見出し画像

運慶仏をつくる【第6話】玉眼とともにあれ 前編

浄楽寺 毘沙門天に射抜かれる

観るんじゃなかった。
いや、むしろ観てよかったと考えるべきなんだろうな。
横須賀 浄楽寺で拝観した毘沙門天のことだ。

海洋堂「四天王像 持国天」のキットの玉眼化にさんざん苦労し、とりあえず修復完了にしちゃっていそいそと浄楽寺に出かけていったのだが、そんな小仏師モデラーの筆者を、毘沙門天の鋭い眼差しが射抜いてくる。
「そなたは、それで満足しているのか」と。

浄楽寺入り口となるバス通りの看板には堂々たる毘沙門天のお姿が…。(筆者家族撮影)

浄楽寺を訪ねたのは、運慶仏の玉眼を間近で見たいと思ったから。
東京国立博物館の「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」にもう一度行こうかとも思ったのだが、会期末が迫ってさらに混雑し、とてもじゃないが祈りの空間ではなくなっているようだし。
なによりも、四天王像は、玉眼ではなく彫眼だ。

玉眼に迷いがあるのだから、やはり天部の玉眼を見なければ…。

そんなわけで、浄楽寺の毘沙門天だ。
上野の混雑をよそに心静かに対面でき、まさに祈りの空間にたっぷりと浸れたのだが、案の定、大きなショックを受けてしまい、自宅に帰ってくるなり完成したはずのキットを再び手に取った。
玉眼への果てしなき挑戦、第四次修復のはじまりだ。

キットの修復はいったん完了したはずだったのだが…。

筆者の玉眼(風のLED電飾)は、毘沙門天の玉眼となにが違うのだろう。

精神性とかなんとかを持ち出すと収拾がつかなくなるので、形状のみに着目する。制作中の持国天の黒眼は文字通り黒一色であるのに対し、毘沙門天のそれは真ん中が金色の三重円になっている。

これを再現すれば、少しは毘沙門天の玉眼に近づけるのでは…。
ただ、以前の修復で赤目にしてしまった経験があるから、正直言って眼をつくりなおすのはちょっと怖い。
それでも手を入れざるをえないほど、浄楽寺での印象が強かったということだ。失敗覚悟で挑戦する。

問題は、直径1mmほどの黒眼の塗り分けだ。その中に黒・金・黒の三重の同心円を描くのは、筆者の技量では難しい。
なにかいい手はないだろうか。
あれこれ悩んでいるうちに、心の中の大仏師がオビ=ワンの声で語りかけてくる。
「技に頼るな、アイデアを使え」と(「スターウォーズ エピソード4」のクライマックスで、ルークが聞く"Trust your instincts, not your instruments."という声でね)。

そこで閃いた。プラ棒を入れ子にするという発想だ。

いままで、白目がわりの直径2mmの透明プラに、直径1.1mmの穴を開けて黒い塗料を流し込んでいた。そこに震える手で内側の円を描こうとするのではなく、直径1mmの金色に塗ったプラ棒をはめ込み、真中に掘った穴に黒い塗料を流し込むことにする。
これならきれいな三重の同心円になるはず(なんだけどな)。

この方法なら間違いなくきれいな黒眼になるはず、という目論見だ。(筆者画)

ところが、やってみるとそれなりの表情にはなったと思うのだが、肝心の三重の黒目はつぶれてしまい、金色の輪がほとんど見えない。
うーむ。アイデア倒れにおわってしまったのか。

黒眼を三重円にしたはずなのに、ちょっと納得いかないぞ。持国天の表情も心なしか冷たい。

この項、次回へ続く。
"May the Gyokugan be with you"

おまけ

浄楽寺の帰りに、せっかく横須賀まで出張っていったのだからと、開館95周年特別展「金沢八景みほとけ巡礼―仏像からよみとく金沢の歴史―」を開催中の金沢文庫に寄る。久々の訪問だ。
お目当てはもちろん大威徳明王像である。運慶作だ。

恐ろしいお顔ながら、小さくてとてもかわいらしい。しかも玉眼。
原寸でフルスクラッチしたくなるほどだ。
うかつなことに単眼鏡を持ってくるのを忘れてしまい、とても小さな玉眼を詳しく観察できなかったことだけが、心残りだ。

とはいえ、持国天づくりに励んできた御利益なのか、思わぬ出会いもあった。

入り口近くに常設されている舞楽面 陵王の再発見だ。
運慶工房の作とはいえ、仏像ではないのでいつもはスルーしていたのだが、なにげなく読んだ解説文に驚いた。
この仮面の頭には、腕立て伏せをしているような龍がちょこんと座っているのだが、この龍、持国天の帯喰おびくい(帯のバックルの部分)の上でも同じかっこうですましているのだ。

古色彩色したキットではわかりにくいので、復元彩色で制作中の帯喰の龍を載せておく。

研究者の間では既知の事実のようだが、筆者にとってはまったくの新知見。まさに持国天の吉縁ということなのだろう。
精進、精進。

【第7話】玉眼とともにあれ後編 につづく
【第5話】仏像は、お顔がいのち に戻る
【第1話】まずは「持国天古色彩色」の修復を に戻る

いいなと思ったら応援しよう!