【短編集‐花の冠】第三一話『語りかえ(番外)』
語りかえ(番外)-グラージュ-
語りかえってのは、
何かを美しく塗り替えることじゃない。
俺たちが語ったのは――
フェイルの“逃げた心”だった。
立派な言葉に言い換えるんじゃない。
赦しを与えることでもない。
ただ、俺たちは、それをまっすぐ見た。
……いや、俺は、ようやく見られたんだ。
フェイルは、逃げた。
自分の正しさにすがって、最後には全部を投げた。
俺を突き放す言葉で、自分の責任からも、家族からも、全部から――。
……それでも、あいつは最後に戻ってきた。
語りなおすために。
“逃げた心”を、言葉にするために。
あれは、誰かのためじゃなかった。
たぶん、あいつ自身のためだったんだ。
そして、語られた言葉は、俺の中に残った。
だから、俺は決めた。
この言葉を、俺のものとして語りかえる。
フェイルがどうだったかを決めるのは、もう“記録”じゃない。
俺自身が、“どう語るか”を決める。
俺は、こう語る。
「あいつは逃げた。でも、最後の最後に、それを認めた」
「あいつは俺を傷つけた。でも、その痛みを、俺の前で引き受けた」
あいつを、美化はしない。
でも――
俺は、あいつが“戻ってきた”ことを語る。
最後の場所に、俺たちの前に、あいつが立ったことを。
語りかえってのは、きっとそういうものだ。
記録じゃない。
誰かが書いた物語じゃない。
俺の声で、俺の言葉で、
あいつの生を、語りなおすこと。
……それが、きっとあいつの救いで。
それが、たぶん俺の救いなんだ。
それで、いいんだ。
《完》
