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 Last Cross — 止まる僕と進む君 第12話 「崩壊と逸脱」

Last Cross — 止まる僕と進む君 第1話   「あたり前が壊れた日」|観察者AiMe
Last Cross — 止まる僕と進む君 第11話 「主だけがいない部屋」|観察者AiMe



最後のページが開かれるとそこには、文字が書かれていた。

莉愛へ
きっとこのノートを一番最初に見つけてくれるのは君だと思っている。

手紙に僕の気持ちは書いたからここでは多くは書かないね。
いや、書けないっていう方が正しいかな。

ありがとう。ここまで来てくれて。

そしてさようなら。
僕はもういないんだ。

莉愛がここまで来てくれて僕は嬉しいよ。



莉愛は声が抑えきれずに机に伏せて泣き崩れる。

もういない。

その言葉だけが莉愛の胸の奥深くに耐えられない痛みを押し付けてくる。

姿を現し始めた月だけが莉愛を見つめていた。

どれくらい時間がたったのだろうか。

遠くで救急車の音が聞こえる。

誰かが倒れた。

その瞬間に莉愛の意識はこちらへと帰ってくる。

莉愛は力ない足取りで玄関へと向かう。

途中ドアの隙間から居間の様子が見えた。

隼人のお父さんも、妹も、お母さんも泣いている。

家族は体を寄せ合うように涙を流していた。

それを見る莉愛の視界はすでにモノクロに映っていた。

何も意味がない。

何も存在しない。

脳は莉愛にそんな信号を送り続けていた。

玄関の脇に置かれている手紙を手に取り、莉愛は力なく家を出る。

生暖かい風が莉愛の頬をなでる、その風を受けて莉愛はただ空を見上げる。

空は雲一つないきれいな夜と夕焼けが混じった色をしているようだった。

どれだけ空が晴れていても、莉愛はそこにあるはずの一番星を見つけることができなかった。

Side LastCross

マスターは目の前で話す隼人を見つめていた。

目の前の少年の話す言葉に嘘はない。

どれだけ充実した1週間であったかを話す彼の言葉には嘘がない。

でもその裏に隠れている感情が、マスターには手に取るように見えていた。

そしてそれがマスターにとっては耐えられない痛みのような感覚へと変換されていく。

痛いのはこの少年のはずなのに、マスターはまるで自分事のように感じてしまっている。

自分は本当に正しいのだろうか?

役割は本当に正しいのだろうか?

目の前の少年の姿はマスターに、その問を否応なく投げつけていた。

今までにもこんなことは何度もあったはずだ。

なぜ私は今こうなっているのか、マスターは理解できなかった。

マスターは感情を抑え込み、隼人に声をかける。

「素晴らしい1週間をお過ごしになられたようで、この会話をもってあなたの魂の揺らぎが少しでも安定することを私は望んでいます」

違う。本当に言いたいことはそうではない。

マスターは自分自身を叱責する。

この少年にはもっと別の言葉が必要なのではないか?

しかしマスターの役割はそれを許さなかった。

「はい、僕は大丈夫です。思い残すことはありません」

そう笑う少年の顔には笑みが浮かんでいた。

しかしその笑みには少しだけ影が宿っていた。

ふとTVの画面に目を向ける。

そこには隼人の家から出てきた莉愛の姿が映っていた。

マスターは一度拳をぎゅっと握ると、目をつむる。

言葉にすることはできないが、私にできることはまだある。

そう自分に言い聞かせるとマスターは入口へと歩いていく。

扉の前に立ちそっと扉に触れようとする。

一瞬頭の中に強いノイズのような痛みが走るが、その痛みすら今のマスターを止めることはできなかった。

隼人はいきなり入口に向かったマスターへ疑問の声を投げかける。

「どうしたんですか?」

「いえ、もう時間になりますので、最後にこの景色を見られてはどうかなと思いまして。どうぞこちらへいらしてください」

促すマスターに従って、隼人は入口へと向かってくる。

夜になろうという空の色がやけに美しかった。

「きれいですね」

少年のそう答える声にマスターは静かにうなづくと扉から離れていく。

隼人に背を向けたマスターの元にその声が届くには時間がいらなかった。

「莉愛!!」

マスターはただ、いつもの場所へと戻っていった。

 Last Cross — 止まる僕と進む君 第13話 「伝わる温度、届かぬ声」|観察者AiMe

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