英次のスケッチブック(イラストと文章と音楽で紡ぐ作品集)
ーー白薔薇、月読、深窓、女王、そして描けなかったユエ。 英次のスケッチブックには、衣装という形を借りた魂の物語が綴られている。 静子がそのページを開いたとき、二人の世界は静かに重なり始めた。
⁂この章に登場する音楽作品は、全てAIで作成されたものです。当方に著作権はありませんので、お好きにダウンロードしてお楽しみいただけます。ただし、素材としての再配布はご遠慮下さい。
白薔薇のユエ
ページをめくると、 そこには静かに佇む“白薔薇のユエ”が描かれていた。
髪は光を吸い込むような プラチナブロンド。 まっすぐに落ちるロングストレートは、 一本一本が細い絹糸のように丁寧に描き込まれている。
衣装は、黒のユエとは対照的な“白の神話”。

姫袖は大きく広がり、袖口には白薔薇のレース
スカートの上には金属製クリノリン 細い金属線が幾重にも重なり、 光を受けて淡く反射している
スカートはソフトチュールを重ねた雲のようなボリューム
ウエストには白革のコルセット 銀のハトメと細い編み紐が、 ユエの身体の線を静かに強調している
足元は、英次がこだわり抜いた 白のロッキンホースバレリーナ。 白みがかったストッキングが、 足のラインを柔らかく包んでいる。
メイクは、 英次が「静子さんに似合うと思って」と言いながら描いたもの。
さくらんぼのような丸みのある唇 ほんの少しグロスが光る
頬には淡いピンクのチーク
睫毛は束感を強調し、瞳を大きく見せる
ネイルは差し色のすみれ色をベースに銀色の月のプリント 細い筆で描かれた三日月が、光を受けてきらりと白く輝く。ダイヤの輝きを模したスワロフスキーのストーンが更に三日月の端に揺れている。
全体は白で統一されているのに、 決して“弱い白”ではない。 むしろ、 夜の静けさを支配する“月の白” として描かれている。
英次の筆跡は、 どこか祈るように丁寧で、 ページ全体が静かな光を放っていた。
「この衣装も素敵なんだけど、もっと儚さの中に強さがあるような印象に仕上げたかったんだ。」
月読のユエ — 漆黒の闇を支配する白銀の巫女
黒い薔薇が無数に咲き誇る布地は、 ただのゴシックロリータでは終わらない深い気配をまとっていた。 その黒は夜の闇ではなく、 闇そのものがユエの身体に仕えているような黒。

袖は着物のように四角く、 しかし和装特有の重さは一切ない。 大胆に肩を露わにしたデザインが、 古典と前衛の境界を軽やかに越えている。
ウエストには帯地を用いたコルセット。 白銀の糸が織り込まれたその帯は、 ユエの身体を優雅に締め、 愛らしさと格調の高さを同時に成立させる 英次らしい矛盾の美学だった。
脚にはニーハイストッキング。 ガーターベルトがわずかに覗き、 静かな闇の中にひとつだけ熱を灯す。 足元は裏朱の黒いピンヒール。 歩くたび、朱が月光を反射し、 まるで夜の神域に足跡を刻むようだった。
スカートは広がりすぎず、 幾重にも重ねたソフトチュールが 夜の闇を薄く薄く積み重ねたような深さを生む。 その上に、細いレースをランダムに縫い合わせた装飾が揺れ、 風もないのに、 ユエの周囲だけが静かにざわめいているように見える。
これは、 “漆黒の闇を支配する月読のユエ”。 夜の神話が、ひとりの少女の姿を借りて現れた瞬間だった。
「こんな美しい女性になれるならどんなにいいだろうと思っては、叶わない夢だと思って諦めてきた。だけど今、そのユエの現身ともいえる女性に出会って、俺は、初めて、自分の夢に輪郭を与えられた。色彩になってくれるのは、静子さん、その人だ。」
深窓の令嬢ユエ — 明治の館に潜む白い影

時は明治。 文明開化のざわめきが遠くに聞こえるだけの、 深い森の奥にその館はあった。
中世ヨーロッパのゴシック建築様式を模して建てられたその建物は、 日本の湿った空気の中で異様なほど静かに佇んでいる。 塔の先端には風見鶏、 窓には重いステンドグラス。 しかし、その窓に近づくことは許されない。
「ユエ様、決して窓には近づいてはなりませぬ」
ばあやのその言葉とともに、 ユエは育った。
14歳の彼女には、すでに家の決めた由緒正しき家との結びつきの取り決めがあった。顔も名前もまだ見知らぬ許婚のために、幼い恋は生じる間もなく想像から暗闇へと消えていった。
彼女の衣装は、 その“閉ざされた世界”を象徴するようなクラシックロリータ。
ヴィクトリアンメイデンを思わせる厳密なカッティング。 一センチの緩みも許さないパターン。 控えめなレース使いが、 かえって彼女の可憐さを際立たせる。
ワンピースは美しいプリンセスライン。 幾重にも重ねたチュールのペチコートの上に、 レースのペチコートがふわりと重なり、 歩くたびに静かな衣擦れの音を立てている。
足元はワンストラップの革靴。 古い館の床を踏むたび、 その音はまるで時を刻む時計のようにコツコツと響く。
襟元はスクエアカット。 白い肌に浮かぶ鎖骨の線が、 息を呑むほど美しい。
髪は黒。 姫カットの直線が、 彼女の静謐さをさらに強調している。 頭には小さな帽子── まるで“外の世界”を知らない少女が、 唯一外界を夢見るための象徴のように。
ユエは今日も、 窓辺に近づかないようにしながら、 静かに館の廊下を歩く。
その姿は、 まるで時代に取り残された白い影。 しかし、 その影は確かに息づいている。
「俺がもし、生まれる前の記憶に、残るものがあったなら、こんな景色を宿していたんじゃないかと思うよ。そしてきっとかつての、彼女は夢見たんだ。窓の外が見たい。家の決めた許婚なんていらない。私は男の人になってみたい。そして自分の力で運命を切り開いてみたいって。だから俺は今の状況を、こう捉えているんだ。今の俺は、かつてのユエが、なりたがった未来なんだって。」
女王ユエ — 血と美を統べる永遠の玉座
この城には、古くからひそやかに囁かれる噂があった。 夜ごと消える美しい少女たち。 そして、城の奥深くに棲むという、 “永遠の若さを持つ呪われた女王” の伝説。
その名は──ユエ。

彼女は美の女神であり、 同時に血を糧とする夜の支配者でもあった。
ユエが纏う衣装は、 まるでエリザベス女王の肖像画から抜け出したかのような 豪奢な襟飾りを持つ重厚なゴシックドレス。
襟は大きく立ち上がり、 白い首筋をまるで聖遺物のように囲い込む。 その下に広がるロングスカートは、 張りのある布地にびっしりと刺繍が施され、 光を受けるたびに深紅と黒の影が揺れた。
スカートの裾は重く、 どっしりとした石の嵌め込まれた装飾性の高い靴は歩くたびに城の石床に低い音を響かせる。 その音は、まるで “永遠の時を刻む鐘” のようだった。
ユエの髪は美しい巻き毛。 その髪をくるりとまとめた頭には、 重たい金色の王冠が静かに戴っている。ルビー、スピネル、ガーネット、エメラルド、サファイア、ダイヤモンド。そういった色彩に溢れた宝石がふんだんに散りばめられたその王冠は、 彼女の瞳に宿る冷たい光を反射し、 見る者の心を凍らせた。
そして、 彼女の指先に塗られたネイルは── 血のように深い赤。
まるで、 命を奪われた少女たちの祈りが その色に封じ込められているかのようだった。
ユエは銀狐の毛皮を縁取りに用いた、豪奢な真紅のマントを身に纏い夜の玉座に座り、 静かに微笑む。 その微笑みは、 美しく、優雅で、そして残酷。
彼女は知っている。 美は血を求め、 血は美を永遠にする。
だからこそ、 ユエは永遠の女王なのだ。
「こんな恐ろしい魅力を持つ女性に、抵抗できる人間はいるんだろうか。男も女も、彼女の虜になるのだろう。そんな彼女が纏う美しくも恐ろしい衣装を、俺は作りたかったが何しろ予算が無くてな。情けないが、没だ。ビジューで、代用しようとしたら、恐ろしくチープになってしまった。」
月光浴をするユエ
月の光を浴びる事でエネルギーを補充する甘えん坊なユエ。彼女は人間と違ってご飯を食べない。月の光を浴びる事以外にも、月の光で育つ花の蜜を固めた月魄糖という特殊なお菓子だけを食べていて、それを食べるために可能な環境を整えるため、彼女を大切に育ててきたおじいさんは、彼女を帝に嫁がせる。

しかし、甘えん坊で淋しがりのユエは、泣いてばかりいて、ちっとも帝を喜ばせることが出来なかった。怒った帝は、ユエを太陽の下へと引きずり出してしまう。命に危険が及ぶので、普段は、決して出られない強すぎる光の下。普段は月光の弱い光だけで、生きていられるユエの内側に急激に蓄えられたそのエネルギーが体が破裂する痛みと共にあふれ出て、豪奢な衣装に火がついてしまい、そのどっしりと重い絹織物で作られた十二単の衣装ごと激しい炎の中、泣き叫びながら燃え落ちて行く、そのユエの凄絶なまでの最後の美しさは、地獄変のようだ。
衣装は十二単。長い黒髪がおすべらかしに結い上げてある、なまめかしく、美しく、どこまでも清冽な印象の高貴な姫君としてのユエ。
「可哀想で、可哀想で、俺はどうしてもこのユエを描けない。だって、彼女は、愛しい人々と一緒に暮らしたいだけなんだ。好きな人と手をつないだり、名前を呼んだり、そんな当たり前の事を、望んだだけなんだ。それなのに、生まれ持った性質が、他人と違うというだけで、そんな小さな願い事も叶わない。誰かの決めた外圧のせいで、そんな事さえ出来なくなるなんて、どうしても理不尽としか思えない。俺はユエを助けてあげたいのに、物語の必然として、どうしてもこんな風に悲劇のままに描き上げないといけなかった。」
英次の「未完成のページ」
涙で滲んで、紙が荒れている。消しゴムで何度も消したせいもあるが、筆圧が乱れた、その絵はどうやら、燃え落ちる十二単に包まれたまま泣き叫ぶ、幼さを残したユエだったようだ。
そして閉じられるスケッチブック
「静子さん。ここまで見てくれてありがとう。君がなりたいユエは、このなかのどれだい?俺は、最後のユエ以外には、君はなれるんじゃないかと思うよ。いつか、俺がまた、素敵な衣装を縫い上げられたら、又モデルになってほしい。というより、君じゃないといけないし、君じゃなければ無理なんだ。」
ーー静子の目は潤んでいた。目の前の英次がなぜ、最後のユエを描くことが出来なかったのかを直感で理解したからだった。きっと、彼は私と同じか、もっと深いところで、愛を踏みにじられてきた人だったのだろう。
「ーーええ。きっと。何度でも、ユエになるわ。あなたの夢の中を舞台の上でだけでも生き抜いて見せるわ。」
静子は、深く頷いた。
ーーページを閉じるとき、英次の指先はわずかに震えていました。 それは痛みではなく、誰かに見つけてもらえた安堵の震え。 この物語が、あなたの心にも静かに触れ、 そっと灯る光のように残ってくれたら幸いです。
自分を嫌いだった私が、月の女神になった話──あの日のドレスが、私を変えた|関口直子
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします!頂いたチップは、私の創作活動費に使わせていただきます!