第43話 「ライダーキック」
昨年、二千年版ライダーカードを集めていた頃、職場の先輩がオタクの人を見る様な視線で「へえ、仮面ライダーが好きなんだぁ」と言うので、適当に相槌を打つと、
「へえ、好きなんだあ」
「あ、いや」
「へえ、好きなんだあ。あ、皆。緑皮君がね」
(あ、こら。ちょっと待て)
と来るではないか。流石にこうも連発されては敵わない。
抑々、懐しいのと好きなのとは違うのであり、高がカード蒐集程度で幼少の砌よりずっと継続して好きだと思われるのもちょっとあれだし、これは往時のカードの全貌を暴きたいという欲求なのであって、今流にいえばリベンジなのであり、挙げ句の果てにはクウガとかアギトとかいう訳の解らぬ亜流物と一緒にされるに至っては言語道断であり、「ごんごどうだん」ではなくて「げんぎょどうだん」と語気を荒らげるのであり、大体クウガとかアギトとか漢字で書いてしまえば単に空牙とか顎なのであり、何だそりゃなのであり、あのトレンデェドラマの樣な緊迫感の無さには「いい加減にせえ」と言いたいのであり、ああいう軟弱者にはライダーキックをお見舞いするか電子陽電子生成消滅真空偏極散乱振幅を計算させて鍛えてやらねばならぬと思ったりするのである。ぜえぜえ。
斯様にして、これまで幾度となく通称ダブルライダーたる1号・2号の人気の所在について述べる機会を得て来た訳だが、結局は「矢つ張り好きなんじゃない」と返されるのが落ちであり、「そうかもね」と認めてしまうところがどうも弱腰であり、記憶の矛盾やら失念事やら全くの不知を認識するにつけ、三択問題を作って喜んでいるあたり変人ぶりを遺憾なく発揮していると思うし、更に質の悪い事に今、私の手元には新作問題が三十許り用意されていたりもする。こうなるともう駄目で、素人目にはかなり嵌ってしまっていると言わざるを得ないが、ふふふまだ甘い。電網の世界には私など足元にも及ばぬ偉大なオタク連が白昼抜剣しておられるのである。
ところで昔、ライダーキックを真似て高所から飛び降りて怪我をする児童が続出し、ライダー人気の火付役であるテレビマガジン誌に於ては、責任感からか其の様な危険行為は止める様にと編集長自らの顏写真付き呼び掛け記事までが掲載されるに至ったのである。これが街頭演説だったらかなり集票できた可能性があるが、更に驚愕する事に同誌附録「本郷猛、声の年賀状」と称してその実、危険行為を止める様に呼び掛けるメッセージが世の少年達に送られていたのである。ライダーキックの魅力的な効果音付きでは効果が無いと思うのだけれど。そこで懐しの「本郷猛、声の年賀状」を改めて聴いてみたいと思う。
ブキシン!ポララーヒック(チャラ)ポララーヒック(ぶおおー、キヒィー)パラーララッパー、パラーララッパー、パワワーバイパー。
仮面ライダーを応援してくれてる君達。新年おめでとう。仮面ライダー1号の本郷猛です。(チャララララ、チャララララ、チャララララー)
昨年はゲルショッカーの恐しい攻撃から日本を衛る事ができた。
だが悪魔の軍団は、今年こそはと君達の平和な町を占領しようとしてるに違いないんだ。
ところで一つ、僕と約束をしよう。守れるかって?君達ならできるさ。
一つは外でおもっきり運動して体を鍛えるんだ。
炬燵で丸くなったりしたら駄目だ。(ウィーす)
いざという時ゲルショッカーの怪人が現れたら、僕が助けに行く前にやられてしまう。(チャッチャラッチャ)
だけどライダーキックやジャンプの真似をしてはいけない。
あれは、「もんくり」をしてる僕にだけ出来るんだ。
(もんくりって何ですか?)
それからもう一つ。勉強もしっかりしような。
この二つの約束、守ってくれるね。僕と友達の君。
ぶおー。いいぃー。(背景音楽、二番へ突入)
んん、出たな!ゲルショッカーの怪人!!こい!こめんらいだあが相手だ。とお!(ブシン)とお!(ブシン)ライダーキック!(バーン)
んー、しぶとい奴だー。ライダーキックでも倒れないとは。
止めだ!ライダー錐揉みシューッ!とおー!(バアーン)イィー。
んー強い。ゲルショッカーの怪人は一段と強くなっている。
こうしてはいられない。これから猛訓練だ。
ところで、テレビ・マガジン2月号、読んだかい。
(こうしてはいられないんじゃ。それにこれって新年号じゃ…)
僕の大特集、本郷猛のなぞとひみつ百が載っているんだ。凄く面白いぞぉ。必ず読んでくれ給え。それじゃ、みんな。約束だよ。
(これって三つめの約束ですか)
僕はいつも君達を見守っているからね。テレビでまた会おう。
さよなら。
それにしても本郷の声には真に迫るものがある。上手過ぎる。迫力ある渋い本郷の声を再認識するに至り感銘を受けた私は、此處に本郷へ返信の手紙を出す事にした。
本郷 猛 様
約束全部守れませんでした。炬燵で丸くなってました。御免なさい。でもゲルショッカーの怪人に備えて竹刀とかヌンチャクの武器を枕元に置いて寝てました。誉めて下さい。けど、怪人は現れませんでした。でも、僕のクラスにゲルショッカーからやって来た坪井という悪い奴がいて、何時も僕を苛めるんです。でもライダーは助けに来てくれませんでした。約束を破る事になるけど、仕方が無いのでライダーキックでやっつけてやりました。胸がスーっとしました。矢つ張り錐揉みシュートの威力は凄かったです。
テレビマガジン2月号も読みませんでした。でも講談社から一万数千円で売りつけられた LIMITED BOX の御陰で読む事が出来ました。凄く面白かったです。別な意味で。でも講談社もえぐいです。カード収納用ファイルの表紙がプラスチックで、寒い冬場になると折り目がパリッといきそうです。紙製にするのが常識ですよね、ライダー。あと、ショッカーベルトと怪人フィギアは余計だと思います。金返せ。ライダーから文句を言っておいてくれると嬉しいです。
追伸:こうして雑文書いてる御陰で「もんくり」の意味が解る様になりました。成長しました。これからも駄洒落のもんくりをして、面白いのが書けるようになりたいです。
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