ご家族ごっこ 第3章 12(最終話)
事前に頼んでいたわけではないが、ひとしきりの歓談が済んだところで、グランドピアノには音楽教室の友だちが座り、パーティーの生演奏よろしくピアノを弾いてくれている。
パッヘルベルの「カノン」 バッハの「主よ人の望みの喜びよ」 同じくバッハの「G線上のアリア」 リストの「愛の夢」 ショパンのノクターン第20番、嬰ハ短調「遺作」 そして、ベートーベンの「月光」など。
演奏会の演目は、結局私の好きが勝ってしまった。龍哉にも聴き馴染みがある曲で、桜子とも思い出のある曲をと選んだ。
自分が演奏する曲は、鎮魂の気持ちを表す「月光」にするか迷ってもみた。が、龍哉がレクイエムを弾くのに対し、私が競うような演目にするのも、と思い「すべての山にのぼれ」にした。
邸宅の大きなリビングの中央に鎮座しているグランドピアノで、演奏できるだけでも心が湧きたつ。友だちの演奏は、ラウンジのバックミュージックのようではなく、どうしても演奏会を意識してしまうのか、音量も大きく、迫力ある弾き方になってしまうのだが。それでも、この場を喜んでくれているようだ。
私が一人で飲み物を飲んでいると、梶谷が近づいてきた。
「盛会だったな」
ぼそりと言う梶谷にとって、それは最大限の褒め言葉だ。
「…来てくれて、ありがとう」
私も、一応の礼を述べる。
「ああ、あの時は。佳彦のこと、本当に助かった。お礼も言ってなくて、すまなかった」
梶谷らしくなく、頭を下げる。
「不登校気味の子どもには、無理やり学校に行かせようとするのではなく、思い切って、『好きにすれば?』みたいに言ってあげる事が、効果をもたらすんですって。
『今の家庭環境と違う環境で、やり直す』っていうのも、一つの方法で、留学が出来るのなら、お勧めですよ、って。…学校の先生に、入れ知恵してもらったんだけどね」
佳彦に留学を勧めたのは、私だけの考えではなかった。吉原先生を通じて、対策のアイディアを教えて頂いたのだ。
「そうだったのか…。
あの時は、母親の影響ってすごいな、って、びっくりしたよ。顔つきがまるで違って帰ってきたぞ」
「それを受けて、ちゃんとカナダに行けるようにしてくれて、良かったわ」
「実は、あいつ。中学2年生の出席日数が足りなくて、審査が必要かもしれないって、脅されて、ついこの間まで、ピリピリしてたんだ。ビザがおりて、確実に行けるって決まったの、一昨日だぜ」
「まぁ!」
「行けるのが決まって、ホッとしたよ」
「…お義母さんは?」
「佳彦のこと、喜んでる。『カナダには、メイプルシロップくらいしかないねぇ』などと、今からお土産の品定めをしているよ」
「そう」
自然と笑いがこみあげていた。結婚して、泥沼離婚をしたもと夫と、和やかに話している自分が、なんだか可笑しい。
「それにしても、おまえ。良いところに取り入ったなぁ。…ここ以外にも不動産があるわけだろ? すごいな」
小賢しい梶谷の部分を感じて、私は眉をひそめた。
「再婚するのか? …もうしているのか? いい男を見つけたな」
梶谷にワザと冷たい視線を投げかけて、私は言った。
「何を言ってんだか。…財産は、龍哉君のものなのよ。私たちは、2人とも、その管理をしているだけ。…ちゃんとした結婚も、たぶん、ないわ」
「そうか。それは…」
梶谷が何を言いたかったのかはわからない。でも、どう思われても、何を言われても、以前のように、心が波立たなくなった。
感情がなくなったわけではない。どんなことも受け入れられる、大らかな気持ちに包まれているのだ。穏やかに接することができるようになった。
梶谷は、以前とはずいぶん変わった私を見て、笑いながら言った。
「…それじゃ、まるで『おママゴト』をしているみたいだな」
私は、その言葉に鼻を鳴らして言った。
「違うわ。『ご家族ごっこ』をしているのよ」
「ご家族ごっこ?」
あなたにはわからないでしょうけど、これって結構楽しいのよ、と、私は、心の中でほくそ笑んでいた。
~完~
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【小説】ご家族ごっこ 第1章 1
https://note.com/quick_cosmos8506/n/n4cbeb9f4e5cd
