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hip_clover8291
500万円を失った話(9)限界
競馬は、勝ったり負けたりを繰り返していた。
私を目覚めさせた2頭。
イクイノックスとリバティアイランドの活躍は素晴らしかった。
断トツの1番人気の重圧をものともせず、期待以上の成果を出す。
その走りだけが、わずかな救いだった。
日常は、限界にきていた。
班の人間は淡々と自分のノルマだけをこなす。
挨拶や声かけはなかった。
私もまた、全体連絡を伝えるだけのスピーカーでしかなかった。もしくは単なる残業要員か。
チームではなくなっていた。
私と班の状況を見かねて、上司が言う。
「お前ばかり残るんじゃなくて、他の社員にやらせないと責任感が育たないだろ」
もっともな叱責だった。
厳しい上司は、さらに辛辣に言った。
「班長としてだめなんだよ!」
「能力不足」
うつむいて返事ができなかった。
心が折れた。
考えて、考えて。
気づいたときには、YouTubeで見つけた心理カウンセラーと、Zoomで面談をしていた。
カウンセラーは「事実確認」と、
「思い込みや受け取り方のズレ」を指摘した。
当時の私には、理解できなかった。
「ありがとうございます。助かりました」
そう答えるのが精一杯だった。
後日届いた「その後どうですか?」に、返信することはできず、さまよう指は競馬予想ページに行き着いた。
彼との繋がりは、それが最初で最後となった。
12月。
ゆうちょ残高は、ゼロになっていた。
ほとんどの社員が退勤した後。
私は、上司と二人きりの一室で切り出した。
「退職します」
