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不安定粒子が他の粒子に壊れるならば、出てきた粒子はその元の粒子の「中」に存在していたのか?

もしある物体を壊して、中から水が出てきたら、その水はその物体の中にもともと存在していたと、日常的には考えます。ところ素粒子の世界では、そのような常識的な考え方は成り立ちません。たとえば中性子という粒子は、真空中では不安定で、時間が経つと陽子と電子と反ニュートリノの3つの粒子に分解します。ベータ崩壊という現象です。しかしこの事実をもって、物理学者は「中性子の中に、陽子と電子と反ニュートリノが入っている」とは言わないのです。

図1:中性子のベータ崩壊

中性子の中には、陽子や電子や反ニュートリノではなく、3つのクォークが入っています。

図2:3つのクォークから出来ている中性子

陽子や中性子などの核子の中に、この小さなクォークという素粒子が入っていることは、前世紀に行われた「深非弾性散乱」と呼ばれる実験で示されています。たとえば高いエネルギーの電子を陽子にぶつけると、ほとんど電子は素通りするのですが、ある確率で電子が進行方向とは異なる角度に大きく反跳する現象です。これは、陽子の中はほとんどスカスカだけど、硬く小さな粒子が入っており、たまたま電子がその粒子に衝突をするときに起きる反跳であると解釈されています。この小さな粒子がクォークです。

現在では量子場で記述される素粒子の標準理論によって、この陽子や中性子の内部構造は精度よく記述されています。中性子が真空中で崩壊するベータ崩壊でも同様です。中性子の中の「ダウンクォーク」と呼ばれるクォークが、輻射として「W粒子」というものを放出して、「アップクォーク」と呼ばれるクォークに変化する過程です。出たW粒子は電子と反ニュートリノに崩壊します。

図2:ベータ崩壊の素過程

ここで重要なのは、ダウンクォークの中に、アップクォークとW粒子が入っていたわけではないことです。またW粒子の中に電子と反ニュートリノが入っているわけでもありません。それは加速する電子が光子を出すときに、その光子がその元の電子の中に最初から入っていたと考えないのと同じです。電子はディラック場に起きる1つの励起であり、その場の励起が、電磁場と結合することで、電磁場内部に波としての光子を作っているのです。つまり波が別な波を作るイメージです。元の波の中に、出てきた新しい波が入っていたわけではありません。これと同じことが、ベータ崩壊のダウンクォークやW粒子に起きています。

もし中性子の中に安定な電子と陽子と反ニュートリノの3つの粒子だけが入っているならば、理解できない現象もあります。それは「陽子の電子捕獲」と呼ばれています。

陽子の電子捕獲

陽子は電子を捕まえて、中性子とニュートリノを出せます。もし安定粒子としての電子と陽子と反ニュートリノだけが中性子の中に入っているとすると、この電子捕獲の過程で出てきた新しいニュートリノは、最初にどこに隠れていたのでしょうか?

このパズルは、素粒子物理学では既に解決しています。陽子中のアップクォークが反W粒子を出してダウンクォークになり、その結果として陽子を中性子にします。そして放出された反W粒子を電子が吸収してニュートリノになっているのです。結局、中性子の中に、陽子と電子と反ニュートリノが入っているわけはないのです。

モノが何からできているという問題は、素朴に考えるほど簡単ではありません。2026年の4月にスイスにあるCERNという実験施設から、クォークの中に更なる内部構造があるのか、より小さな構成粒子があるのかについてのレポートが発表をされました。

それによると、より小さな素粒子からクォークが出来ている現在証拠はありません。前世紀から今に至るまで、クォークを作るより小さな素粒子である「サブクォーク」の理論がいくつか提案をされていたのですが、現在の実験データは、そのサブクォークの存在を全く示していないのです。

一方でモノの起源についての別の観点が、理論物理学では注目されています。あらゆるモノを構成しているのは、ミクロな未知の素粒子ではなく、重さも形も色も持たない「量子情報」ではないかという考え方です。時空や物質は、この量子情報から創発してくるというこの考え方は、「It From Qbit」と呼ばれ、現在世界中の多くの物理学者によって研究が進められています。


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