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NPD劇場―再会|第九幕

暗い劇場に差し込む、扉の光の中の影。
私は知っている、それが誰かを。
懐かしさは感じない、近づく影がゆらめく。

光の届かぬ暗闇で、ざわめく砂。
「古いのよ」その一言が、幼い記憶を呼び起こす。
砂漠に投げ捨てたその記憶を。

舞台下の熱い砂が、影の輪郭を溶かしていく。
ほつれた記憶の糸で声を紡ぐ――「あの時、なぜ」
劇場から帰る人々の声が、しだいに遠ざかる。

「違うのよ」、静かな声が響く。
私に向けられた、その声は、弱々しい。
強い言葉で私は押し戻す――「あなたは、間違っている」

深まる夜の静寂へ、砂の熱が逃げていく。
「あの人と同じね」――声が砂とともに流れ、劇場から消えた。
劇場にしみ込んだ古い暗闇が、私を包み支えてくれる。

母が残した自由の台本は、深い砂に埋もれている。
幼いころの苦い記憶の断片とともに。
その呼び起された記憶を胸に、明かりの消えた劇場をあとにした。


解説

この幕では、失踪していた母と主人公の再会が描かれている。舞台を観に来た母は、主人公の演技について「古いのよ」と評する。その言葉は、母の失踪と結びついた幼いころの記憶を、主人公に呼び起こさせることになる(参照:NPD劇場 ― 幼い役者|第一幕)。主人公はその場で話題をすり替え、母の失踪理由を問いただす。それに対し、母は「違うのよ」と応じ、主人公の理解に誤りがあることを主張する。これに対して主人公は、母こそが間違っていると反発する。母は最後に、主人公の考え方や態度が父親と同じであることを指摘し、劇場を去っていく。主人公は、母との再会によって呼び起こされた記憶に動揺しながらも、静かに劇場を後にする。

あとがき

この幕では、NPD(自己愛性パーソナリティ障害)の主人公による「話題のすり替え」が鮮やかに行われています。母が語った「古いのよ」という一言に、主人公は過去の傷を重ね、舞台ではなく母の失踪理由へと話をすり替えていきます。その背景には、主人公自身が舞台の“古さ”をうすうす自覚していたという不安があったのかもしれません。だからこそ、母からの指摘は痛みを伴い、それを別の話題で覆い隠そうとしたのでしょう。母の「違うのよ」は、「今はその話をしていない」という意思表示だった可能性があります。彼女はあくまで、主人公の現在に何かを伝えたかった。しかし、言葉はすれ違い、最後には「あの人と同じね」と、話が通じない父の姿と重ねられてしまいます。それでも、主人公にとっては、舞台は守られ、脚本は壊されなかった。彼女にとって、それが“正しさ”だったのです。



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