【Vol.16】「この人でいいのか」——結婚を決める心理学【仕草で読む恋愛心理】
「仕草で読む恋愛心理」シリーズ
← Vol.1:彼の仕草が教えてくれる、恋愛で大切な5つのこと
← Vol.2:別れのサインを早めに察知する方法
← Vol.3:「好きだから、黙る」——言葉にしない感情を仕草で読む
← Vol.4:「俺だけを見て」——嫉妬・独占欲が仕草に出るとき
← Vol.5:「なんとなく、感じてた」——雰囲気・予感・嗅覚が教えてくれる恋愛のサイン
← Vol.6:嫉妬心との付き合い方——最も厄介な感情と正直に向き合うための心理学
← Vol.7:恋愛は「仕事力」を上げる——活力・生きがい・昇進に恋愛が効く科学的理由
← Vol.8:「既読」がついた。でも、返信は来ない。
← Vol.9:女性の「なんか違う」は正しい——直感と脳科学の意外な関係
← Vol.10:また思い出してしまった——忘れられない人が頭から離れない、本当の理由
← Vol.11:その笑顔、本物ですか。——「作り笑い」と「本音」を見分ける表情心理学
← Vol.12:好きになるほど、不安になる。——自己肯定感と恋愛の深い関係
← Vol.13:近すぎると、息が詰まる。——「距離感」が恋愛を壊すとき、救うとき
← Vol.14:愛しているのに、なぜ裏切るのか——浮気・不倫の心理構造を読み解く
← Vol.15:「占いが当たった」はなぜ起きるのか——直感・予感・潜在意識の心理学
Vol.16:「この人でいいのか」——結婚を決める心理学(この記事)
「この人でいいのか、まだわからない」
好きなのに、決めきれない。一緒にいると楽なのに、なぜかその一言が言えない。あるいは、「もっといい人がいるんじゃないか」という考えが、ふとした瞬間に頭をよぎる——。
結婚を考え始めると、多くの人がこの問いと向き合います。そしてこの問いは、意外なほど長く、多くの人を悩ませ続けます。
じつは「この人でいいのか」という不安は、その相手が悪いのでも、自分の気持ちが弱いのでもありません。決断することそのものの難しさと、「結婚」という概念に私たちが抱いているイメージが、この問いを複雑にしているのです。
Vol.16では、結婚を決める心理学を読み解きます。「どうすれば決められるのか」ではなく、「なぜ決められないのか」をまず理解することが、前に進む力になると思っています。
① 「この人でいいのか」——決断できない本当の理由

サイン:相手への気持ちは本物なのに、「決める」という行為が怖い
結婚を前にした「この人でいいのか」という問いは、多くの場合、相手への疑問ではなく**「決断そのものへの恐れ」**です。
心理学者バリー・シュワルツは、選択肢が多ければ多いほど人は決めにくくなり、決めた後も後悔しやすくなるという**「選択のパラドックス」**を示しました(出典:Schwartz, 2004)。「世の中にはもっと良い選択肢があるかもしれない」という意識が、目の前の判断をくもらせるのです。
さらに、結婚は「一生」という言葉とセットになっているため、プレッシャーが通常の決断より格段に大きくなります。「間違えたら取り返しがつかない」という感覚が、慎重さを超えて麻痺に変わっていきます。
「決められない」のは、相手への愛が足りないのではなく、決断が怖いほど真剣に考えているということです。
見分け方: 「この人への気持ちは本物か」と「この人と一生を共にしていいか」は、別の問いです。前者にYESが出ているなら、迷っているのは相手ではなく「決断すること」への恐れかもしれません。
📖 決断と選択心理をもっと知りたい方へ:
→ 『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー著(早川書房) — 人間がいかに非合理な選択をするかを実験データで示した行動経済学の名著。「なぜ決められないのか」の正体が、腑に落ちます。
② 「好き」だけでは足りない——結婚に必要な感情の段階

サイン:付き合い始めのドキドキが薄れてきたとき、「冷めた」と感じる
「昔みたいにドキドキしなくなった。これは冷めたということ?」——結婚を考える時期に、この問いを抱く人は少なくありません。
Vol.14でも触れたヘレン・フィッシャーの研究によると、恋愛感情には段階があります。初期の強烈な「恋愛感情(Attraction)」は、脳内のドーパミンやノルアドレナリンが大量に分泌される状態で、平均して1〜2年で落ち着くことがわかっています(出典:Fisher, 2004)。
この段階が終わると多くの人が「冷めた」と感じますが、じつはこれは冷めたのではなく、「愛着(Attachment)」という次の段階に移行したサインです。愛着はオキシトシンやバソプレシンによってもたらされる、より安定した、深いつながりの感覚です。
ドキドキが薄れた相手と「普通の日々」を過ごしていて、それが心地よいと感じるなら、それは冷めたのではなく、関係が成熟してきたということです。結婚に必要な感情は、最初のドキドキではなく、この落ち着いた愛着です。
見分け方: 「ドキドキするか」より「一緒にいて安心できるか」「普通の夜が心地よいか」を確認してみてください。後者がYESなら、関係は健全な段階に入っています。
📖 「安心できる相手」を求める感覚の根っこを知りたい方へ:
→ 『愛着障害』岡田尊司著(光文社新書) — 幼少期の愛着パターンが大人の恋愛・結婚にどう影響するかを解説。「なぜこの人といると落ち着くのか」「なぜ安心できないのか」が言語化されます。
③ 長続きする関係の条件——ゴットマンの法則

サイン:ケンカしても仲直りできる。それだけで、実はかなり大切なことかもしれない
「どんな相手なら長続きするのか」——この問いに、最も実証的に答えた研究者がジョン・ゴットマンです。彼は数千組のカップルを数十年にわたって観察し、関係が続くかどうかを驚異的な精度で予測する法則を発見しました(出典:Gottman & Silver, 1999)。
関係を壊す最大の要因として彼が挙げたのは「破滅の四騎士」——批判(Criticism)・軽蔑(Contempt)・防衛(Defensiveness)・逃避(Stonewalling)です。特に「軽蔑」——相手を見下す態度、嘲笑、冷笑——が最も関係にダメージを与えるとされています。
一方、長続きするカップルに共通していたのは、ポジティブな関わり(感謝・笑い・スキンシップ・関心)とネガティブな関わりの比率が5:1以上であることでした。
また、ゴットマンが特に重視したのは「修復の試み」です。ケンカになったとき、どちらかが「ごめん」「少し落ち着こう」と関係を修復しようとする行動が取れるかどうか——それが、長期的な関係の鍵だと言います。
見分け方: 「この人と口論になったとき、最終的にはちゃんと話せているか」「相手が謝ってきたとき、受け取れるか」。この二点を確認してみてください。ケンカがゼロの関係より、修復できる関係のほうが、長続きします。
📖 「修復の試み」を言葉にできるようにしたい方へ:
→ 『伝え方が9割』佐々木圭一著(ダイヤモンド社) — 感情を傷つけずに気持ちを伝える具体的な方法が学べます。ゴットマンが重視した「修復の言葉」も、結局は言葉の選び方次第です。
④ 「運命の人」という幻想——ソウルメイト神話を手放す

サイン:「もっと完璧に合う人がいるはず」という気持ちが拭えない
「どこかに、もっと自分にぴったりの運命の人がいるはず」——この信念は、一見ロマンティックですが、じつは関係の継続を難しくすることが研究で示されています(出典:Burnette et al., 2012)。
「運命の人がいる」と信じる人(ソウルメイト信念)は、困難に直面したとき「この人は運命の相手ではなかった」と諦めやすいことがわかっています。一方、「関係は育てるものだ」という信念(成長信念)を持つ人は、同じ困難を「乗り越えるべき課題」として向き合いやすい傾向があります。
哲学者アルフレッド・アドラーは「愛は感じるものではなく、行うものだ」と述べました(出典:岸見一郎・古賀史健『幸せになる勇気』2016)。出会った瞬間に稲妻が走るような感覚ではなく、日々の小さな選択と行動の積み重ねが、「この人でよかった」という確信を育てていくのです。
見分け方: 「この人と過ごした日々に、積み重ねがあるか」を振り返ってみてください。困難を一緒に乗り越えた経験、相手のために何かをした記憶——そこに愛の実体があります。
⑤ 結婚を考える前に、自分に問う5つのこと

サイン:「決め方がわからない」より、「何を確認すればいいかがわからない」と感じている
結婚を「決める」ための絶対的な基準はありません。ただ、心理学的に見て、長続きするカップルが共通して持っていた要素から、問いかけることのできる視点があります。
1. この人の前では、本当の自分でいられるか
弱さも、失敗も、かっこ悪い自分も——隠さなくていい関係かどうか。これは距離感と自己開示の問題で、長期的な関係の土台になります。
2. この人と困難を乗り越えた経験があるか
楽しいときだけでなく、つらい時期やぶつかった後を一緒に経験しているかどうか。その経験が、関係の強度を示します。
3. この人の「普通の日々」が好きか
特別なデートではなく、何もない週末の過ごし方。それが心地よいかどうか。結婚は日常の集積です。
4. この人に「ありがとう」を自然に言えているか
感謝の言葉が習慣になっているかどうか。ゴットマンの研究でも、感謝の表現は関係の継続と強い相関があります。
5. この人との「未来の具体的な話」が楽しいか
漠然とした「一緒にいたい」だけでなく、「いつかこんな家に住みたい」「子どもが生まれたら」という具体的な未来の話が、自然に出てくるかどうか。
見分け方: 5つの問いに全部YESでなくてもいいのです。ただ、「この人となら、この問いに向き合い続けられる」という感覚があるなら、それがひとつの答えかもしれません。
📖 「本当の自分でいられる関係」を深掘りしたい方へ:
→ 『本当の勇気は「弱さ」を認めること』ブレネー・ブラウン著(サンマーク出版) — 弱さをさらけ出せる関係こそが最も深いつながりを生む、と説く一冊。問い①「本当の自分でいられるか」を考えるときに、そっと後押ししてくれます。
「この人でいいのか」という問いに、完璧な答えはありません。でも、問い続けながら一緒にいることを選んでいるなら、それはすでに愛の実践です。
まとめ

① 「決められない」本当の理由 → 選択のパラドックス+「一生」へのプレッシャー。相手への疑問ではなく、決断そのものへの恐れ
② ドキドキが薄れるのは冷めた証拠ではない → 恋愛感情から愛着へ。安定したつながりの段階に移行したサイン。結婚に必要なのは愛着
③ 長続きする関係の条件 → ゴットマンの法則。軽蔑を避け、修復の試みができる関係が長続きする。ケンカゼロより「仲直りできる」が大切
④ 「運命の人」幻想を手放す → ソウルメイト信念は困難に弱い。「育てる関係」と「日々の行為としての愛」が長期的な幸福をつくる
⑤ 結婚を考える5つの問い → 本当の自分でいられるか/困難を乗り越えたか/普通の日々が好きか/感謝できるか/未来の話が楽しいか
「この人でいいのか」——その問いに向き合えること自体が、誰かを真剣に想っている証です。
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引用・参考文献
・選択のパラドックス
Barry Schwartz『The Paradox of Choice』(2004)
・恋愛感情の三段階(恋愛→愛着)
Helen Fisher『Why We Love』(2004)
・長続きするカップルの法則・破滅の四騎士
John Gottman & Nan Silver『The Seven Principles for Making Marriage Work』(1999)
・ソウルメイト信念と成長信念
Jeni L. Burnette et al.「Implicit Theories of Relationships」(2012)
・愛は行為である(アドラー心理学)
岸見一郎・古賀史健『幸せになる勇気』(2016)
※本記事は上記の研究・理論を参考に、執筆者の考察を加えてまとめたものです。学術論文の完全な引用形式ではなく、一般読者の方が「気になったら調べてみる」ための入口として掲載しています。
