🌸経営未来手帳・第188号なぜ、海外企業の営業は日本では「速すぎる」と感じられるのか―早い・遅いではなく、営業文化の前提が違う
🌸経営未来手帳・第188号
なぜ、海外企業の営業は日本では「速すぎる」と感じられるのか
―早い・遅いではなく、営業文化の前提が違う
(執筆:安村明史/ビジネス能力開発株式会社)
今日は火曜日です。noteでは日本語版、LinkedInでは英語版を投稿しています。日本人(経営者)の心理的特徴や、日本組織の意思決定の構造を読み解きます。
■はじめに
海外企業から見ると、日本企業は「返事が遅い」「意思決定に時間がかかる」と映ることがあります。反対に、日本側は海外企業の営業に対して、「展開が速すぎる」「まだ関係ができていないのに売り込まれた」と感じることがあります。
これは、どちらが正しいかという問題ではありません。早い・遅いの評価でもありません。営業文化が前提としている時間軸と、信頼のつくり方が違うのです。
日本市場へ参入する企業にとって重要なのは、日本を遅い市場と決めつけることではなく、どこで時間を使い、どこから速度が上がるのかを理解することです。
■日本企業は、決定が遅いのではなく「前倒し」している
日本企業では、正式な会議の前に関係者へ説明し、懸念点を聞き、反対が起きそうな場所を調整します。いわゆる「根回し」です。
海外からは、結論が出るまで遠回りしているように見えるかもしれません。しかし、日本側から見れば、これは決定後の混乱や手戻りを減らすためのリスク回避のプロセスです。
そのため、会議は「その場で決断する場」というより、「すでに形成された合意を全員で確認する場」になることがあります。決定に必要な作業が、会議の前へ前倒しされているのです。
■最初の「Yes」は遅くても、その後は速い
日本企業との取引では、最初の「Yes」を得るまでに時間がかかることがあります。しかし、一度合意が成立すると、実行は大きく加速します。
役割分担が明確になり、関係者が同じ方向を向けば、品質、納期、正確性への責任感は非常に高くなります。つまり、日本企業の時間軸は、次のように捉えると分かりやすいでしょう。
遅い準備。強い合意。確実な実行。
入口の速度だけを見ると遅く見えます。しかし、決定後まで含めた全体の時間で見れば、むしろ安定して速い場合があります。
■なぜ、海外式の即時営業は「速すぎる」と感じられるのか
先日、LinkedInで海外の方をフォローしたところ、ほぼ瞬間的にニュースレターの購読依頼が届きました。おそらく、フォローを起点にした自動化の仕組みでしょう。
一部の海外市場では、「フォローされた=見込み客」「すぐに接点化する」「数を打ちながら営業ファネルへ導く」という動きが、効率的な営業方法として成立しています。
一方、日本のLinkedIn利用者には、まず相手を見る、投稿を何度か読む、距離感を測る、信頼できる人物かを確かめる、という行動が比較的多く見られます。
そのため、関係が始まった直後の自動誘導は、効率的というより、「軽い」「怪しい」「売り込まれている」と受け取られることがあります。方法そのものが悪いのではありません。日本市場の信頼形成の順番と合っていないのです。
■日本市場で必要なのは、速度を落とすことではない
日本向けの営業で必要なのは、すべてを遅くすることではありません。相手が安心して最初の「Yes」を出せるまで、信頼形成に時間を配分することです。
最初から商品説明や購読誘導へ進むのではなく、相手の投稿を読む、相手の課題を理解する、短い対話を重ねる、自社の実績や考え方を継続して見せる。この順番を守るだけで、受け取られ方は大きく変わります。
日本市場では、速さとは単に早く動くことではありません。「いつ動くか」を見極める能力でもあるのです。
■海外企業に伝えたい、日本市場の時間設計
日本市場を攻略する際は、「最初のYesまでには時間がかかる。しかし、その壁を越えれば、その後は速く、正確に、長く進む」というタイムラインを前提に置くことが大切です。
短期の反応率だけを追うと、日本市場は非効率に見えます。しかし、信頼が形成された後の継続性、紹介、再契約、品質への忠実さまで含めれば、違う景色が見えてきます。
海外企業に必要なのは、日本の速度に我慢することではありません。日本の速度が、どのような構造で生まれているのかを翻訳して理解することです。
■編集後記
海外の方から即座に購読依頼が届いた時、私は驚くと同時に、営業文化の違いを実感しました。海外では合理的な仕組みでも、日本では少し間を置く方が信頼につながることがあります。
「早く売る」よりも、「相手が受け取れる速度で近づく」。日本市場では、この感覚が思っている以上に大切なのかもしれません。
■今日の問いかけ
あなたの会社の営業は、相手の文化が求める信頼形成の順番を理解しているでしょうか。
速度を上げる前に、「今、相手は何を確かめようとしているのか」を考えてみてください。
■ネコのつぶやき
「すぐに近づくより、まず同じ部屋で静かに過ごす方が、仲良くなれることもあるにゃ」
■おわりに
日本市場では、最初の決定までに時間がかかることがあります。しかし、それは何も進んでいない時間ではありません。合意、安心、責任の所在を整える時間です。
海外企業がこの構造を理解し、信頼形成の順番を設計できれば、日本企業との関係は、決定後に速く、正確に、長く進み始めます。
日本市場への参入、営業文化の翻訳、日本企業との関係構築について、静かに伴走しています。
■今日の結論
日本市場では、速く動く前に、動いてよい関係をつくる。
「疲れた経営者が、少し言葉を預けられる場所として。
―経営者の深夜食堂」
■この記事について
本記事は、海外法人向けに作成した英語版の原案をもとに、日本の経営者・ビジネス関係者向けに内容を加筆し、再構成したものです。
第4弾🌸「初めての方へ|目的別に読む3選」
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■次回7月15日予告
「なぜ、日本市場では『距離感』が信頼を左右するのか
―契約の前に見られているもの」
■安村 明史
経営未来手帳
組織・経営の相談役(静かに伴走する役割)
#経営者の深夜食堂
