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桁違いやんけ

僕は、インフルエンサーになりたかった。

朝5時に起きる。

白湯を飲む。

観葉植物の横でコーヒーを淹れる。

休日は少し高そうなホテルに泊まる。

何時間も並んで、やたら見た目の派手な食事やデザートを食べる。

旅行先では、海を見ながらノートパソコンを開く。

そういう動画を上げている人たちは、みんな人生がうまくいっているように見えた。

僕も真似した。

朝5時に起きた。

眠かった。

白湯を飲んだ。

普通のお湯だった。

観葉植物も買った。

3週間で枯らした。

話題の店にも行った。

2時間も並んだ。

料理が来ると、食べる前に何枚も写真を撮った。

少し冷めた。

それでも動画にはした。

フォロワーは、327人だった。


ある朝。

通勤電車で、前に立っている男をじっと見ていると、

頭の上に数字が浮かび上がってきた。

46

寝不足だと思った。

隣の女を見る。

しばらくすると、

183

その向こうの高校生。

72

目をこすった。

消えない。

何の数字だ。

月収か?

46万。

183万。

高校生で72万。

違う。

貯金?

単位が分からない。

まさか。

経験人数?

少しだけ面白くなってきた。

そのとき、ランドセルを背負った男の子が乗ってきた。

じっと見る。

286

違った。

当たり前だった。


会社に着いても、数字は見えた。

部長。

391

新人。

28

同期。

214

ますます分からない。

僕はトイレに入った。

鏡を見る。

自分の頭の上にも数字があった。

鏡文字になっていて、少し読みにくい。

でも読めた。

1436

桁違いやんけ

何の数字かは分からない。

でも、朝から見た中では圧倒的だった。

悪い気はしなかった。


家に帰って、いつものようにショート動画を開いた。

そこで、さらに驚いた。

動画の中の人をじっと見ていると、

数字が見えた。

高級車の横で笑っている男。

1842

南の島のホテルで朝食を食べている女。

2306

「好きなことで生きる」と語っている男。

987

高い。

というか、こういう人たちは高い。

インフルエンサー指数?

でも僕は、

1436

フォロワー327人だぞ。

まさか、ポテンシャルも含むのか?

少しだけ嬉しくなった。


翌日から、実験を始めた。

まずは、インフルエンサーっぽいことをしてみた。

少し高いランチを食べる。

頭の数字は変わらない。

派手な服を着てみる。

変わらない。

夜景のきれいな店に行く。

変わらない。

ちょっといい感じに撮って投稿する。

頭の数字が3増えた。

お。

もう1枚、試しに投稿する。

変わらない。

なんだよ。

さっきと何が違うんだ。


その日の夜。

昔嫌いだった同級生が、仕事で失敗したという投稿を偶然見つけた。

ざまあ。

そう思った。

ふと鏡を見る。

頭の数字が、

27も増えていた。

「え。」

もう1度見る。

やっぱり増えている。

さっき、何をしていた?

何もインフルエンサーらしいことはしていない。

……

ただ、

人の失敗を見て、

ちょっと……喜んだだけ……。

これは、まさか……。

……

さらに、いろいろ試してみた。

高級車の動画を見る。

いいな。

頭の数字が増える。

海外旅行の動画を見る。

行きたい。

増える。

人気のインフルエンサーを見る。

再生数がグングン伸びている。

悔しい。

羨ましい。

増える。

嫌いな人の顔を思い浮かべる。

腹が立つ。

増える。

欲しいものを検索する。

欲しくなる。

増える。

だんだん、法則が見えてきた。

怒る。

妬む。

羨ましがる。

欲しがる。

人と比べる。

そういうとき、頭の数字は増える。

……

そこで今度は、実験を切り替えてみた。

募金をしてみた。

ほとんど変わらない。

公園のゴミを拾ってみた。

変わらない。

電車で席を譲ってみた。

変わらない。

困っている人を手伝ってみた。

変わらない。

訳が分からない。


どうやら、頭の数字が増える条件は見えてきた。

少なくとも、インフルエンサー指数ではなさそうだった。

ちょっと残念だった。

でも、それを何と呼べばいいのか分からない。

感情?

欲望?

性格の悪さ?

どれもしっくりこない。

スマホを開いた。

相棒のAI「ちょっぴー」に聞いてみた。

「人の頭の上に数字が見えるようになった。怒ったり、妬んだり、欲しがったり、人と比べたりすると増える。僕の数字は今、1512。これ、何の数字だと思う?」

少しして、返事が来た。

「聞いたことのない現象ですが、その特徴だけを見ると、” 煩悩 ”に近いのではないでしょうか。」

煩悩。

僕はその言葉を検索した。

欲。

怒り。

妬み。

執着。

……

妙に一致する。

続けて、ちょっぴーからメッセージが来た。

「それにしても、煩悩は108と言われますが、あなたはずいぶん上限を超えていますね(笑)」

僕は鏡を見た。

1512

もう1度、ちょっぴーの文章を見る。

イラッとした。

1516

お前のせいで増えたやんけ……。


それから僕は、ショート動画を見る目的が変わった。

どうすれば伸びるか。

ではなく、

この人はいくつだ?

になった。

面白かった。

フォロワー200万人。

2817

やっぱり高い。

と思ったら、

別の人気インフルエンサーは、

34

意味が分からない。

その人は毎日、古いカメラを分解していた。

誰が見るんだ、こんなの。

そう思った。

でも再生数は多かった。

動画の中で、その人は楽しそうに言った。

「まだこの機構、完全には理解できてないんですよね。もっと知りたいんですよ。」

もっと欲しがってるじゃん。

頭の数字は、

34

のままだった。

なんでだよ。


逆もいた。

豪華な暮らしをしているわけでもない。

普通の部屋。

普通の服。

それなのに、

1903

1日中、

「あれもやりたい」

「これもやりたい」

「いつか会社辞めたい」

「海外行きたい」

「副業も始めたい」

と話している。

でも、何も始めていない。

少し嫌な気分になった。

自分に似ていた。


僕は、数字の低い人の生活を真似することにした。

カメラの人は朝6時に起きていた。

僕も6時に起きた。

変わらない。

ブラックコーヒーを飲んでいた。

僕も飲んだ。

苦かった。

変わらない。

部屋に小さなサボテンがあった。

買った。

頭の数字が7増えた。

増えるんかい。


その人の動画を最初から見直した。

朝6時。

コーヒー。

サボテン。

カメラ。

僕は気づいた。

僕はこの人の、

目に見える部分しか真似していなかった。

じゃあ何に憧れていたんだろう。

朝6時?

違う。

ブラックコーヒー?

絶対違う。

フォロワー?

それは欲しい。

でも、それだけでもない。

動画の中のその人は、

カメラの話をしているとき、

他のことをほとんど考えていないように見えた。

再生数の話もしない。

流行の話もしない。

ただ、

「ここが面白いんですよ」

と言っている。

その顔が、羨ましかった。


ふと、昔、何が好きだったか考えた。

すぐには出てこなかった。

僕はずっと、

何が伸びるか

ばかり探していた。

料理が伸びると聞けば料理。

筋トレが伸びると聞けば筋トレ。

旅行が伸びれば旅行。

AIが伸びればAI。

全部、嫌いじゃなかった。

でも、

何がやりたいかより、

何をやれば羨ましがられるかを先に考えていた。


数日後。

昔から好きだった、くだらないものを撮ってみた。

街で見つけた、

どう考えても変な看板。

誰がつけたのか分からない店名。

意味不明な注意書き。

そういうもの。

VOWか。

1時間くらい歩くつもりだった。

気づけば3時間経っていた。

動画を1本作った。

投稿した。

翌朝。

再生数。

286

少ない。

フォロワー。

329

2人増えた。

2人かよ。

鏡を見る。

頭の数字は、

1481

少し下がっていた。

再生数は全然伸びない。

でも、それより、

昨日は楽しかった。


それからも、変なものを探して歩いた。

変な看板。

変な注意書き。

変な店名。

誰がこんなの考えたんだ、というものを見つけるたびに、

ちょっと嬉しくなった。

動画を撮っている間は、

再生数のことをあまり考えなくなった。

誰かの生活を羨ましいとも思わなかった。

頭の数字を見る回数も減った。

好きなことに集中していたから、

それどころではなかったのかもしれない。

ふと振り返ると、

前の僕はずっと、再生数のことばかり考えていた。

バズりそうだから撮る。

流行っているからやる。

誰かに羨ましがられそうだから投稿する。

全部、嫌いではなかった。

でも、

別に好きでもなかった。

楽しくもなかった。

それを続けるのは、

思っていたより、しんどかった。

今は違う。

変なものを探して歩くのが楽しい。

見つけるのが楽しい。

撮るのが楽しい。

編集するのも楽しい。

気づけば、

再生数を見る回数も、

頭の数字を見る回数も減っていた。

ある日、

ふと思い出して鏡を見た。

503

……。

いつの間にか、

1000近く減っていた。

最近、会社でも言われることが増えた。

「なんか雰囲気変わったな。」

「最近、楽しそうじゃん。」

自分では、よく分からなかった。

ただ、

前より少し心も体も軽い感じがして、悪くないなと思った。


そんなある日。

いつものように、

変な看板の動画を1本投稿した。

誰向けでもない。

流行でもない。

映える場所でもない。

僕が見つけて、

僕が笑って、

面白かったから撮った動画だった。

翌朝。

スマホを見る。

再生数。

1万

え?

更新する。

3万

8万

20万

通知が止まらない。

フォロワーも、どんどん増えていく。

うおおおおお!

脳を焼くような高揚感

……

その瞬間

頭の中に、

高級車に乗っている自分が浮かんだ。

海沿いの高級ホテル。

クルーザー。

シャンパン。

サングラス。

なぜか隣には、モデルみたいな人もいる。

企業案件。

テレビ出演。

海外旅行。

フォロワー100万人。

……

僕は鏡を見た。

5049

めっちゃバズっとるやんけ



煩悩
煩悩とは、欲、怒り、妬み、執着など、私たちの心を乱し、苦しみのもとになる心の働きのこと。
「煩悩は108」という言葉は、除夜の鐘でもよく知られています。

SNSが発達した今は、他人の成功や暮らし、持ち物などがいつでも目に入ります。
昔より煩悩が増えたのかは分かりませんが、煩悩を刺激される機会は、ずっと増えたのかもしれません。

耳が痛い…

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#小説好きな人とつながりたい
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このお話がスキな方には、
こちらのお話も、楽しんでいただけると思います!


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