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500万円を失った話(5)逃避
「それ、違います」
背後から声がした。
振り向くと、女性社員のAが真顔で立っていた。
私は目線で、何が違うのかを確認した。
「順番に取ってください。教えましたよね?」
Aはトゲのある声で指摘した。
私は「すまん」と謝った。
Aはそれを無視して、スタスタと持ち場に戻っていった。
……順番って、番号振ってないだろ。
心の中の言い分は、言葉にならなかった。
Aは班の中で浮いていた。
もっと言えば、工場内でも異質な存在だった。
班のメンバーは誰もAに逆らえなかった。
ああいう人だから。
それが皆の結論だった。
そのあたりからだったと思う。
私もまた、自分より一回りも年下のAのやり方に従うことになった。
「そこじゃない」
「だから、言いましたよね?」
「普通にしてください」
疲弊していた。
上司に相談する。
「それをなんとかするためにお前がいるんだろ?」
そんな中、唯一私をサポートしてくれていたリーダーのBが退職することになった。
理由は、違う職を経験したいから。
ただ、それは表向きの話で真の理由は別にあった。
私は完全に四面楚歌となった。
休憩中も仕事のことが頭から離れず、意味もなくスマホをいじっていた。
競馬。
4月9日、桜花賞。
目が、日付とレース名を追う。
脳が指示する。
当てて、気分を上げろ。
……やるか。
