「やるぞ馬鹿野郎!」から37年──TIME ZONEという名の時間旅行
今朝、岡本健一がInstagramに動画を上げていた。
1989年8月28日、東京ドーム。ステージの袖で、20歳と21歳の若造たちが煙草を吸いながらスタンバイしている。今では考えられない光景だ。そして高橋和也の「やるぞ馬鹿野郎ー!」という叫びとともに、「Burn it!」のイントロが東京ドームを震わせる。健一がこの映像を見返したのは「何年か振り」だったらしい。
この投稿を見て、ふと日付に気がついた。今日は2026年2月28日。1989年2月28日──TIME ZONEのシングル発売日だ。ちょうど37年前の今日。
そしてもうひとつ。今日の23時59分が、Rockon Social Clubによる男闘呼組カバーアルバム第二弾の収録曲リクエスト投票の締切でもある。
37年前のリリース日と、健一のインスタと、今夜の投票締切。この偶然が重なった日に、書かずにいられるわけがない。
正直に言うと、TIME ZONEのことを書くつもりは、あんまりなかった。このブログは気になった音楽のことを好き勝手に書いているだけなんだけど(最近は男闘呼組ブームが続いているだけでw)、どうしても自分の性分として、王道のど真ん中よりは、ちょっと横にある曲の方に手が伸びてしまう。TIME ZONEみたいな代表曲は、知っている人も語れる人もいくらでもいる。素人の僕がわざわざ書くまでもないだろう、と。まあ天邪鬼なだけなのかもしれないけれど。
でも今日という日に、あの三つの偶然が重なってしまった。こうなると、天邪鬼を引っ込めるしかない。
今回は贅沢な聴き方をした。「TIME ZONE」の5つのバージョンを、時系列で並べて聴いた。
1989年のオリジナル。同じ年の東京ドーム公演。2023年、男闘呼組最後の公演となった日比谷野外大音楽堂。2024年、Rockon Social Clubとして武道館で披露されたカバー。そして2025年、NHK「SONGS」でのパフォーマンス。
同じ「TIME ZONE」なのに、37年ぶんの時間が全部、音に刻まれている。速さが変わり、メンバーが変わり、会場が変わり、でもあのイントロが鳴った瞬間に「あのTIME ZONEだ!!」とわかる。変わったものと変わらなかったものの両方が、胸に迫ってくる。
1989年、スタジオ盤──磨き上げられた「黄金の4分半」
まずオリジナルから。リマスター盤で聴くと、あの時代の空気がぎゅっと詰まっている。
イントロが鳴った瞬間、耳に飛び込んでくるのはシンセサイザーの層とエレキギターの存在感。80年代後半のプロダクションらしい、音がぎっしりと詰まった作り。ドラムがドカドカと前に出ていて、その上をギターの歪みが覆い、シンセの煌びやかな層が全体にキラキラとした膜を張っている。馬飼野康二(Mark Davis)が作曲・編曲を手がけたこのサウンドは、聴いた瞬間に「あ、これはただのアイドル曲じゃないぞ」と身体がわかる。ゴリゴリのロックの骨格に、当時のスタジオテクノロジーをこれでもかと注ぎ込んだ、あの時代にしか鳴らせなかった音。
テンポは速い。走り出したら止まれないような、グイグイと前のめりな推進力。エレキギターがほぼ全編を支配していて、ベースはその下でしっかり土台を固めているけれど、シンセの層の影に隠れがちだ。この「シンセの存在感」が、89年のTIME ZONEの大きな特徴だと思う。ロックなのに、どこか未来的で、華やかで、テレビ越しに聴いても思わず身を乗り出してしまうような音。ゴリッとしたバンドの手触りと、キラキラ光る煌びやかさが同じ4分半の中に同居していて、聴くたびに「うわ、隙がないな」と唸ってしまう。
大津あきらの歌詞が描くのは、時代の流れの中で自分の居場所を探す若者の姿だ。「 ♪ 窓の外に広がった 風の色が変わり始める 」という冒頭から、時間の変化、季節の変化、そして自分自身の変化。当時の4人は20歳そこそこ。この歌詞を歌うには若すぎるようにも思えるけれど、その「若さゆえの切迫感」が、速いテンポと分厚いサウンドの中で不思議にリアルに響いてくる。
89年のシングルとして完璧に計算された、黄金の4分半。
1989年、東京ドーム──5万人の前で剥き出しになった若さ
同じ年のライブ。8月28日、東京ドーム。あのインスタの映像と同じ公演だった。
テンポもキーもオリジナルと変わらない。なのに、空気がまるで違う。
いちばん変わったのは荒々しさだ。オリジナルにあった華やかさの成分がごっそり落ちて、代わりにハードロックの熱量がぐんと上がっている。ギターの歪みがより深く、5万人の空間を塗りつぶすように鳴っている。オルガンがイントロから一気に前に出ているのも面白くて、オリジナルでは控えめだった鍵盤がステージの上では自由に暴れている。
和也のベースもオリジナルより一段太い。後半に向けてどんどんうねりを増していく感じは、ステージの興奮の中でどんどん力が入っていった証拠だろう。管楽器の響きも厚くて、全体として「音の塊」がドーンとぶつかってくるような迫力がある。
健一がインスタで書いていた。「今では考えられないが」「煙草吸いながらスタンバイして」「やるぞ馬鹿野郎!」。その直後に始まったのがこの演奏だ。ミック・ジャガー、マイケル・ジャクソン、プリンス、ヴァン・ヘイレンが立った同じステージで、20歳と21歳の男たちがこの曲を叩きつけていた。その若さの爆発が、映像の中にそのまま焼きついている。
オリジナルが「黄金の4分半」なら、ドーム公演は「剥き出しの4分半」。同じ曲の、同じ年の、全然違う顔。
2023年、日比谷野音──鈴虫の声と、最後の覚悟
ここから34年の時間が飛ぶ。2023年8月26日、日比谷野外大音楽堂。男闘呼組としての最後の公演。ドラムにはGLAYのサポートでもお馴染みのTOSHIが入っている。
まず気づくのは、テンポが当時よりほんの少しだけゆっくりになっていること。ほんとにわずかな差だけれど、聴き比べればわかる。一音一音を噛みしめるように、丁寧に、しっかり演奏している。確か昭次がどこかで、年齢やブランクを考慮してほんの少しテンポを落とした、丁寧にちゃんと演奏したいからだ、と話していた記憶がある。あの頃のように勢いで突っ走るのではなく、一音一音を確かめながら弾くという判断。復帰後のステージに立つ覚悟が、その「ほんの少し」に滲んでいる。
もうひとつ気づいたのは、声の張り方が違うこと。少し力を込めて歌っているというか、55歳の声が気迫を乗せて「♪ 今を突き抜けて確かめろ」と歌っている。同じ曲なのに、響き方がオリジナルとは違って聴こえる。
TOSHIの音はとにかく安定していて、力強い。大きな野外のステージをどっしりと支えている感じ。さすが長年アリーナクラスのステージを叩いてきた人だ、と納得する安定感。後半にギアが上がるあの瞬間の踏み込みが、地面ごと揺らすような太さがあった。
ただ──これは後のRSCバージョンを聴いてから思ったことなんだけど──英樹のドラムと比べると、「支えている」感覚の種類が違う。TOSHIはどんな曲が来ても受け止める「器の大きさ」で支えていて、英樹は「この曲を何年も一緒に演ってきた」空気で支えている。どちらがいいとかじゃなく、色が違う。
音の質感としては、オリジナルにあったシンセやストリングスの層がほとんど消えている。耕陽のボイスチェンジャーが鳴った後は、エレキギター、ベース、ドラム、キーボードの生音だけで構成されている。飾りを削ぎ落とした、ライブバンドとしてのストレートな鳴り方。耕陽のオルガンが前半でしっかり存在感を出していて、バンドの中で重要な色彩を担っている。
そしてね、これは映像を観ていて気づくんだけど、野外だからずっと鈴虫の声が聞こえるんですよ。8月の日比谷、夜の野音。エレキギターの歪みと、ドラムの轟音と、その隙間からリー、リー、と鈴虫が鳴いている。35年前に東京ドームの密閉された5万人の空間で爆音を叩きつけていた曲が、今度は夏の夜風と虫の声に包まれている。その対比に、思わず胸が詰まった。
男闘呼組としては、これが最後のTIME ZONEになった。この公演をもって、男闘呼組は解散した。
2024年、武道館──6人になって、少しだけ明るくなった「TIME ZONE」
ここから先は、「男闘呼組」ではなく「Rockon Social Club」の話になる。
2024年、RELOADED TOUR SUMMER OF LOVEの武道館公演。メンバー4人に寺岡呼人と青山英樹が加わった6人編成で演奏されたTIME ZONE。アレンジは寺岡呼人が手がけている。
聴いた瞬間、身体が受ける印象がもう違う。2023年の日比谷が全身に「これが最後だ」という緊張を走らせたのに対して、こっちはもっと胸が開くような感覚がある。6人のバンドとしての音の厚みがあるぶん、ひとりひとりの楽器が無理をしなくていい。その「余裕」が、聴いている側の身体まで楽にしてくれる。ギターが3本(成田昭次、岡本健一、寺岡呼人)という構成が、音の中間層をぐっと豊かにしていて、日比谷では剥き出しだった隙間が温かい音で満たされている。
英樹のドラムが入った瞬間に、空気が変わるのがわかる。英樹は2020年に昭次が音楽活動を再開したときからずっとサポートを続けてきた人だ。何年も一緒にやってきた芯の太さが、この6人の中でも骨格をしっかり支えている。
日比谷のTOSHIが「この会場を支える」という感じだったのに対して、英樹は「このバンドの呼吸を知っている」という感じ。次にどう来るかをお互いに知っている者同士の、自然な一体感。その安心感が、音の隅々にまで行き渡っている。
面白いのは、オリジナルのキーに近い響きに戻っていること。2023年の野音では声の張り方の影響か少し高めに聴こえたのに対して、RSC版はオリジナルと同じ高さで鳴っている。寺岡呼人のアレンジが意識的にそう選んだのかはわからないけれど、結果としてこのバージョンは「89年の曲を、2024年の6人のバンドが正面から受け止めて鳴らし直した」という印象になっている。
英樹の父、故・青山純さんは、かつて男闘呼組の楽曲にもドラムで参加した伝説的なドラマーだった、という話は以前も書いた。昭次がどこかで「1枚目か2枚目アルバムあたり」と話していた記憶がある…正確なところは僕の記憶違いかもしれないのだけれど、TIME ZONEは3枚目のシングルだから、時期的には重なる可能性がある。もしあの1989年のオリジナルのドラムを叩いていたのが青山純さんだったとしたら…37年の時を隔てて、父と息子が同じ曲のリズムを刻んでいることになる。確証はない。でもそう想像するだけで、ちょっと鳥肌が立つ。
2025年、NHK SONGS──ぎゅっと凝縮された誇り
最後に観たのが、2025年11月にNHK「SONGS」で放送されたRSCのパフォーマンス。男闘呼組メドレーの中のTIME ZONEだから、ほんの2分弱。でも、この短い時間がちょっとすごいのだ。
武道館が「6人の余裕」だったとすれば、SONGSは「6人の気迫」だった。
まず、音の色が違う。鍵盤の存在感がどのバージョンよりも濃い。ちなみに、男闘呼組もRSCもずっとサポートキーボードはほぼデビン木下さんだけれど、このNHK SONGSではNARITA THOMAS SIMPSONでもサポートしてくれたSam Pomanti(B'zのサポートキーボードとしてもお馴染み)が弾いている。そのSamの手触りが加わったからなのか、オルガンが曲の頭からずっとしっかり鳴り続けていて、ピアノもくっきり聴こえるし、ベルの音もキラリと差し込んでくる。短い時間の中で、鍵盤が完全にバンドの色を決めている。5つの中でいちばん「ブルージー」と言ったらいいのか、泥臭さがぐっと増している。
今夜放送されたNHK SONGSでRockon Social Clubのサポートで演奏させていただきました!🎹
— Sam Pomanti (@sampomanti) November 13, 2025
豪華なゲストもいらっしゃって楽しい時間でした!ありがとうございます! https://t.co/MegJzx40dE
英樹のドラムがほとんど休む間なく叩き続けていて、凝縮されたエネルギーが一気に押し寄せてくる。出し惜しみなんか一切ない。テレビの前の、この曲を知らない人にも届けるんだという気迫。
いちばん印象に残るのは、どのバージョンよりも堂々としていること。若さの暴発でもなく、最後の覚悟でもない。もっと胸を張った、「これが俺たちの曲だ」という誇り。NHKのスタジオで、テレビの向こうの知らない人たちにも届くように、37年ぶんの蓄積をぎゅっと詰め込んで鳴らしている。
正直に言うと、この2分弱を観終わったとき、しばらく動けなかった。たった2分弱なのに、37年ぶんの全部が入っていた。
5つの「TIME ZONE」を並べて見えた景色
こうして5つを順番に聴いていくと、面白いことがいくつもある。
ひとつは、テンポの変化。89年の勢いのある速さが、2023年以降はほんの少しだけゆっくりになっている。聴き比べないとわからないくらいの差だけれど、そこに「もう一音たりとも無駄にしたくない」という覚悟が滲んでいる。若い頃は勢いで突っ走れた。でも50代のステージでは、一音一音を噛みしめて、確かめるように弾く。
もうひとつは、和也のベース。89年のオリジナルではシンセの影に隠れていた低音が、ドーム公演ではうねりを増し、日比谷では曲の土台をどっしり担い、RSC以降は6人の音の塊の中で地面を踏みしめるように鳴っている。年を追うごとにミックスの中での存在感が増していく。35年かけて身体に刻んできた、ベーシストとしての成熟そのもの。
そして何より、これがいちばん胸に来るのだけれど──曲の纏っている空気が、バージョンごとにまるで違う。89年のオリジナルは華やかで勢いがあった。同年のドームではそれが荒々しい熱量に変わった。2023年の日比谷では、鈴虫の鳴く夜空の下で、「最後だから一音も逃さない」という静かな気合が漂っていた。2024年のRSCでは、仲間が増えた安心感からか、どこか明るい風が吹いていた。そして2025年のNHK SONGSでは、堂々と胸を張った誇りがあった。
若さの爆発。最後の覚悟。新しい仲間との手応え。そして誇り。TIME ZONEという一曲が、37年の物語をそのまま映している。
5つのバージョンすべてで、曲の頭に前田耕陽のボイスチェンジャーが入っている。89年のオリジナルでも、5万人の東京ドームでも、鈴虫の鳴く日比谷の野音でも、RSCの武道館でも、NHKのスタジオでも。37年間、あの声が「 It's TIME ZONE...」と告げて、曲が始まる。
先週、耕陽のことを「男闘呼組の良心」と書いた。FOREVERで男闘呼組の最後を閉じた人。でもTIME ZONEにおける耕陽は、37年間この曲の扉を開け続けている人だ。閉じる人でもあり、開ける人でもある。
メンバーが増えた。ドラマーが変わった。テンポがほんの少し変わった。歌の高さが変わった公演もあった。会場が変わった。時代が変わった。でもあの声だけは変わらない。
「TIME ZONE」──時間帯。37年越しに、タイトルが別の意味で響いてくる。1989年の歌詞では、恋人との別れと旅立ちの時間帯だった。でも今、5つのバージョンを並べると、これはひとつのバンドが歩んできた「 時間の地層 」そのものだ。20歳の地層、55歳の地層、6人になった地層。どの地層にも、同じメロディが流れている。
大津あきらが書いた「♪ 今を突き抜けて確かめろ 明日への鼓動」。89年には未来への宣言だったこのフレーズが、2023年の最後の公演では「もう一度だけ」という祈りに聞こえ、2024年のRSCでは「まだ続けるんだ」という確信に聞こえた。同じ言葉が、時間の重みで、全然違う景色を見せてくれる。
今日、2026年2月28日。TIME ZONEが生まれて37年目の日。
もしカバーアルバム第二弾でこの曲が選ばれたら、6つ目のバージョンが生まれることになる。寺岡呼人のプロデュースのもと、6人のRSCがスタジオで正式に録る、2026年のTIME ZONE、それはどんな音になるんだろう。ライブの一回性とは違う、「作品」として磨き上げられた形…想像するだけで鳥肌が立つ。間違いなく素晴らしいものになるでしょうね。5つのバージョンを聴いてきたこの硬い耳が、そう確信している。
男闘呼組は解散した。でも、あのメロディはRockon Social Clubの6人の手で鳴り続けている。カバーアルバムという形で、まだ見ぬバージョンが生まれるかもしれない。終わったのではなく、続いている。形を変えながら、人を変えながら、でも芯は変わらないまま。
さて、今夜の23時59分まで、まだ時間はある。あなたの一票は、どの曲ですか?
IT'S TIME ZONE。
いいなと思ったら応援しよう!
ありがとうございます