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「飲食店は時間がない」を言い訳にしない。私が仕組みを作って手に入れた日常。


大学卒業後、京都の料亭、イタリアン、大阪・本町の割烹で修行を重ねる。30歳で家業を継ぎ、現在は仕組み化による新しい店舗経営に挑戦中。

​コンテストのタイムラインに流れてきた「ワーク〈ライク〉バランス診断」の文字を見て、ふと手が止まった。

​転職サービスdodaが提唱する、人生の満足度を向上させるための「やるべきコト(ワーク)」と「やりたいコト(ライク)」のバランス。今の自分はどうだろうか。

​数年前の自分なら、この診断を開く余裕すらなかったと思う。

​■ 「飲食店だから時間がない」という常識を疑うことから始まった

​かつての私は、「やるべきコト(ワーク)」に完全に追われていた。

​大学を卒業してから、京都の老舗料亭、イタリアン、そして大阪・本町の割烹と、ひたすら料理の世界で修行を積んできた。30歳で家業を継ぎ、自分の店を持ってからも、職人としてのプライドと責任感から「自分が現場に立ち続けること」が絶対の正義だと思い込んでいた。

​飲食店を経営している、と言うと、多くの人は「忙しくて自分の時間なんてないでしょう」と口を揃える。実際、その通りだった。店を開ければ現場にかじりつき、仕込みから営業、数字の管理まで、自分が動かなければ1日として店は回らない。

​だけど、ある時思ったのだ。

「飲食店だから時間がない」を言い訳にして、自分の人生を諦めたままでいいのだろうか、と。

​私は、自分の時間を作りたかった。もっと自由に、自分の熱量を行使できる「やりたいコト(ライク)」に時間を使いたかった。だから、自分が現場にいなくても回る「仕組み」を作る決意をした。

以前は自分がいなければ回らないと思っていた。今は少し違う景色が見えている。

​■ 「任せる不安」を乗り越えた先にある景色

​もちろん、最初からすべてが上手くいったわけではない。

新しくスタッフを迎え、現場の裁量を少しずつ手放していった時、胸の奥には常に大きな不安があった。

​長年、厳しい修行の世界で身につけてきた技術やこだわりがあるからこそ、「本当に自分が現場にいなくて大丈夫だろうか」「お客様に満足してもらえるだろうか」という他人に委ねる恐怖は想像以上だった。

​口を出したくなるのを堪え、仕組みを信じ、何よりスタッフを信頼して任せる。それは、ある意味で自分自身の「エゴ」を手放す挑戦でもあった。

​正式にスタッフに現場を委ねてから、店は私の想像以上に生き生きと回り始めた。数字の管理や日々のアップデートなど、経営者としてやるべきことに集中しながらも、私には圧倒的な「自分の時間」が生まれたのだ。

​■ 手に入れたのは、大切な家族と、大好きなムエタイの時間

​仕組みを作ったことで生まれた時間を、私は自分が本当に大切にしたい「ライク(やりたいコト)」にフルに充てている。

​一番の宝物は、家族と過ごす時間だ。子どもたちと他愛のない話で笑い合い、家族と同じ空間で同じ時間を共有する。かつて、店と現場の往復だけで1日が終わっていた頃には想像もできなかった、穏やかで愛おしい日常がここにある。

誕生日に家族が祝ってくれたケーキ。かつての忙しさの中では味わえなかった、愛おしい時間です。

​それだけではない。時間ができたことで、大好きなキックボクシングやムエタイの練習にもしっかりと通えるようになった。さらには現在、その経験を活かしてパーソナルトレーニングの指導も行っている。

​子どもから大人まで、私のレッスンを受けに来てくれる人たちが、思いきり汗を流して「あぁ、楽しかった!」と最高の笑顔で帰っていく姿を見る瞬間。それは私にとって、自分の店が繁盛するのと同じくらい、胸が熱くなる嬉しさに満ちている。

子どもから大人まで、みんなの笑顔とはじける熱量に出会えるパーソナルの時間が何より愛おしい。

​そして、私にはもう一つ、密かに温めている大きな「やりたいコト」がある。

​「いつか子どもが大きくなったら、一人でタイに渡って、本場のムエタイ修行に行くこと」

​そんな少年のようなロマンに胸を躍らせ、本気で計画できる時間と心の余裕を持てていることが、今の私にとって何よりの財産なのだ。

​「やるべきコト」を整理し、仕組み化することで、「やりたいコト」の比重を最大化する。私は少しずつ、このワーク〈ライク〉バランスの価値を実感している。

​しかし、私のストーリーはここで終わりではない。少しずつ理想に近づいてきたからこそ、見えてきた「次なる挑戦」がある。

​■ 自分だけじゃない。これからは「スタッフもそんな生活ができる店」へ

​私が次に挑むこと。それは、「私だけでなく、店を支えてくれているスタッフ全員が、自分らしいワーク〈ライク〉バランスを実現できる店づくり」だ。

​飲食店ではたらく仲間たちにも、それぞれの人生がある。大切な家族がいて、没頭したい趣味があって、叶えたい夢があるはずだ。「お店のため」に彼らの「やりたいコト(ライク)」が犠牲になるようなはたらき方は、もう終わりにしたい。

​今度は私が作った仕組みをさらに進化させ、彼ら自身が時間をコントロールし、心から人生を楽しめる環境をクリエイトしていく番だ。スタッフが幸せに満たされてこそ、そのエネルギーはお客様への最高のサービスとして還っていくと信じている。

​ワーク〈ライク〉バランスとは、一度天秤が釣り合ったら終わりのゴールではない。

自分に関わるすべての人とはたらき方をアップデートし続け、共に人生の満足度を上げていくための、終わらない挑戦なのだ。

​今日も私は、家族との時間を楽しみながら、スタッフと一緒に100年続く店づくりを続けている。


dodaの診断では「開花したアーティストモード」。数年前なら考えられない結果だった。仕組みづくりのおかげで仕事も人生も少しずつ自分らしい形になってきた。
時間ができたから終わりじゃない。その時間で、
また新しい夢を追いかけている。

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