ギャグ小説・俳句達人伝 | 第一話
あらすじ
16歳の女の子・小町が、松尾芭蕉の「奥の細道」を辿る旅に出る物語。千住で始まった旅は、初めは「論破」を目指す軽快なものだった。
しかし、白河、松島、仙台、最上川、出羽三山、佐渡、越後路、兼六園、那谷寺、敦賀を経て、句を通じて人々の心や魂と向き合う深い旅へと徐々に変わっていった。大垣の船着き場で旅を締めくくる小町は、句に込めた絆と希望で新たな始まりを迎える。
小町が俳句を通して学んだものは?旅の終わりに小町が見たものは?
全14話の青春と成長の「俳句ギャグ冒険エンタメ小説」です。

ギャグ小説・俳句達人伝
~俳句少女・小町の魂の遍歴~
第一話 千手観音の不在
「あ~あ、千住(せんじゅ)なのに、千手観音(せんじゅかんのん)がいないなんて詐欺じゃないか!」
江戸の入り口、千住大橋を渡り終えたばかりの小町は、早くも旅の不満を爆発させた。背には破れかけた風呂敷包みひとつ。中身は着替えと、なぜか重そうな石ころがいくつか。そして、道中で拾った小枝を杖代わりにしている。高校にも行かず、ふらりと家を出てきた16歳の小町にとって、世の中は理不尽なことばかりだ。
芭蕉の「奥の細道」と同じ道を辿るなんて、最初は粋な旅だと思ったのだが、いざ来てみれば、芭蕉が詠んだ句に感銘を受けるどころか、目の前の景色にツッコミを入れるのに忙しい。
小町がぶつぶつ文句を垂れていると、橋のたもとで団子を売っていた婆さんが、ため息交じりに話しかけてきた。
「おやまあ、お嬢ちゃん。そんなに大きな声でわめき散らして。千住に千手観音様はいらっしゃらねぇよ。ここは宿場町でね、旅人が休んでいく場所なんだよ」
婆さんは皺くちゃの顔で笑う。小町はフンと鼻を鳴らした。
「そんなこと、わかってるわよ! でもさ、千住って名前なんだから、せめて千手観音の像くらい置いとくべきでしょ! 期待しちゃうでしょ、ふつう!」
「はぁ? 何を言ってるんだい、まったくこの子は…」
婆さんは呆れた顔で首を傾げた。その瞬間、小町の頭にピキーンと電撃が走った。
「…あんた、今、首傾げたよね?」
小町は婆さんの顔にぐっと近づく。婆さんは思わずのけぞった。
「そ、そうだけど、それがどうしたってんだい」
「よかろう。今のあんたのその『首傾げっぷり』、見事なもんだったわ。その呆れたる顔、あたしが五七五で論破して差し上げましょう!」
小町は右手をスッと差し出し、親指と人差し指で何かを摘まむようなポーズを取った。そして、ドヤ顔で言い放った。
「あんたさ、私の五七五、心して聞くんだよ!」
婆さんは目をパチクリさせている。周りの旅人や商人たちも、何事かと興味津々に小町を見つめていた。
小町はひとつ咳払いをして、高らかに詠み上げた。
千住には 千手ないのに 首かしげ
小町
詠み終わった瞬間、小町は満足げに腕を組み、ニヤリと笑った。
「ばあさん、どうだ! 論破された気分は!」
しかし、婆さんはポカンとしたままだった。やがて、我に返った婆さんは、困ったような顔で小町を見た。
「あのねぇ、お嬢ちゃん。それがどうしたってんだい?」
小町は愕然とした。論破したはずなのに、全く手応えがない。全然ダメージをおった様子がない。むしろ、婆さんの顔には新たな疑問が浮かんでいた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 今の五七五、あんたの状況を的確に表してるでしょうが!! 千住なのに千手観音がいないっていう、あたしの怒りと、それに対するあんたの呆れ、完璧に表現してるんだから!」
「いや、だから、それがなんだってんだい。千住に千手観音様がいないのは当たり前だし、あんたが文句言うから首傾げたんだよ。それ以上の意味はねぇよ」
婆さんは再び、大きなため息をついた。小町の「論破」は、まるで糠に釘だった。
だが、小町は諦めない。彼女の「論破」の旅は、まだ始まったばかりなのだから。
…つづく
第二話
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第四話
第五話
第六話
第七話
第八話
第九話
第十話
第十一話
第十二話
第十三話
第十四話(最終回)
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