知るメモ|【「専業主婦」の第3号被保険者を廃止】|出生率への影響は?~フランス・北欧が成功し、日本・韓国が苦戦している原因!
「専業主婦が多い国ほど少子化が進む」
そう言われると、直感的に違和感を覚える人もいるかもしれません。
「専業主婦なら時間があって子育てしやすいはずでは?」と。
でも、データを見ると、事実はほぼ逆を表しています。
北欧やフランスのように女性の就業率が高い国ほど出生率は高く、日本や韓国のように専業主婦・家庭依存型の育児文化が根強い国ほど、出生率は世界最低水準に沈んでいる。
いったい、なぜなのか?
そしてそこには、単純な「女性が働くから子どもを産まない」という話ではない、もっと深い構造的な問題が隠れています。
今回は、専業主婦の現状から始まり、国際比較、そして出生率を左右する社会制度の本質まで、できるだけ丁寧に解き明かしていきたいと思います。
1.「専業主婦」は今、どのくらいいるのか?
急激に減った専業主婦世帯
日本における専業主婦世帯と共働き世帯の逆転は、すでに1990年代前半に起きています。
総務省「労働力調査」によれば、2024年時点で共働き世帯は1,300万世帯に達し、専業主婦世帯(508万世帯)の約2.6倍にのぼる。
夫婦のいる世帯全体に占める共働き世帯の割合は約71.9%です。
1980年代には専業主婦世帯が全体の6割以上を占めていたことを考えると、この変化は社会の大転換と言っていいでしょう。
さらに注目すべきは、出産適齢期にある25〜34歳の女性の専業主婦率の変化です。
2003年には59.2%だったこの年齢層の専業主婦割合が、2014年には46.2%、そして2024年にはわずか23.4%にまで落ち込んでいる。
10年で半減したことになります。
ただし、「専業主婦になりたい」という意識がなくなったわけではない。
ソニー生命の調査では、働く女性の約3割が「本当は専業主婦になりたい」と回答している。
にもかかわらず、実際には専業主婦になれないか、ならない選択をしている女性が増えているのです。
その背景の一つが、経済的な事情。
1994年に664万円あった1世帯あたりの平均所得は、2023年には536万円まで低下している。
長引く賃金の停滞と物価上昇の中で、「一人の収入だけでは家計を支えきれない」という現実が、共働きを事実上の必然にしているのでしょう。
制度の矛盾:「専業主婦優遇」が残る日本
社会の実態は「共働き主流」に変わっているにもかかわらず、税や社会保障の制度は依然として「専業主婦がいる家庭」を前提に設計されたままという状況があります。
その象徴が「第3号被保険者制度」です。
会社員・公務員(第2号被保険者)に扶養される配偶者は、年収130万円未満であれば、自分で年金保険料を払わなくても、老齢基礎年金の受給権を得られる。
費用は、独身者も含む厚生年金加入者全体が実質的に負担する仕組みです。
この制度には長年、様々な批判がある。
片働き世帯を優遇し、共働きとの公平性を欠く
「年収の壁」(130万円を超えると扶養から外れる)が女性の就労意欲を抑制する
育児・介護などの事情がない場合も、働かない選択をした人が保険料免除の恩恵を受ける
現在ニュース等でも報じられているように、政府は第3号被保険者制度の廃止を検討する方向性を示し、これまで先送りにしていた本格的な議論を進めようとしています。
そもそも「第3号被保険者」とは?なぜ廃止が議論されているのか
まずは議論の出発点である「第3号被保険者制度」と、それが生み出している現代の歪みについて整理しておきましょう。
昭和の「専業主婦モデル」が生んだ優遇制度
国民年金の「第3号被保険者」とは、会社員や公務員(第2号被保険者)に扶養されている配偶者(年収130万円未満など)を指します。
制度上、男女で取扱いに差はなく、妻が会社員(第2号被保険者)で夫がその扶養に入っている場合、男性も「第3号被保険者(専業主夫など)」となることが可能ですが、現状対象者の圧倒的多数が女性であるため、事実上「専業主婦(およびパート主婦)のための年金制度」となっています。
この制度の最大の特徴は、「自分で保険料を直接納めなくても、将来、基礎年金を受け取ることができる」という点です。
1986年の制度導入当時は、「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という専業主婦世帯が多数派であり、内助の功を評価し、女性の無年金状態を防ぐという重要な役割を果たしていました。
現代における巨大な矛盾と「年収の壁」
しかし、導入から約40年が経過し、社会の実態は激変しました。
現在では共働き世帯が専業主婦世帯の2倍以上となり、共働きが当たり前の社会になっています。
ここで大きな問題となっているのが、この制度が作り出す「年収の壁(130万円の壁など)」です。
妻がパートで働き、年収が一定額を超えて「扶養」から外れると、自分で社会保険料(年金・健康保険)を支払う義務が生じます。
すると、手取り収入が逆転して減ってしまう現象が起きます。
そのため、多くの女性が「保険料を払うくらいなら、労働時間を抑えて扶養の範囲内(第3号)にとどまろう」と就労調整を行っています。
これが何を意味するのかと言えば、本来であればもっと働いて稼ぐ力がある女性たちの労働力を、国や制度自らが抑制し、女性を低賃金の非正規雇用に押し込める強烈な動機付けとして働いてしまっているということです。
2.なぜ「専業主婦が多い国」では出生率が下がるのか
「女性が家にいて子育てに専念できる方が、子どもは増えそう」こう思うのが自然ですが、実際の現実では逆になっています。
その答えは「育児負担の配分」と「制度設計の思想」にあります。
専業主婦を前提とした社会では、育児は「母親が家庭でやるもの」という暗黙の規範が強くなる。
保育施設は整備されにくく、育児休業の取得も女性に偏り、夫が育児に参加する文化も育ちにくい。
その結果、女性にとって「子どもを産む=キャリアを失う」という構図が強化される。
一方で、現代社会では多くの女性が高い教育を受け、キャリアへの意欲も持っています。
「仕事か、育児か」という二択を迫られると、女性たちは「結婚・出産をしない」か「出産しても子供は一人だけ」という選択に向かう。
これが少子化の正体でしょう。
「女性就業率が高い国ほど出生率が高い」
これはもはや国際的な共通認識となっているデータです。
OECD諸国の中で、北欧やフランスのように女性が高い水準で就業している国ほど出生率が高く、日本・韓国・南欧のように女性の就業が不安定または家庭依存型の国ほど出生率が低い傾向が明確に見られています。
ただし、重要な前提がありそれは「女性が働いている」だけでは不十分で、「働きながら育てられる環境が整っているか」が決定的に重要なことなのです。
3.成功例「フランスと北欧」はなぜうまくいったのか
フランス:「産めば産むほど有利」な社会設計
フランスの合計特殊出生率は2020年時点でEU内最高の1.83を記録し(近年は下落傾向があるものの)、少子化対策の成功例として世界から注目されてきました。
フランスが成功した理由は、1990年代以降に取り組んできた3つの柱に集約されます。
① 子どもがいても経済的負担が増えない仕組み
フランスの家族手当制度は、2子以上を育てる家庭に「所得制限なし」で20歳になるまで給付が続く。
さらに子どもが増えるほど税負担が減る「N分N乗方式」により、第3子以上の多子家庭は大幅な所得税減税を受けられる。
家庭所得が多くても「産めば産むほど有利なシステム」と言われる所以です。
妊娠・出産費用も基本的に無料、3歳から幼稚園の教育費は無料、大学・大学院の学費も年間数万円程度。
一家庭が子供を持つ事での経済的なハードルが根本的に低いです。
② 保育制度の拡充
3歳未満の子ども向けには、認定保育ママ(保育ママが自宅で数人の子どもを預かるサービス)や低額のベビーシッターが広く利用可能で、公的補助も充実している。
また、フランスではほとんどの子どもが3歳から幼稚園に通うため、保育の問題が3歳未満に限定されやすいという構造的な利点もあります。
③ 「働く」か「育てる」かではなく、「選べる」設計
フランスでは仕事を中断して育児に専念した場合の「養育手当」も設けられており、就労するもしないも、どちらも国が支援する姿勢が貫かれています。
不妊治療も人工授精は6回、体外受精は4回まで保険が適用されるなど、子どもを持ちたい人へのサポートは多角的です。
そしてもう一つ、見逃せないのが「価値観の柔軟性」です。
フランスでは婚外子(結婚していないカップルから生まれた子ども)の割合が出生数全体の60%超に達しています。
法的に婚姻関係と同等の権利を持つパートナーシップ制度(PACS)が普及しており、「結婚しなければ子どもを産めない」という制約が存在しないことが、出生率を下支えしています。
北欧:「個人単位」の徹底と、育児を「社会の責任」にする思想
スウェーデン・フィンランド・ノルウェーなどの北欧諸国も、少子化対策のモデルとして長年注目されてきた国々です。
近年は出生率が低下傾向にあるが、依然として日本・韓国より高い水準を維持している。
北欧の最大の特徴は社会保障が「世帯単位」ではなく「個人単位」で設計されていることです。
そもそもが「夫が稼ぎ、妻が家を守る」という家族像を前提とした制度ではなく、男女それぞれが独立した社会の構成員として、税を納め、社会保障の恩恵を受ける設計になっている。
スウェーデンでは、出産後480日間の育児休暇が両親に与えられ、そのうち390日間は所得の約8割が補填される。
この育児休業は「両親の合計」で付与されるため、父親も積極的に取得することが促されている。
育児を母親の仕事とみなさず、社会と父親も一緒に担う文化が制度によって育てられてきたわけです。
フィンランドでは「ネウボラ」と呼ばれる、妊娠期から就学前までの切れ目のない子育て支援制度を市町村が主体で実施しています。
専門職が継続的に家族に関わることで、育児の孤立を防ぐ仕組みです。
こうした国々での出生率の維持は、「女性が仕事をやめなくていい」という消去法的な結果ではなく、「産んでも育てても、社会がちゃんと支える」という積極的な約束の結果なのでしょう。
北欧には「扶養」の概念がない?
スウェーデンやデンマークなどの北欧諸国では、社会保障の単位が「家族」ではなく「個人」です。
日本のような「夫が働いているから妻の年金がタダになる」という仕組みは存在しません。
では、働けない理由があって難しい人はどうなっているのでしょうか?
① 「保証年金(最低保障)」が個人に紐づく
北欧では、働いた期間が短い、あるいは全く働けなかった人に対しても、一定の居住期間(スウェーデンなら40年など)があれば、「保証年金」が国から支給されます。
これは「誰の配偶者か」に関係なく、その人個人の権利として保障されます。
② 充実した「障害・病気手当」
病気や障害で働けない場合、配偶者の収入に関係なく、個人に対して手厚い手当(傷病手当や障害年金)が支給されます。
日本: 障害基礎年金をもらうには「一定以上の重い障害」という高いハードルがある。
北欧: 「労働能力がどれくらい低下しているか」を細かく判定し、部分的に働ける人には部分的な給付を出すなど、柔軟にサポートする。
③ 介護や育児は「社会」が担う
日本で専業主婦(主夫)にならざるを得ない大きな理由の一つに「家庭内で育児・介護が必要ならその家族がするもの」という考えがあるかと思います。
北欧ではこれら「家庭内の無償労働」に頼るのではなく、自治体が提供する公的サービス(保育、訪問介護など)で行うのが大前提です。
そのため「介護のために仕事を辞めて配偶者の扶養に入る」という必要性自体が日本よりはるかに低く設計されています。
4.苦戦例「日本と韓国」の本質的な問題
「中途半端な制度移行」という罠
日本と韓国が苦戦している理由を一言で表すなら、「社会の変化に制度と文化が追いついていない」ことでしょう。
韓国の合計特殊出生率は、2023年に0.72を記録し世界最低水準に沈んでいて、日本は1.20。
韓国は2006年からの約16年間で、少子化対策に332兆ウォン(約37兆円)もの巨費を投じてきたが、出生率の低下を止めることはできなかった。
日本も韓国も、共通して抱える問題は以下の通りだ。
① 「結婚しないと子どもを産めない」文化
フランスでは婚外子が60%を超えるが、韓国は2.2%、日本は2.3%(2018年時点)と、OECD最低水準です。
婚外の出産を社会的・制度的に受け入れる仕組みがないため、「出産=結婚が前提」となっている。
そのため、若者が就職や住宅の問題で結婚を先送りにすると、そのまま出産も先送り・断念につながる。
韓国の平均初婚年齢(2025年)は男性33.9歳、女性31.6歳で、日本の男性31.1歳、女性29.8歳よりも高く、さらに上昇傾向にある。
② 育児負担が女性に一極集中している
日本と韓国は、OECD諸国の中で「男性が家事・育児にかける時間が極めて短い国」として名指しで指摘されています。
週50時間以上働く人の割合でも、日韓は飛び抜けて高い。
その結果、共働きが増えても、育児と家事の大部分は依然として女性が担っている場合が多いです。
「仕事も家事も育児も全部こなせ」というダブルバインドを女性に課した結果、子どもを産む・増やすことへのハードルが跳ね上がることになってしまった。
韓国の少子高齢社会委員会が2020年時点で発表した基本計画では、「仕事と育児の両立が不可能な文化による出産放棄」「女性がやるべきとされる家事労働の強い性別役割分担意識」「教育の競争激化による育児費用の増加」が少子化の加速要因として明確に指摘されていますが、それが現在も大きくは変わっていないのでしょう。
③ 女性にとって「キャリアか子どもか」の二択が続く
韓国では近年、「ネガウェ(なぜ私が)」という言葉が若い女性の間で広まっていました。
「なぜ自分がキャリアを犠牲にして出産しなければならないのか」という問いかけです。
経済発展と共に高学歴化が進んだ女性たちが、結婚・出産によってキャリアを断絶させられることへの抵抗感が強まっている。
育児休業制度は法律上整備されているが、大企業や公務員以外の中小企業では取得が事実上困難で、職場に戻る保障がない状況です。
日本でも同様でしょう。
育児休業は取れても、復帰後の待遇や昇進への影響を懸念して取得を躊躇するケースは多い。
保育所の問題も依然として解決されていない地域が多く、子どもを産む前提の社会インフラが不十分なままとなっています。
④ 経済的コストの集中
韓国では受験競争が極めて激しく、子供の教育費で家が建つと言われるほど子ども一人にかける教育費が国際比較でも突出して高い。
そのため「産んでも育てるお金がない」という経済的不安が、出産をためらわせる大きな要因になっています。
日本でも「教育費の重さ」は少子化の要因として繰り返し指摘されており、大学の学費の高さ(フランスの数万円に対して日本では年間50〜100万円以上)は、子どもを持つことへの経済的ハードルを上げている。
5.「専業主婦」の問題ではなく「選択できるか」の問題
出生率を左右するのは「専業主婦がいるかどうか」ではなく、「働く女性も育てる女性も、どちらも社会が支えるか否か」。
フランスや北欧が成功したのは、「女性に働かせた」からではない。「働くことも、育てることも、あるいはその両方も、個人の選択を社会が支える」仕組みを、長年かけて丁寧に構築したからでしょう。
日本と韓国が苦戦しているのは、「女性を働かせた」からでも「専業主婦が減ったから」でもない。
女性が「働くか育てるか」という二択を迫られる構造を放置したまま、どちらの方向にも中途半端な支援しか提供してこなかったからだとも言えます。
「制度の移行期」という言い訳が続く日本
「第3号被保険者制度」
この制度は「夫が外で働き、妻は専業主婦として家庭を守る」という昭和的な家族像を前提に作られている。
しかし実態として7割の世帯が共働きになった今も、この制度は大きく変わっていない。
廃止すれば不利益を受ける人がいる、だから先送りする。
この判断そのものが間違いというわけではないですが、「不公平な制度を温存したまま、共働きを前提とした社会へ移行する」という矛盾を放置し続けることで、誰も得をしない状況が生まれている。
配偶者控除、第3号被保険者制度、企業の配偶者手当。
これらはすべて「男が外で稼ぐ」モデルを前提としたものです。
そして皮肉なことに、これらの制度が「妻が130万円以下に抑えて働く」という動機付けを生み、女性の正規雇用への参入を阻んでいる面がある。
結果的に世帯収入が抑えられ、育児費用や教育費の心理的ハードルも高く感じられるでしょう。
女性が出産子育てをしても正規雇用で働き続けることができれば。
育児休業を取りやすく、復帰後のキャリアも守られるとなれば、子どもを産む選択肢が現実的になるでしょう。
◆まとめ
フランスと北欧の成功から学べることは、以下の3点に集約できるでしょう。
① 育児を「家庭の問題」から「社会の責任」に変える
保育の充実、父親の育休取得を促す制度設計、育児の孤立を防ぐ専門職のサポートネットワーク
これらは「女性に頑張らせる」ためではなく、「子育てを社会全体で引き受ける」ための仕組みです。
② 「働く」か「育てる」かではなく、「どちらも選べる」設計
どちらを選んでも、あるいは両立しようとしても、社会が支える設計が必要です。
フランスが「育児のために仕事を中断した人への手当」と「働く母親への保育支援」を同時に整備しているのは、強制的にどちらかを選ばせないという思想からきている。
③ 社会保障を「世帯単位」から「個人単位」へ
第3号被保険者制度や配偶者控除のような「片働き優遇」の仕組みを段階的に見直し、働き方に中立な制度設計に転換することが、長期的には女性の就労を安定させ、出生率の向上につながる可能性があります。
第3号廃止の本来の目的は、「誰かに養われていないと生きていけない仕組み」から、「どんな状況でも個人として最低限の生活が保障される仕組み」へのアップデートだと思います。
専業主婦を批判することがこの問題の解決にはならないし、共働きを強制することも解決にならない。
問われているのは、「どんな選択をした女性も、子どもを産み育てることが現実的に可能な社会を作れるか」というもっと根本的なところでしょう。
第3号被保険者の存在を不公平だと煽る今の伝わり方は、対立だけになり本質の部分が全く国民に伝わらない可能性が高い気はします。
制度の壁に直面している現役世代だけでなく、社会全体がこの「本質的な原因」を理解し、時代に合わないシステムをアップデートしていく議論を求めていくことが、私たちの未来を変える第一歩となるはずです!
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次回は「遺族厚生年金の改正」について少し書いていますので、お時間あれば読んでみてください。
日々の出来事から日記代わりにいろいろ書いています。
前回の記事も時間がありましたら読んでみてください。
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