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足す前に、観察する。初学者が見落としがちな一つの視点

「中医学や漢方、薬膳を勉強しています」

最近、よくそういうお話を聞きます。とても素晴らしいことだと思います。自分の体を自分で知ろうとすること、それだけで養生の入り口に立っているんですよ。

でも、ひとつ、気になることがあって。

「気虚っぽいから、補気しなきゃ。とりあえずごはんを増やそう」「血虚かも。レバーと赤身肉を意識してみよう」「痰湿タイプだ。ハトムギと海藻を毎日摂ろう」

間違いではありません。ただ、多くの方が"足すこと"に一生懸命になりすぎるんです。

薬膳を学び始めると、「何を食べるか」に意識が向きます。それは自然なことです。でも本当に大切なのは、「なぜその状態になったのか」という問いのほうです。ここを飛ばすと、ずっと対症療法のくり返しになってしまいます。

中医学に「治病求本(ちびょうきゅうほん)」という言葉があります。「病を治すなら、枝葉ではなく根を正せ」という意味です。

そして、その「根」を探すときに欠かせない視点が、中医学の診断の要ともいえる考え方です。

「どこで」「何が」起きているのか。

これを「定位(ていい)・定性(ていせい)」といいます。定位とは、問題が五臓六腑のどこにあるのか。定性とは、そこで気・血・津液がどういう状態になっているのか。この二つが揃ってはじめて、本当の「根」が見えてきます。

たとえば、気虚。疲れやすい、やる気が出ない、風邪をひきやすい。だから山芋・鶏肉・なつめで補気を、というのはもちろん有効です。

でも、気虚といっても「どこの気虚か」によって話はまるで変わります。

気は脾(ひ)で作られます。脾は飲食物を消化吸収し、気と血の材料を全身に送り出す臓。だとすれば、脾の気虚なら食事と休息が最優先です。一方で、肺(はい)の気虚であれば、呼吸が浅くなっていないか、乾燥した環境で消耗していないかが問題になります。腎(じん)の気虚なら、慢性的な過労や睡眠不足で根本のエネルギーが削られている状態です。同じ「気虚」でも、どの臓に問題があるかで、根っこは全然違うんですよ。

血虚も同じです。

「鉄分を摂らなきゃ」「レバーを食べよう」と思う前に。

血は、脾で作られた栄養を心(しん)が全身に巡らせることで生まれます。そして肝(かん)が血を蓄えて調整する。つまり血虚の根を探すとき、「脾が弱って作れていないのか」「肝が蓄えきれずに消耗しているのか」「心が血を巡らせる力を失っているのか」で、まったく対処が変わってきます。

もしかして、胃腸が弱って吸収できていないかもしれません。慢性的な寝不足で血を消耗しているかもしれません。目や頭を使いすぎて、血を使い果たしているかもしれません。そうなら、根本は別のところにあります。

痰湿もそうです。「むくみがあるから利水だ、ハトムギだ」という前に。

津液(しんえき)、つまり体の潤いは、脾が運化(うんか)して全身に配り、肺が通調水道(つうちょうすいどう)といって全身に降らせ、腎が気化して余分なものを排泄する。この三つが連携して初めて水の巡りが保たれます。だとすれば、痰湿の定位はどこか。脾が弱っているのか、肺の宣発粛降(せんぱつしゅくこう)が乱れているのか、腎の気化が足りないのか。それによって、「痰湿を作っている原因」がまるで変わります。夜遅い食事、冷たいものの摂りすぎ、座りっぱなし、ストレス……こういった習慣がどの臓に負担をかけているかを見ることが、治病求本の入り口なんです。

中医学は、足し算の学問ではありません。調整の学問です。

足りないものを補うことも大切。余分なものを出すことも大切。そして何より、「どこで、何が、なぜ崩れたのか」を探ることが、いちばん大切です。

やる気が出ない春。「補気だ」と肉を増やす前に、最近、ちゃんと眠れていますか?朝日を浴びていますか?呼吸、浅くなっていませんか?

イライラが続くとき。「疏肝(そかん)だ」と香りのものを足す前に、予定を詰め込みすぎていませんか?スマホ、夜中まで見ていませんか?

眠れない夜。「血虚かな、陰虚かな」と食材を調べる前に、夜10時以降に、脳を興奮させていませんか?

薬膳は魔法ではありません。生活という土台の上に成り立つものです。どんなに良い食材も、どんなに丁寧に選んだ食べ物も、生活が真逆であれば力を発揮できません。逆に言えば、生活を整えた上での薬膳は、とても強い。

わたしが相談でいちばん大切にしているのは、「今の不調を作っている習慣はどこにあるか」を、一緒に探すことです。定位と定性、つまり「どの臓腑で」「気血津液がどうなっているか」を丁寧に見ていくと、やることはシンプルになります。

気虚なら、どこの気が足りないかを見て、消耗の原因を。血虚なら、どこで作れていない、失っているかを。痰湿なら、どこで津液が滞っているかを探す。

そこに気づくと、体は驚くほど素直に変わっていきますよ。

薬膳を学び始めた方に、ひとつだけお伝えするとしたら。

"足す前に、観察する"

どこで、何が起きているのか。自分の体を責めず、焦らず、まず「なぜ?」「どこで?」と問いかける。それが治病求本の本質だとわたしは思っています。枝葉を追いかけると、情報に振り回されます。根を見ると、シンプルになります。

「今日、何を食べるか」の前に。「今日、どう過ごしたか」から始めてみてください。

根が整うと、枝葉は自然についてきます。それが中医学の、いちばん美しいところだとわたしは感じています。


定位定性を行うには、五臓の基礎的知識や気血津液の知識など多岐にわたる知識とその統合が必要です。始めっからは難しいですが、少しずつ学んで見てください。そして是非専門家に相談して色々教わってください!専門家は僕でもいいですし、近くの漢方専門店でもいいです。専門家たちは学ぶ人が大好きなので、喜々として教えてくれると思いますよ😊 僕との新規ご相談はこちらから。

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