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「優秀な人ばかりなのに、なぜ判断を間違えるのか」――古賀史健さんの『集団浅慮』をわかりやすく読む

頭のいい人が集まれば、いい判断ができる。
たぶん、私たちはどこかでそう信じています。

でも現実には、優秀な人が集まった組織ほど、妙におかしな決定をしてしまうことがあります。しかも、その判断はあとから見ると「なぜ誰も止めなかったのか」と思うようなものだったりします。

古賀史健さんの『集団浅慮――「優秀だった男たち」はなぜ道を誤るのか?』は、まさにその不気味さを言葉にした本です。ダイヤモンド社の公式紹介によれば、この本は2025年3月31日に公表されたフジテレビの第三者委員会調査報告書をきっかけに執筆された一冊です。※1 ※2

この記事では、この本のポイントをできるだけ平易に、でも薄くならないように整理してみます。
結論から言うと、この本が怖いのは、「特殊な会社の特殊な失敗」を描いた本ではないからです。むしろ、私たちがいる職場やチームにも、かなり静かに入り込んでくる話だからです。


この本は、フジテレビの話「だけ」ではない

『集団浅慮』は、表向きにはフジテレビ問題を出発点にしています。
ただ、古賀さんが本当に見ようとしているのは、一企業の不祥事そのものというより、組織がどうやって自分で自分を見えなくしていくのか、という構造です。※1 ※2

フジテレビの第三者委員会報告書では、組織の問題として「同質性・閉鎖性・硬直性」が繰り返し指摘されています。実際、報告書は、経営判断の浅さやハラスメント感度の低さの背景に、多様性の欠如があると述べています。※2

ここで大事なのは、
「誰か一人が極端に悪かった」
で終わらせないことです。

この本が突きつけるのは、善人の集まりでも、いや、善人の集まりだからこそ、集団でおかしくなることがあるという事実です。


「集団浅慮」とは何か

「集団浅慮」は、英語でいうgroupthinkです。社会心理学者アーヴィング・ジャニスが提唱した概念で、集団の結束や同調を優先するあまり、批判的な検討が弱まり、結果としてまずい意思決定に向かってしまう現象を指します。※3

言い換えると、こうです。

みんな仲がよく、みんな優秀で、みんな同じ方向を向いている。
その状態は、一見すると理想的に見える。
でも実は、そのとき組織はかなり危ない。

この本のおもしろさは、ここを単なる心理論で終わらせず、日本の組織文化の肌触りにまで落としているところです。

いちばん刺さった点①「人権意識が大事」だけでは足りない

不祥事が起きると、よく「人権意識を高めよう」と言われます。
もちろん、それ自体は間違っていません。

ただ、この本が鋭いのは、「意識」だけでは組織は変わらないと見ているところです。

なぜなら、意識はしばしば主観だからです。
「自分はちゃんと配慮しているつもり」
「悪気はなかった」
「傷つけるつもりはなかった」

この“つもり”は、ときどきものすごく危うい。

第三者委員会報告書は、再発防止策として人権尊重を基軸に据えた事業と経営体制の構築や、ハラスメントを重要な人権問題として扱うリスク管理体制の見直し、さらに人材の多様性確保を提言しています。※2

つまり必要なのは、気持ちとしての「思いやり」だけではなく、
制度・知識・ガバナンスとしての人権です。

私はここが、この本のかなり重要な芯だと思いました。

やさしさは大切です。
でも、組織を救うのは、やさしさだけではありません。
知識として何がアウトで、どこにリスクがあり、どう止めるかを知っていること。そこまで行って初めて、人権は「空気」ではなく「仕組み」になります。


いちばん刺さった点②組織が壊れはじめる「8つのサイン」

ジャニスは、集団浅慮に陥った集団に共通する8つの兆候を挙げています。※3

ここでは、できるだけわかりやすく言い換えます。

1. 自分たちは大丈夫だという空気

過去の成功体験が強いほど、
「うちがそんな失敗をするはずがない」
という妙な自信が生まれます。

2. 自分たちは正しいという思い込み

成果がある組織ほど、
「自分たちは本質的に善だ」
と考えやすい。すると倫理の点検が甘くなります。

3. 都合の悪い情報を軽く扱う

警告や違和感が出ても、
「それは一面的な見方だ」
「事情を知らない外野の話だ」
と処理してしまう。

4. 反対する相手を見下す

異論を「ちゃんと向き合うべき意見」ではなく、
「わかっていない人の反応」として片づける。

5. 自己検閲

本当は気になる。
でも、言わない。
空気を壊したくないからです。

6. 全会一致の幻想

誰も反対しないので、
「みんな賛成なんだ」
と思い込む。
でも実際は、みんな黙っているだけかもしれません。

7. 異論への圧力

反対意見を出した人に、目に見えない形で
「今それ言う?」
という圧がかかる。

8. 「心のガードマン」が現れる

これは特に厄介です。
上の人に不都合な情報を入れないように、誰かが勝手に「防波堤」になる。
するとトップほど、現実から切り離されていきます。

こうして並べると、特別な話には見えません。
むしろ、どこにでもある会議の風景に見えてくるのが怖いところです。


いちばん刺さった点③「居心地の良さ」は、健全さの証拠ではない

この本でかなり印象に残るのは、
組織の居心地の良さを、そのまま良さだと見ないところです。

普通は、
「風通しがいい」
「みんな仲がいい」
「阿吽の呼吸で進む」
と言うと、いい組織に聞こえます。

でも、それが同質性の高さによって成り立っているなら話は別です。

第三者委員会報告書も、問題の背景として年配男性を中心とした組織運営、ハラスメントに寛容な企業体質、女性の役員・上級管理職登用の停滞、旧態依然とした組織風土などを指摘しています。※2

ここでいう「居心地の良さ」は、
本当は、同じ人たちだけで通じるノリかもしれない。
そして、そのノリを守るために、誰かの違和感や痛みが見えなくなっているかもしれない。

この視点は、かなり身に覚えがあります。

職場でも、コミュニティでも、仲間内でも、
“話が早い”ことと、“ちゃんと考えられている”ことは別なんですよね。

むしろ、話が早すぎるときほど危ない。
なぜなら、そこには省略された痛みがあるかもしれないからです。


いちばん刺さった点④多様性は「きれいごと」ではなく、安全装置である

最近はダイバーシティという言葉がよく使われます。
でも、ときどきこの言葉は、耳ざわりのいいスローガンみたいに消費されます。

この本を読むと、そうではないことがよくわかります。

多様性は、組織を感じよく見せるための飾りではない。
集団浅慮を防ぐための、かなり実務的な安全装置です。

第三者委員会報告書でも、組織の同質性・閉鎖性・硬直性の弊害を解消するため、ジェンダーダイバーシティを含む多様性の確保が喫緊の課題だと位置づけています。※2

ここで大事なのは、
多様性が組織に持ち込むものは、単なる“彩り”ではないということです。

それはたぶん、わずかな居心地の悪さです。

でも、この“わずかな居心地の悪さ”こそが大事です。
なぜなら、誰かが
「それ、変じゃないですか」
と言える余白になるからです。

全員が同じ感覚で、同じスピードで、同じ前提で動く組織は、効率がいいように見えます。
ただしそれは、間違えるときも全員で一気に間違えるということでもあります。


この本が本当に怖いのは、読者自身が安全圏にいられないこと

『集団浅慮』は、誰かを断罪して終わる本ではありません。
そこが、この本のしんどさでもあり、誠実さでもあります。

読んでいると、
「ひどい組織だな」
で終わらないんです。

むしろ途中から、
自分は会議で黙っていなかったか
“今は言わないほうがいいか”で飲み込んだことはなかったか
“うちのやり方”を理由に、人を雑に扱っていなかったか
と、だんだん自分のほうに問いが返ってきます。

つまりこの本は、
組織の批評であると同時に、沈黙の批評でもあるのだと思います。

人は、露骨な悪意ではなく、
その場の空気に合わせた小さな沈黙によって、加害の側に回ってしまうことがある。

この本は、そのことをかなり静かに、でも逃げ場のない形で見せてきます。


じゃあ、どうすればいいのか

この本から受け取れる処方箋は、わりとはっきりしています。

「もっと仲よくする」ことではありません。
むしろ逆で、異論が出ても壊れない組織にすることです。

たとえば、

  • 反対意見を出した人を「空気の読めない人」にしない

  • トップに不都合な情報ほど届く仕組みをつくる

  • 人権やハラスメントを感覚ではなく知識で学ぶ

  • 意思決定の場を、似た属性の人だけで固めない

  • 「みんな賛成」に見えるときほど、本当にそうか確認する

こうしたことは、どれも地味です。
でも、組織が壊れるときはだいたい、派手にではなく静かに壊れます。
だから防ぐ方法も、たぶん静かで地味なものになります。


まとめ『集団浅慮』は、「あの会社」の本ではなく、「私たち」の本

古賀史健さんの『集団浅慮』をひと言で言うなら、
優秀さがあるのに、なぜ組織は愚かになるのかを解き明かす本です。※1 ※3

そしてもうひと言足すなら、
その愚かさは、悪意よりも、同調と沈黙から生まれるという本でもあります。※2 ※3

読後に残るのは、単純な怒りではありません。
少し苦い、自分ごとの感覚です。

「うちの組織は大丈夫」と思った瞬間が、いちばん危ない。
「居心地がいいから健全だ」と思った瞬間も、たぶん危ない。

だからこそ、この本は不祥事本として読むより、
自分の働き方、自分の沈黙、自分の同調を点検する本として読むと、かなり刺さります。

今日どこかで、
ほんの少しだけでも「それは違うのでは」と言えるか。
たぶん『集団浅慮』が読者に手渡しているのは、
そういう小さな勇気なのだと思います。

参照元リンク一覧

※1 ダイヤモンド社『集団浅慮 「優秀だった男たち」はなぜ道を誤るのか?』書籍ページ
https://www.diamond.co.jp/book/9784478123683.html

※2 フジテレビ「調査報告書(公表版)」
https://www.fujitv.co.jp/company/news/250331_3.pdf

※3 Britannica, “Groupthink”
https://www.britannica.com/science/groupthink

※4 ダイヤモンド・オンライン「フジテレビ問題の本質、『集団浅慮』とはなにか」
https://diamond.jp/articles/-/378116

※5 ダイヤモンド・オンライン「『嫌われる勇気』の著者は、なぜフジテレビ問題に挑んだのか?」
https://diamond.jp/articles/-/377295


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