にある(2022年のみ、原子炉の大量メンテナンス問題で例外的に輸入超過となった)。
2024年には電力輸出が前年比48%増の約103TWhに達し、電力輸出収益は50億ユーロ(約8,200億円)という過去最高水準を記録した。
2025年にはさらに拡大し、電力輸出量は92.5TWhと新記録を更新、輸出収益は54億ユーロとなっています。
隣国ベルギー、ドイツ、イタリア、英国、スイス、スペインへフランスの原子力電力が流れていく構図は、「エネルギー版の経済覇権」とも言えるでしょう。
特に、脱原発を選択したドイツとの対比は鮮明で、ドイツの家庭用電気料金は約0.31ユーロ/kWhであるのに対し、フランスは約0.22〜0.25ユーロ/kWhと2〜3割安い。
産業用に至ってはフランス(約0.14ユーロ/kWh)とドイツ(約0.19〜0.22ユーロ/kWh)の差はさらに大きく、30〜50%のコスト優位がフランスの製造業の競争力を下支えしている。
また、フランスの電力は約95〜96%が原子力・水力・再生可能エネルギーによる低炭素電源で構成されており、CO₂排出量は約60g/kWhと世界有数の「クリーンな電力」国家でもある。
「脱炭素と産業競争力の両立」という難題を、フランスは原子力によって解決しているのです。
「エネルギー独立」という神話と、ウランの地政学
ただし一つだけ問題があります。
フランスは実はウランを2001年以降、国内で1グラムも産出していない。
すべて輸入に頼っている。
2022年時点の輸入元はカザフスタン(37%)、ニジェール(20%)、ナミビア(16%)、オーストラリア(14%)、ウズベキスタン(13%)という構成でした。
特に長年の主要なパートナーだったのが、アフリカ西部にある内陸国「ニジェール」です。
フランスの国営核燃料会社オラノ(旧アレバ)は、1970年代からニジェール北部のアルリットで採掘を続けてきた。
ニジェールのウランは単に民間発電用だけでなく、核兵器用として「自由使用可能」な分類(軍民両用フリー)であり、フランスの核抑止力を支える軍事ウランの重要な供給源でもあった。
しかし2023年7月、ニジェールでクーデターが発生し、軍事政権がフランスとの関係を断絶。
オラノはウラン採掘事業から事実上撤退を余儀なくされた。
ニジェールをはじめとするサヘル地域から約3分の1のウランを調達していたフランスにとって、これは安全保障上の深刻な打撃となりました。
さらに厄介な問題がまだあります。
代替調達先のカザフスタンやウズベキスタンは内陸国であり、ウランを西方に輸送するにはロシア領土を経由するという地理的制約がある。
表向き「ロシアから独立した」フランスの核エネルギーが、実はウラン輸送のルートでロシアの「間接的な影響圏」に入っている。
賭けか?フランスの原子力新増設計画
こうした課題を抱えながらも、フランスはさらなる原子力拡大へと舵を切っています。
マクロン大統領は2022年のベルフォール演説で、新型EPR2炉を6基建設(さらに8基追加の可能性も検討)する方針を表明。
2023年の原子力加速法により許認可手続きが簡略化された。
6基のEPR2炉の建設費用の計画総額は約800億ユーロ(約13兆円)とも言われる。(過去には建設費の大幅超過や工期遅延も発生しており、最終的な負担はさらに膨らむ可能性がある。)
最初の原子炉が稼働するのは早くても2038年前後と見込まれている。
この計画をめぐっては批判もある一方で、AIデータセンターの急増や電気自動車の普及によるエネルギー需要の増大を見越した「先見の明ある選択」との評価もある。
実際、フランス政府は豊富で安価な低炭素電力を武器に製造業を国内へ呼び戻す「再工業化」を推進している。
もし成功すれば、フランスは欧州最大級の電力供給国として競争力を維持できる。
しかし失敗すれば、莫大な建設費だけが残る。
原発大国フランスは今、数十年先の未来を見据えた巨大な国家的賭けに出ているのです。
◆日仏の「国家間の結びつき」は意外なほど薄い?
日本もフランスも共にG7に名を連ねる先進国であり、互いの文化(芸術、食、アニメなど)を深く愛好し合う関係にあります。
それにもかかわらず、政治や歴史の教科書を振り返ってみると、日仏の歴史的な関係はそこまで濃密ではない。
その理由は、幕末から明治にかけての「歴史の巡り合わせの悪さ」と、両国の「国家戦略の決定的な違い」に集約されます。
大きく4つの視点から、その背景を紐解いてみましょう。
1. 幕末の「賭け」に負けたフランス
日仏関係が政治的に出遅れた最大の理由は、幕末の動乱期における「支援先の選択ミス」です。
19世紀半ば、日本が開国して西洋列強が押し寄せてきた際、イギリスとフランスは日本国内の勢力争いにおいて真っ二つに分かれました。
イギリス: 薩摩藩・長州藩(倒幕派=後の明治新政府)を支援。
フランス: 江戸幕府(徳川慶喜)を支援。
フランスは幕府に巨額の資金援助を行い、横須賀製鉄所(造船所)の建設を支援し、軍事顧問団を派遣して幕府陸軍の近代化を強力に推し進めました。
しかし、ご存知の通り戊辰戦争で幕府は敗北。
結果として、勝利した明治新政府の中枢にはイギリスと結びつきの強い薩摩・長州の出身者が座ることになり、政治・外交面でのフランスの影響力は明治初期の段階で大きく後退することになってしまったのです。
2. 「フランス式」から「ドイツ式」への乗り換え
それでも明治新政府は当初、近代化のモデルとしてフランスの制度を取り入れようとしました。
特に「陸軍」と「法律(民法)」はフランス式を採用してスタートしています。
しかし、ここでまたしても歴史のいたずらが起きます。
1870年の「普仏戦争(プロイセン・フランス戦争)」です。
この戦争で、ヨーロッパ最強と思われていたフランス帝国(ナポレオン3世)が、新興国プロイセン(後のドイツ帝国)に呆気なく大敗を喫してしまったのです。
これを見た明治政府の首脳陣は衝撃を受け、国家方針を大きく転換します。
陸軍は「勝った方の軍制を学ぶべきだ」という現実的な判断。
法律は、フランスの「共和制」よりも天皇制と相性が良かった君主権の強いドイツ式が採用された。
国家の骨格となる「軍事」と「憲法」においてドイツ式が採用されたことで、日本は「イギリス(海軍・外交)とドイツ(陸軍・政治体制)から学ぶ国」となり、国家運営の根幹においてフランスの入る隙間がなくなってしまったのです。
3. アジアでの「棲み分け」と直接的対立の欠如
戦前の帝国主義時代、列強はアジアで植民地争いを繰り広げましたが、ここでも日本とフランスの利害は良くも悪くも「すれ違って」いました。
フランスの関心:
主にインドシナ半島(現在のベトナム、ラオス、カンボジア)。日本の関心:
朝鮮半島、満州、中国大陸北部。
日本にとって、安全保障上の最大の脅威(または競合相手)はロシア、イギリス、そしてアメリカでした。
フランスはアジアに広大な植民地(仏領インドシナ)を持っていたものの、日本の直接的な勢力圏とは少し距離があったため、激しく衝突することもなければ、日英同盟のように強固な軍事同盟を結ぶ必要性も薄かったのです。
(※第二次世界大戦における日本軍の仏印進駐という例外的な衝突を除きます)。
4. 戦後の「対米追従」と「独自路線」
第二次世界大戦後、日仏の政治的距離が縮まらなかった理由は「冷戦下の外交スタンス」の違いです。
敗戦後の日本は、日米安全保障条約を基軸とし、外交・軍事において完全に「アメリカの傘下(対米協調路線)」に入りました。
一方のフランスは、ド・ゴール大統領の指導のもと「独自の非米路線」を突き進みます。
NATOの軍事機構から一時離脱し、アメリカの意向を無視して中国(中華人民共和国)を西側諸国でいち早く承認し、独自の核武装まで成し遂げた。
「アメリカと常に足並みを揃える日本」と、「アメリカとは一線を画し、大国としての独自性を誇示するフランス」。
両者の外交方針は水と油であり、冷戦時代を通じて政治・安全保障面で深く交わることはありませんでした。
フランスは日本の近代化に大きな足跡を残した。
しかし幕末には幕府側につき、明治になるとドイツに主導権を奪われ、戦後はアメリカ中心の国際秩序の中で日本との距離は広がった。
その結果、日仏関係は日米同盟のような政治的な結び付きも、日中関係のような複雑な歴史問題も持たない、どこか不思議な関係となったのでしょう。
しかしその代わりに両国を結んだのは軍事や外交ではなく文化だった。
19世紀のジャポニスムから21世紀のアニメ・漫画まで、日本とフランスは政治よりも芸術によって互いを理解してきたのです。
◆まとめ
フランスは脱植民地化の時代を経た後も、公式には「植民地」を持たない形のまま、世界全土に自国の一部を維持し続けています。
しかし現実には、核実験の後遺症、貧困格差、独立運動、天災への対応の格差など、「帝国」の負の側面もそのまま引き継がれている部分がある。
世界最大級のEEZを持ち、12のタイムゾーンにまたがり、約3億9,600万人のフランス語話者を擁し、インド太平洋の地政学的プレーヤーとして動くフランス。
次に国際ニュースでフランスの大統領の動向を目にしたり、スーパーでフランス産のワインを手に取ったりしたときは、ぜひ一度、頭の中で地球儀を回してみてください。
カリブ海の熱い太陽の下、南米の鬱蒼としたジャングル、あるいは絶海の孤島で揺れるトリコロールの存在に思いを馳せるとき、あなたの「フランス」という国への見方は、これまでとは全く違った、より立体的でスリリングなものに変わるはずです!
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