視えちゃった朝ごはん
わたしには秘密がある。
人の未来が「視える」のだ。
ぼんやり浮かぶこともあれば、はっきりイメージできることもある。
ママはそれを「降りてきた」っていうの。
視てる間、頭がぼんやりすることも多いんだけど、気づいたら目の前に、その人の未来を形にしたものができてる。「朝ごはん」という形で。
家族だけの秘密だったけど、うっかり郵便屋さんに「降りてきた」瞬間を見られて、すごく噂になっちゃった。それで、心機一転、この街に引っ越してきたってわけ。
なんでわたしばっかりこんな目に……って思うこともあるけれど、わたしはこの「朝ごはん作り」が結構好き。
「おはよう、ママ」
「あら、おはよう。ずいぶんお寝坊さんね」
「ん……なんか昨日、緊張で疲れちゃったみたい」
「転校初日だったものね。みんなとおはなしはできた?」
「うーん、少しだけ。今日は、凛花ちゃんが迎えにきてくれるって。わ、大変! もうすぐ来ちゃう!」
時計を見ると、凛花ちゃんと約束している8時まで、あと10分しかない。慌てて朝ごはんを食べる。今日はおにぎりと、お味噌汁かぁ。
食べながら、凛花ちゃんの顔をぼんやり思い出す。
少し話をしただけなのに、素敵な子だってすぐにわかった。お道具箱もロッカーも、すごくきれいで使いやすそうだったな……。彼女もまた、転校してきたばかりなんだって。
まだ、クラスメイトの名前と顔が一致しない。
ほかに、どんな子がいたっけな?
連絡袋から、コニシ先生にもらったクラス名簿をとりだす。ええっと、出席番号の早い方から、「青空ちくわ」ちゃんでしょ、「亜麻布みゆ」ちゃんでしょ、それから「アルロン」くん、「えむのマイトン」くん、そして——
ピンポーン
「あら? 噂のお友だちかしら? はぁい、ちょっと待ってね! ほら、早く食べちゃいなさい」
時計を見ると、8時だ。大変! 名簿なんて見ている場合じゃな……あ……あぁぁ……やばい、頭がチカチカする……どうしよう、くる、きちゃう……視えちゃう……あ……あぁ……
あ……あ、あァ、あ、あ、あ、あアあああァああああヴァあぁぁぁ!!!!!!!
「あら? 今からなの? 困ったわね。もうお友だち来ちゃったのに」
「おはよう、ぐみちゃん!」
あアあああァああああヴあぁあ!!!!!!
「え……?! ぐみちゃん、どうしたの?」
「あなたが凛花ちゃん? もしかして、まだ聞いてない? この子の“降りてくる“ はなし」
「え?! “降りてくる“? それ、なんのはなしですか?」
「ごめんなさいね。こうなると、しばらくあの子戻ってこれないのよ。先に学校行ってもらったほうがいいかも」
遠くでかすかに、ママと凛花ちゃんが話している気配がする。
あぁ、浮かぶ、浮かぶ。イメージが。
あ……あああ……「青空ちくわ」……ちく……ちくわ……青……青ぞ……ら……
「パ……パン……ちくわ……ツ……ツナ……」
口が勝手に動きだす。紡ぐ言葉の断片をたどり、ママが食材を黙ってわたしの前に置く。阿吽の呼吸だ。目の前に、パンとちくわ、ツナなどが用意されていく。
いつなにが降りてくるか分からないのだから、家には常に、さまざまな食材が準備されている。費用もバカにならないだろう。ママ、パパ、ごめんね……
聞こえてくる声と、次々浮かぶイメージに逆らわずに手を動かすこと数分。
気づいたら、ちくわちゃんの未来が、お皿におさまっていた。

チーズはカルシウム豊富なので、マグネシウムたっぷりのあおさを振って、栄養バランスも👌
「これ……どういうこと……?」と、凛花ちゃんがおずおず聞いてくる。
「あ、凛花ちゃん、おはよう。ごめん、びっくりしたよね……」
「う、うん……でも昨日、朝ごはん占いができるって聞いたから……それと関係があるの?」
「そう。たまに突然、こんなふうに、思い浮かべた人の未来や人となりがイメージになって、気づくと朝ごはんになってるの。朝ごはん占いはもっと軽く視えるんだけど、もっと先の未来まで見えるときは、いつもこんな感じなんだ。
さっき名簿見てたから、ちょっとトリップしやすくなっちゃってたのかも」
青空のようにきれいなブルーの器には、ちくわロールが置かれている。そう、あの子の未来は、こんなふうに澄んだ心と優しさが視える。安心して人が集まれる、晴れた日のような……あれ? でも違う。このお皿じゃない。わたしが視えたのは……

「どうしてお弁当箱に入れてるの? 学校、給食でるよ?」
凛花ちゃんが不思議そうにいうけれど、しかたない。お弁当箱が視えたんだもん。
「あ、そうだ、凛花ちゃん、このお弁当包み知ってる? すっごい便利なの」




「へぇ! 結んだりほどいたりしなくていいから、子どもにぴったりだね!」
「うん。Amazonとかで買えるよ! さ、遅刻しちゃう。 一緒に学校にい……あ……あぁ……
あ……あアあああァああああヴあぁあ!!!!!!」
まずい。
さっき名簿を見て、新しいクラスメイトをたくさん思い出したせいか、今日は一人じゃ終わらないみたいだ。どうしよう、このままだと遅刻しちゃう……!
凛花ちゃんはびっくりしてる。そうだよね……うまくやらなきゃ……また前の学校みたいに、すぐ転校しなきゃいけなくなっちゃう……でも、でも……
あ……あ、あァ、あ、あ、あ、あアあああァああああヴァあぁぁぁ!!!!!!!
あ……あああ……「亜麻布みゆ」……あま……あまぬ……み……みゆ…………
「パ……パン……かわいい……和……和の……ミルフィー……あんこ……」

ラムレーズンのクリームチーズを添えて。
「ねぇぐみちゃん! これってもしかして、みゆちゃん? わぁ! お花だ!」
呼吸を整えながら、目の前の朝ごはんに目をやる。

「そう、その子かな、多分。日本芸能や文化とのつながりが視えた。表面は “かわいい” なんだけど、その一枚下には葛藤、その一枚下に深さ、また下にお笑い、人としての色気、才能……いろんな層がミルフィーユみたいになってて不思議な魅力が人を惹きつけるん……あ……あぁ……
あ……あ、あァ、あ、あ、あ、あアあああァああああヴァあぁぁぁ!!!!!!!
どうしよう。今日は止まらない!
あ……あああ……「アルロン」……あ……ある……ろ……ん…………
「ほ……ほっか……ほっかいど……う……ふび……ふび……ん……」

「北海道? どうして? ねぇ! これってお店で売ってるやつみたい! 今どうやって作ったの?!」
待って、凛花ちゃん、話しかけないで……まだ、まだなにか出てくる……

「えっ? 手? だだだ誰かの手が出てきたよ?!」
凛花ちゃんの声が遠くでこだまする。
ママがなにか説明してる。「概念としての手が出てくることもあるのよ」ってそれ絶対伝わらないやつ。わたしだって、よくわかってないんだから。

「ねぇ! ぐみちゃん! パンが概念に潰されたよ! アルロンくんの朝ごはん、不憫すぎない?……未来もやっぱり、不憫なの?」
「はぁっ……はぁっ……わからないけど……」
呼吸を整えながら、今視えたばかりのイメージを言葉にする。
「逆らえない、なにか強力な不憫の風が吹き荒れていて、どうしようもなかった……。でも彼は、ただの人間じゃない。強烈な個性、発想力、企画力、いい意味での変態性が強い星のもとに生まれているから、バランスを取るために不便を引き寄せちゃってるみたい……。
ねぇ凛花ちゃん、これ、みんなには内緒ね。もうおさまったみたいだから、今度こそ学校行こう!」
「……ほんとに? 今日はお休みしたほうがいいんじゃない?」
「ううん、別に、終わっちゃえば平気なの。さ、遅刻す…………あ……あぁ……
あ……あ、あァ、あ、あ、あ、あアあああァああああヴァあぁぁぁ!!!!!!!
あ……あああ……「えむのマイトン」……え……えむ……マイ……ト……ン………
「ミ……ミト……コン……ドリア……く……つし……た……」
4人連続なんてこと、めったにないのに!
手が勝手に、高速できゅうりをスライスしている。
「ミートコーンドリア? おいしそう! クッツシッターって、なんのシッターさんだろう」
凛花ちゃん、お願い、聞かないで。
わたしにも、なんのはなしかは分からないの。ただ、視えるだけだし、見えたものを作ってるだけなんだもん……。

クリームチーズに薄切りきゅうり、ハムとブラックペッパーを添えて。

ディルやサーモンとも合いそう〜
あればピンクペッパーの方が朝向き
はぁ……はぁ……さすがに少し、疲れた。
やっぱり新しい学校の刺激が強すぎたのかもしれない。個性豊かで、みんなすごく素敵だったから、いつもより激しく降りてきちゃうのかな。
目の前には、4人分の朝ごはんができあがっていた。
もう。食べ終えたばっかりなのに、ほんとタイミング悪いんだから。
「ママ、今日はちょっと多かったみたい。ごめん」
「いいのよ、気にしないで! ママがおいしくいただくわね。さ、あなたたちは早く学校に行きなさい、少し走ればまだ間に合うはず」
「うん。いってきます!」
「気をつけてね」
凛花ちゃんとわたしは、勢いよく玄関を飛び出した。もうすぐ、登校時間の8時半になりそうだった。
「ぐみちゃん、走ろう!」
凛花ちゃんが、手をひく。温かい手。
出会って二日目だけど、わたしにはわかる。視える。
この手が引いていく先に、ワクワクする毎日が待っているって。
【続く(かも)】
#なんのはなしですか
#満を持してデビューしました
▼きっかけのお話
▼新しいクラスメンバーも募集されているようです
▼朝ごはんのイメージに引用させていただいた作品
創作は苦手なので、わたしは朝ごはん部門でスピンオフに参加しました。3年n組全員分出したかったけど、作りきれず……名簿順で。
(朝ごはんのイメージだけは、すでに全員分あります!)
みゆさんのお花トースト、ひな祭りの朝ごはんにもおすすめですよ。親はもちろん、型抜きの余った方のパンが朝ごはんです!
▼このnoteを書いた人

食の仕事14年目。8歳5歳3歳の母。自家製好き。Xでは朝ごはんの知恵袋を発信中。noteのフォローはこちら、Xはこちらからお気軽に!
▼朝ごはんエッセイ(連載)
▼朝ごはん占いについて
Xで不定期開催してます。
食べた朝ごはんを教えてもらえれば、その日の運勢を占います。
お気軽にどうぞ。
https://x.com/GUMI_gumicooo
6枚切りのチーズトーストを半分こしたあなたは、なんか割に合わない日!
— 大塚ぐみ|朝ごはんの知恵袋 (@GUMI_gumicooo) February 20, 2025
なぜか理不尽な仕事が舞い込んだり、スカートについた花びらに見惚れていたら、キッとにらまれたり。
でも、大丈夫。額に「肉」と書いて過ごせば、すべてうまくいきます👌#大塚ぐみの知らんけど占い
今朝ジャバンのりを食べたあなたは、愛が通う日。
— 大塚ぐみ|朝ごはんの知恵袋 (@GUMI_gumicooo) February 21, 2025
今朝10時ごろに会話したした人が、あなたの運命の人です💒ずっとずっと、お幸せに✨
ランチにあんかけ焼きそばを食べると、さらに運命が濃密に絡んで、今後3年半ほどは100%の幸せが保証されますよ!#大塚ぐみの知らんけど占い
今日皿うどんを食べたあなたは、プライドがバッキバキにへし折られる日。
— 大塚ぐみ|朝ごはんの知恵袋 (@GUMI_gumicooo) February 28, 2025
踏まれ、折られ、生まれ変わるのです。大丈夫、新しい自分に出会えますよ。
……え?興奮する?
その性癖はもう、変えられないかもしれません。#大塚ぐみの知らんけど占い
当たるかどうかは、知らんけど……!
