選挙のAI偽動画はどう変わる? 「表示義務」とSNS対策法案を条文から読む
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2024年の選挙で何が問題になり、なぜSNS対策法制が必要とされたのかを整理しています。
こんにちは、カネさんです。
選挙が近づくと、SNSには候補者の動画、切り抜き、画像、拡散投稿が一気に増えます。
その中で厄介なのが、一見すると本物に見える生成AIの画像・映像です。本人が言っていないことを話しているように見せたり、実際にはない場面を作ったりできる。では、新たに国会を通過した法案で、選挙中のAI画像や偽情報はどう変わるのでしょうか。
結論から言うと、この法案は「AIを使った投稿を一律に禁止する」ものではありません。実写と誤認されるおそれのあるAI画像・映像について表示を求め、大規模なSNS・動画サービスには、選挙の公正を害するおそれのある情報の悪影響を軽減するための措置を求める設計です。
ただし、「偽情報が投稿された瞬間に必ず消える」という法律でもありません。ここを混同すると、制度への期待も批判も的外れになります。法案の文言を追いながら、何が変わり、何が残るのかを整理します。
この記事は、2026年7月16日時点で国会を通過している法案を対象にしています。衆議院の議案審議経過情報では、同日時点で公布年月日・法律番号は記載されていません。そのため、本文では「法案」と表記します。
AI動画そのものが禁止されるわけではない
まず押さえるべきなのは、生成AIの利用そのものを禁じる内容ではないことです。
法案は、人工知能関連技術を使って作成・改変された画像または映像のうち、実際に撮影されたものと誤認されるおそれがあるものを対象に、AIを利用した旨の表示を求めます。
対象になるのは、選挙運動に使う文書図画と、告示・公示日から投票日までに頒布する「当選を得させないための活動」に使う文書図画です。反対に、改変が社会通念上軽微なものや、実写と誤認されるおそれがないものは対象から除かれます。
ここでの狙いは、「AIだから違法」と決めることではありません。受け手が、実写なのか、AIで作った・加工したものなのかを判断できるようにすることです。(最近は、AIで作ったんだか実写なんだか判別できないの、結構ありますよね。)
しかも、表示は投稿本文の末尾に小さく書けばよい、という形ではありません。法案は、受信する人の端末画面に正しく表示されるようにしなければならないと定めています。スマホで動画や画像を見た人が、AI利用を認識できる表示であることが求められる、という考え方です。
SNS事業者に求めるのは「削除の約束」ではなく、悪影響を軽減する措置
もう一つの柱は、大規模なSNS・動画サービスの提供事業者への対応です。
法案は、大規模特定電気通信役務提供者に対し、法令に違反する情報、虚偽の情報、事実をゆがめた情報などによる、選挙の公正への悪影響を軽減するため、サービスの特性に応じて必要な措置を講じるよう求めています。
言葉だけを見ると強く聞こえますが、重要なのは「必要な措置」の具体的な中身を、法案が細かく列挙していないことです。(まあ、具体的に列挙していくとキリがないから、というのもあるでしょうけども)削除、表示、通報窓口、拡散抑制、収益化への対応などをどう組み合わせるかは、総務大臣が定める指針と、各事業者の運用に委ねられます。
したがって、この法案が成立・施行しても、すべての問題投稿が即時に削除されるとは限りません。むしろ確認すべきなのは、各サービスがどんな基準を作るのか、申し出を受けてどれだけ速く対応するのか、対応結果をどこまで透明にするのかです。
事業者には、その措置の実施状況を毎年1回公表することも追加されます。選挙のたびに「何件消したか」だけを見て終わるのではなく、利用者が制度の実効性を検証できる情報が出るかが問われます。
発信者にも「事実をゆがめない」責務が置かれる
法案は、SNS事業者だけに話を預けていません。選挙に関してインターネット等を利用する者に対し、候補者について虚偽の事項を公にしたり、事実をゆがめて選挙の公正を害したりしないよう求める責務規定を置いています。(この辺はN国の件で、皆さんもご存じのところだと思います。)
これは、政治的な意見を言うこと自体を禁じるものではありません。「この候補を支持する」「この政策には反対だ」という評価や批判は、民主主義にとって必要な言論です。
問題になるのは、意見と事実を意図的に混ぜ、もっともらしい偽の情報で有権者の判断を誤らせることです。生成AIが入ると、映像や音声があるだけで「本当に起きた」と思い込ませやすくなります。だからこそ、発信者、事業者、受け手の三者がそれぞれ役割を持つ形になっています。
本当に大事なのは、表示の有無より「情報の出どころ」を見ること
AI表示があれば安心、なければ偽情報。現実は、そんなに単純ではありません。
AI表示があっても、前提となる説明が事実と違っていれば誤解を招きます。逆に、実写の動画でも、前後を切り取れば発言の意味は変わります。今回の法案は重要な一歩ですが、選挙情報の真偽を機械的に判定する魔法の仕組みではありません。
私たちができる最低限の確認は三つです。
投稿の元になった一次情報はあるか。候補者本人、選挙管理委員会、自治体、国会資料などを確認する
映像や画像だけで結論を出していないか。いつ、どこで、誰が発信したものかをたどる
怒りや不安を強くあおる投稿ほど、すぐに拡散せず、別の情報源と照合する(悲しいかな、怒りや不安を強く煽る投稿ほど、どうしても感情に響いて拡散されやすいんですよね。)
これは「有権者だけが頑張ればよい」という話ではありません。SNS事業者が透明な仕組みを作ること、政治に関わる人が誠実に情報を出すこととセットで、初めて意味を持ちます。
施行予定は2027年3月1日|今後の焦点は運用
法案の附則では、原則として2027年3月1日から施行するとしています。改正後の公職選挙法の規定は、施行日以後に公示・告示される選挙から適用される予定です。
これから見るべきなのは、法案が掲げる理念だけではありません。公布後の正式な法令、総務大臣の指針、対象となる事業者の対応、そして年1回の公表内容です。
選挙の情報環境を良くするために必要なのは、表現をむやみに狭めることでも、偽情報を放置することでもありません。意見の自由を守りながら、事実と偽装を見分けられる条件をどこまで整えられるか。その実務が、これから問われます。
まとめ
法案は、選挙に使うAI画像・映像を一律に禁止するものではない
実写と誤認されるおそれのあるAI画像・映像には、AI利用の表示が必要
大規模SNS事業者には、悪影響軽減措置と年1回の実施状況公表を要求
具体的な対応は、今後の指針と各事業者の運用次第
受け手にも、情報の出どころと文脈の確認が必要
制度は、条文ができた時点ではまだ半分だ。実際にどう運用され、選挙の現場で有権者の判断を守れるのか。今後も一次資料を追いながら確認する。
▼動画で見たい方はこちら
https://youtu.be/9vb-xSdcRUQ
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参考資料
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・配信動画をAIで再構成する――短い指示から編集案を作るときの注意点
https://note.com/poliplus/n/n8ddb36e25b94
・1本の動画を複数媒体へ展開するAI運用設計――人間に残す判断と責任
https://note.com/poliplus/n/nfa84bc37af7a
▼このテーマのまとめ
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