光バイト 第0章
●あらすじ
大学四年生の蒼は、就職活動に失敗し続けていた。
友人たちは次々と内定を獲得していくのに、
自分だけが取り残されている。
何十社受けても不採用が続き、自分に何が向いているのか、自分には価値があるのかさえ分からなくなっていた。
そんなある日、ステンドグラスが美しい喫茶店
「フェリーチェ」で、不思議な求人票を見つける。
【光バイト募集】
時給500円
年齢不問
経験不問
喫茶店での飲食無料
店主は余命一年を宣告された神崎恒一。
彼が用意した仕事は、お年寄りの話し相手、育児に悩む母親の手伝い、児童養護施設の子ども達との交流など、誰かの暮らしを支える仕事ばかりだった。
時給は安い。派手さもない。
しかし様々な人との出会いを通して、
大学4年の蒼は少しずつ気づいていく。
自分に向いている仕事とは何か。
本当に大切な働く意味とは何か。
そして、自分にしかできない役割とは何か。
看板犬ソフィが見守る喫茶フェリーチェを舞台に描く、自分の価値と未来の仕事を見つける心温まるお仕事小説。
●プロローグ 余命一年
朝七時。
喫茶フェリーチェの一日は、看板犬の大きなあくびから始まる。
「おはよう、ソフィ。」
神崎恒一がシャッターを開けると、
真っ白なスタンダードプードルがゆっくり外へ出た。
ソフィは今年で八歳。
人間ならもう立派な大人だ。
近所では有名な犬だった。
子どもにも人気。
お年寄りにも人気。
そして常連客にも人気。
時々、
「店長より人気ですね。」
と言われるくらいだ。
「失礼な話だよな。」
恒一が笑うと、ソフィは何も気にしていない様子で尻尾を振った。
フェリーチェは小さな喫茶店だった。
木の温もりが残る店内。
壁一面のステンドグラス。
朝日が差し込むと、
赤。
青。
黄色。
緑。
色とりどりの光が床に広がる。
その景色を見るのが恒一は好きだった。
入口近くの窓際には、
ひとつだけ特別な席がある。
『ソフィ席』
そう書かれた小さな木のプレート。
もちろん正式な名前ではない。
常連客が勝手に名付けた。
疲れている人。
落ち込んでいる人。
悩んでいる人。
なぜかそんな人が座ると、
ソフィがやって来る。
そして何も言わず隣に座る。
その噂が広まり、
いつしかフェリーチェの名物になっていた。
もっとも。
隣のパン屋の焼きたてパンが現れると話は別だ。
その日も、
隣の『ベーカリーひだまり』からクロワッサンの香りが流れてきた。
ソフィの鼻がぴくりと動く。
そして次の瞬間。
一直線。
「あっ。」
パン屋の店主が笑う。
「今日も来たな。」
ソフィは尻尾を高速で振る。
恒一は苦笑した。
「ソフィはね。」
「人の心は分かるんだけど。」
「パンの誘惑には勝てないんだ。」
店内に笑い声が広がった。
そんな穏やかな毎日が、
ずっと続くと思っていた。
三日前までは。
病院の診察室。
「神崎さん。」
医師は静かに言った。
「残念ですが、進行性の癌です。」
恒一は黙って聞いていた。
「余命は一年ほどだと思われます。」
一年。
その言葉だけが頭に残った。
怖くないと言えば嘘になる。
でもそれ以上に、
心に浮かんだものがあった。
後悔だった。
若い頃の自分。
何十社も就職試験に落ちた。
うまくいかないことばかりだった。
親のせい。
社会のせい。
会社のせい。
誰かのせいにしていた。
心配してくれた母親に怒鳴ったこともある。
黙って見守ってくれた父親を避けたこともある。
そして感謝を伝えられないまま、
二人ともこの世を去った。
「ありがとう。」
たった一言。
それさえ言えなかった。
閉店後。
恒一はソフィ席に座っていた。
ステンドグラスの光が床を染めている。
ソフィが近づき、
足元へ伏せた。
何も言わない。
ただ寄り添う。
恒一は頭を撫でる。
「なあ、ソフィ。」
「残り一年で何ができると思う?」
ソフィは静かに尻尾を振った。
その時だった。
昔の記憶が浮かんだ。
八百屋のおじさん。
アパートの大家さん。
昔通った喫茶店のマスター。
たくさんの人に助けられた。
「元気か。」
「飯食ってるか。」
「また来いよ。」
何気ない言葉。
でも、
その優しさに何度も救われた。
恒一はゆっくり立ち上がる。
「そうか。」
小さく呟いた。
「今度は私が返す番だ。」
机に向かう。
白い紙を一枚取り出す。
ペンを走らせる。
【光バイト募集】
時給500円
年齢不問
経験不問
勤務時間応相談
喫茶店での飲食無料
詳しくは店主まで

書き終えると、自分で少し笑ってしまった。
「怪しい求人だな。」
誰も来ないかもしれない。笑われるかもしれない。
それでもいい。
もし一人でも。昔の自分のように、自分の価値を見失っている若者が来てくれたなら。
その人が自分らしい仕事を見つけられるなら。
残された人生を使う価値がある。
恒一は求人票を入口へ貼った。
夕陽がステンドグラスを照らす。赤。青。黄色。緑。その光は、まるで誰かの未来を照らしているようだった。
そして三日後。その求人票を見上げる一人の大学生が現れる。
ソフィはその青年を見るなり、ゆっくりと近づいていった。
まだ誰も知らない。その出会いが、たくさんの人の人生を変えることになることを。
第一話 おばあちゃんの自慢の孫へ続く 🌈☕🐶📖✨
