なぜ具体的に答えないのか――7月29日兵庫県知事会見で残った四つの疑問
2026年7月29日の兵庫県知事記者会見では、財政、情報公開、SNS上のデマや嫌がらせをめぐって、記者から具体的な質問が続きました。
しかし、斎藤元彦知事の回答は、質問された原因や判断ではなく、「適宜適切に運用している」「利用者が適切に運用することが大事」といった一般論に戻る場面が目立ちました。
これは単なる受け答えの好みではありません。県の借金がなぜ増減したのか。県民に必要な財政情報をどう見せるのか。政治家を支持する名目で他人を傷つける発信に、本人が何を言うのか。いずれも、県民が行政や政治家を評価するために必要な説明です。
この記事では、最新動画で取り上げた会見の三つの争点を、確認できた事実、記者の指摘、知事の回答、政経プラスの評価に分けて整理します。
※本稿は兵庫県の公式会見動画と、政経プラスで修正した字幕を基にしています。兵庫県公式ページでは会見内容と質疑応答が「作成中」と表示されているため、発言部分は公開済み会見録ではなく、公式動画との照合に基づく整理です。
1 「税収が増えたのに、なぜ実質的な県債残高を減らさなかったのか」
会見でArc Timesの尾形聡彦記者が繰り返し尋ねたのは、兵庫県財政の「結果」と「判断」です。
尾形記者は、斎藤知事の在任中、物価上昇などを背景に県税等収入が伸びた一方、実質的な県債残高を減らさず、むしろ増やした時期があると指摘しました。そのうえで、なぜ税収が増えた時期に借金を減らさなかったのか、財政調整基金の積み増しを優先した判断は妥当だったのかを質問しました。
これに対し、斎藤知事は、毎年度の事業執行に必要な県債を発行してきたこと、公共事業の規模を見直したこと、過去の「負の遺産」の処理を進めたことなどを説明しました。
ただ、記者が聞いていたのは、毎年どのような手続きで県債を発行したかではありません。税収が伸びる局面で、なぜ債務残高を減らす財政運営を選ばなかったのかという問いです。
尾形記者が「フローではなくストックの話です」と言い直したのは、この食い違いがあったからです。
ここで一つ、数字の扱いには注意が必要です。
兵庫県が2026年5月に公表した資料では、2026年度当初予算時点の県債残高全体は4兆6,973億円、臨時財政対策債などを除いた「実質的な県債残高」は3兆482億円です。実質的な県債残高は前年度から586億円減る見込みとされています。
したがって、「現在も毎年増え続けている」と単純化するのは正確ではありません。一方、この一年の減少だけで、記者が問うた知事在任中の財政判断が説明されたことにもなりません。
必要なのは、同じ定義でそろえた時系列です。
県税等収入
実質的な県債残高
新たな県債発行額
公共投資の規模
県債管理基金の積立不足
財政調整基金の残高
これらを2021年度以降、年度ごとに一枚の表で示せば、県民も知事の説明を検証できます。
2 「基金を積んだ」という説明だけでは、財政全体は見えない
斎藤知事はこれまで、財政基金を積み上げたことを実績として強調してきました。
県の2026年度当初予算資料によると、財政基金は2021年度の33億円から、2025年度末見込みで236億円まで増えました。しかし県は、2026年度当初予算で、このうち129億円を暫定的に活用する方針も示しています。
さらに県の公式広報は、2026年度から2028年度までの3年間で約530億円の収支不足を見込み、2025年度決算では実質公債費比率が18%を超え、県債発行に国の許可が必要な「起債許可団体」へ移行する見通しだと説明しています。
基金を増やしたこと自体は事実です。ただし、基金残高だけを見ても、債務、金利負担、将来の償還、基金の積立不足を含む財政全体は判断できません。
会見で答えるべきだったのは、「基金を増やした」という成果の再説明ではなく、次の点ではないでしょうか。
財政上のリスクをいつ把握したのか
税収増を債務削減より他の支出や基金積立に振り向けた理由は何か
当時の判断を、現在の財政見通しからどう評価しているのか
2024年の出直し選挙で、どこまで県民に説明していたのか
政策判断が正しかったと主張するなら、その根拠を数字と時点で示せばいい。そこが曖昧なまま「適切に運営した」と結論だけを繰り返しても、検証可能な説明にはなりません。
3 財政情報は、県民が探し出せて初めて「公開」になる
尾形記者は、兵庫県のホームページで県債残高を検索しても、県議会提出資料などのPDFをめくらなければ数字にたどり着きにくいとも指摘しました。
県は財政状況を年2回公表しており、資料そのものが隠されているわけではありません。2026年5月公表の資料にも、県債残高、基金残高、今後の財政フレームが掲載されています。
問題は、「どこかのPDFに載っている」ことと、「県民が比較し、理解できる形で示されている」ことは同じではないという点です。
斎藤知事は当初、財務部がホームページを適切に運用していると答えました。その後の追及には、自ら先導して「見える化」を検討する趣旨を述べています。
ならば、次に確認すべきなのは実行です。
県債残高と実質公債費比率の推移を、PDFを開かなくても確認できるページにする
数字の定義を統一し、過去との比較を可能にする
財政見通しが変わった理由を、更新履歴とともに示す
改善時期と担当部署を明らかにする
「オープンな県政」は、資料を置くことではなく、県民が判断に使える状態にすることから始まります。
4 嫌がらせと誤情報に、政治家個人として何を言うのか
会見では、関西テレビの鈴木記者が、丸尾まき県議と、たかおか知子芦屋市議に届いた大量の悪質メールを取り上げました。
たかおか市議の本人発信によると、両議員のメールアドレスが無断で使われ、第三者の問い合わせフォームなどを通じて計6,000通を超える自動返信メールが届き、使い捨てアドレスからの悪質なメールも繰り返されたとされています。これは本人発信に基づく情報であり、捜査機関による確定発表とは区別して扱う必要があります。両議員は連名で声明を出し、被害届を提出する方針を明らかにしました。
一方、SNSでは被害を紹介した投稿の一部が切り取られ、被害を受けた側が問題発言をしたかのような誤認も広がったと、鈴木記者は説明しました。
斎藤知事は個別事案の詳細を承知していないとしてコメントを避けつつ、事実でないことや他人を傷つける発信はすべきでないと回答しました。
もちろん、政治家が支持者を名乗るすべての人を管理することはできません。また、悪質メールの送信者と、SNS上で斎藤知事を支持する投稿をしている人が同一だと、現時点の公開情報だけで断定することもできません。
それでも政治家には、自分を支持する名目で嫌がらせや虚偽拡散をしないよう、はっきり呼びかけることができます。
「すべての利用者が適切に使うべきだ」という一般論と、「私を支持するためであっても、嫌がらせや事実に反する発信はやめてください」という本人の言葉は、同じではありません。
後者には、自分の政治的影響力が及ぶ範囲に責任を持つ姿勢があります。記者が問うたのは、まさにその点でした。
問われているのは、好き嫌いではなく説明の形
今回の会見で残った問題は、斎藤知事に賛成か反対かという二択ではありません。
「なぜその結果になったのか」と聞かれたら、原因と判断を答える。
「数字を見えるようにするのか」と聞かれたら、方法と期限を答える。
「支持者に直接呼びかけるのか」と聞かれたら、するのか、しないのかを答える。
具体的な質問を一般論へ置き換えれば、その場を終えることはできます。しかし、県民が判断するための材料は残りません。
兵庫県の財政は、県自身が厳しい見通しを示しています。だからこそ、都合のよい数字だけでなく、債務、基金、金利負担、将来見通しを同じ表に並べる必要があります。SNS上の対立が深まっているからこそ、政治家本人の明確な言葉も必要です。
説明責任とは、何かを話すことではありません。問われたことに、検証できる形で答えることです。
動画
なぜ今週も具体的に答えない?26年7月29日斎藤元彦知事会見の争点|政経プラスチャンネル
参照資料
関連記事
【保存版】兵庫県告発文書問題を時系列で整理――2年以上で何が決まり、何が残ったのか
▼あわせて読む
・横浜市長の重大なパワハラ|斎藤知事と首長の説明責任
https://note.com/poliplus/n/nb5de558b1390
・神戸の夜景(かまやみひ)アカウント調査
https://note.com/poliplus/n/n8e6beb33b6ba
▼このテーマのまとめ
・兵庫県問題まとめ(総合入口)
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!