戦場カメラマンの渡部陽一さんがCDを出されているのをご存知ですか?
とある日、YouTubeで大好きな動画「フランスの教会で歌われる「いつも何度でも」」をまた見ていた。ジブリアニメ『千と千尋の神隠し』で有名なこの曲だが、木村弓さんが歌っている映像は見たことある。でも作詞は誰だっけ…と調べてみると、覚和歌子(かく・わかこ)さんという作詞家、詩人の方だった。Wikipediaで経歴を色々と見ていると、谷川俊太郎さんとの共著などもあることに気づく。下の方まで見ていくと、彼女が手がけたCDの中に、渡部陽一さんのものがある。渡部陽一さんといえば、あのゆっくり喋ることでバラエティでも人気な戦場カメラマンの方ではないか。彼が歌っているのか? 気になった私はさっそくサブスクで調べてみた。
出てきたアルバムは『渡部陽一の世界名作童話劇場 日本編』と『Father’s Voice』の2枚で、前者は「おむすびころりん」「かぐや姫」などの童話を朗読するもののようであるが、童話の権利上の関係によってか、サブスクでは本編は聴けず、「はじめに」と「さいごに」と「やりたいこと やってみよう」の3曲(?)のみが聴けた。「やりたいこと〜」も朗読調のもので、なるほど、歌うわけではなくあのゆっくりした渡部ボイスで朗読するのだな、とわかった。初めは正直、面白半分で聴いていた。そもそも渡部さんが「ゆっくり喋る」という行為をひとつの「面白」というジャンルに昇華させる(ことで自らの知名度を上げ、戦場のことを伝えられるようにする戦略をとった←ここが大事)パイオニアであった(スリムクラブとともに)からには、面白がって興味を持つことが入口になるのは全然悪いことではないだろう。しかしだんだんと『Father’s Voice』の方も聴くにつれ、彼の語りに引き込まれていくようになった。覚さんの作詞になる「明日の方角」や「海へ」なども詩としても素晴らしいし、これは覚さんのものではないようだが「消しゴム3回」という14分弱のショートストーリーなど、もしこれを文字で読めば、さらっと読めるショート・ショートの類かもしれないが、渡部ボイスで聴くと30分くらいの大作を聴いたような満足感と疲労感がある。これはいいものを聴いた! と思い、このnoteでみなさんにもお知らせすることにした。
先程渡部さんは「ゆっくり喋る」をひとつの芸にまで昇華させたと述べたが、演歌歌手、大江裕さんの「高山の女よ」という曲は、大事なフレーズをすべてゆっくり2度言うところに味わいがある。「飛騨路 高山 春おぼろ 春おぼろ」などである。お笑いで例えるなら「あるある」とか「モノボケ」とか「ノリツッコミ」といった色々な下位ジャンルがあるが、「ゆっくり2回言う」というのもなにか面白の鉱脈な気がする。お笑いに例えたからといって、演歌を揶揄しているわけではまったくない。ゆっくり2回言うことでセリフが噛み締められ、しかもそれが癖になる。その魅力を広い意味で「面白い」と形容して興味の入り口にしてもいいのではないかと思うのだ。渡部さんの後を継ぐ「ゆっくり喋り」の系譜を今後も勝手に考えてゆきたい。
