僕に読書の楽しさを思い出させてくれた推したい会社、VALUE BOOKS
狂気のスポンサー、VALUE BOOKS
以前「ある行旅死亡人の物語」という本の読書感想文を書いてnoteに投稿した際、投稿後のページで「推したい会社」コンテストを目にした瞬間、すぐに思い浮かんだ会社があった。「VALUE BOOKS」という、古本をインターネットを介して販売する事業を手掛ける会社である。
そう聞くと「ただの古本屋か」と思うかもしれない。実際古本屋ではある。事実、私とVALUE BOOKSとの最初の接点はAmazonの中古本の発送会社がたまたまVALUE BOOKSだったというものである。その時の印象を今でも覚えていて「安かった割には状態もいいし、濡れないように梱包されてるなぁ。今日雨だったから助かった」だ。いかにも「いい古本屋」に抱く印象だし、実際僕の中ではいい古本屋として印象に残っていた。同封されていた買い取りクーポンだったかも面白いデザインで好きだった。なので、Amazonで古本を買うときはVALUE BOOKSが販売元になってないか探して買っている、という日々がしばらく続いていた。
そんな中、あるポッドキャストと出会う。「ゆる言語学ラジオ」という、ゆるく楽しく言語のことを学べる、というキャッチフレーズの番組である。このポッドキャストはポッドキャストで「推し」ではあるのだが、このポッドキャストのスポンサーとしてある日VALUE BOOKSが登場する。僕の中では「いい本を安く売ってくれる古本屋、しかも梱包も丁寧」という印象だったので、ポッドキャストのスポンサーとして現れるのはちょっと意外ではあったのだが、その意外性はスポンサーの内容である。色々なスポンサーとしての提供はしているので他にも色々あるのだが、「特に見返りはないけど、ポッドキャストのネタにする本の費用をVALUE BOOKSが持つ」という内容で契約書を作ろうとしてVALUE BOOKSの担当者が法務に怒られるというエピソードが印象深い。スポンサーって、そういうのじゃないだろう。こんなエピソードを持っているからゆる言語学ラジオのパーソナリティからも「狂気のスポンサー」と呼ばれていた。だけどまぁ、面白いデザインのクーポンを同封してくれていたこともあったし、面白いからという動機だけでも動くタイプの会社なのかもなと思った。しかし、どうもそれだけではないらしい。
ある日、いつものようにYouTubeを眺めていると積読チャンネルというチャンネルが目に入った。先述のゆる言語学ラジオのパーソナリティである堀元さんと、何やら人の良さそうな人物が映っている(私は几帳面にもゆる言語学ラジオをエピソード1から聞いていたので、この人の良さそうな人物があの狂気のスポンサー、VALUE BOOKSの社員だとはまだ気づいていなかった)。堀元さんの喋りが好きなので、面白い話をしているかもな、と思いながら積読チャンネルの動画を視聴し始めた。
知りたい世界、知らない世界、知らないままの世界
僕は過去にnoteで読書感想文をいくつか投稿している。その前はブクログに書いたりブログに書いたりしていた。学校の宿題でもないのに読書感想文を書くということは、読書をして何か惹かれる点があったということだ。
読書をする人は、どういう動機で読書をするだろうか。仕事のため、資産運用のため、何かの問題解決のため、娯楽。色々な動機がある。僕は、自分の知りたい世界を、あるいは知らない世界に少しでも触れたいというモチベーションで読書をするようになった。するようになった、というのは、以前はそうではなかったということでもある。
元々読書はする方だったが、小説を娯楽で読む以外では、技術書や実用書を読むことが多かった。残念なことに、仕事をするようになってからは、プログラミング関係の本などを読むばかりだった。知ってる世界からの地続きの話を掘り下げるのも面白いのだが、どこか無機質で、仕事だから読んでいるという感覚は否めない。
知らない世界を知るのは面白いが、これには大きな問題がある。知らない、ということだ。知らないがゆえに、その世界にたどり着くための道筋は常に手探りだ。自分が面白いと思える本を知るのは難しい。昨今はAmazonのサジェストもまともになってきて、Amazonで本を買っていると概ね欲しいと思える本を提案してくれるようにもなった。しかし、これは先程述べた地続きの本になりがちなのだ。きっとどこかに、知らないままの世界があるはずなのに。
私はAmazonのヘビーユーザーであり、引きこもり気質だ。だけど、所謂物理書店が好きで足を運ぶことも多い。これは、出版物にランダムアクセス出来るという利点があるからだ。知らない世界を地続きじゃないところから知ろうと思うと、古典的な手法として物理書店にアクセスする、というのが効果的なのだ。だけど、効率は極めて悪い。そんな折、積読チャンネルとの出会いは一種のターニングポイントになった。
積読チャンネルの動画は、飯田さんと堀元さんがそれぞれ選んだ本をプレゼンし合う形式で構成されている。いくら出版業界が厳しいなんて言っても出版される書籍の量は膨大だ。その中から、なんらかのフィルターを通して本を選ぶことになる。そのフィルターとして、積読チャンネルは非常に優れていた。選書家としての腕が高さを活かし、こちらの感情を突き動かすように本を紹介してくれる飯田さんと、「面白説明おじさん」としてゆる言語学ラジオを立ち上げた腕を活かした面白説明をしてくれる堀元さんの両名は、的確に面白ポイントを開示しつつも、「動画を見て満足」するだけではない書籍の紹介の仕方をしてくれる。
こうして、知らないままだったであろう世界を教えてくれる、地続きではなかった世界を地続きに変えてくれる架け橋として、古本屋のVALUE BOOKSが僕の人生に入り込んできた。これは思ってもなかった展開であると同時に、僕をより一層VALUE BOOKSのファンにしてしまった。
本の紹介系YouTuberというと、なんとなく本の内容を喋るだけでしょ?と僕は思ってしまうのだが、積読チャンネルは運営母体が本を売ることが仕事のVALUE BOOKSなだけあり、本を買いたい!と思わせてくれる。まんまと積読させられている視聴者は私だけではない。
古本屋としてのVALUE BOOKS
推しの会社のはずが、積読チャンネルという推しチャンネルの話になってしまった。もう少し、古本屋としてのVALUE BOOKSにも触れておこうと思う。買うときの話は先述したが、売るときはどうか、という話もしようと思う。
VALUE BOOKSでの買い取りは、買い取り申込みをして、段ボールに本を詰めて送る、あとは、査定と振込を待つだけ、という仕組みだ。きっとネット買取をしてる古本屋は概ねこういう流れだろう。思ったより高く買ってくれるのだが、推しの訴求ポイントとしては弱いと思う。
古本屋に本を売ったときに値がつかない本があったという経験はないだろうか?私はある。そういった本がどうなるのか…?買い取りの値段は付けないが100円で売られることもある(これは私は別に悪いと思わない。売り物として並べるのにもコストは掛かるのだ)し、捨てられてしまうこともあるだろう。VALUE BOOKSは、一旦は値段がつかなかったけど、どうします?返送します?という姿勢を取ってくれるのが安心だ。なんとなく売ったけど、値段もつかないならもう少し手元においておこうかな?という判断もできる。
本は1度読んだりして人生に関わってしまうと、書いてある以上の情報が所有者によって付与される。思い入れというやつだ。そこをよくわかってくれているな、と思う。また、それでもいらないよ、となった場合はきちんと古紙回収に回してくれる。これは事業的に有利な側面もあるのだろうが、そういったフローを公開してくれているのも、私がVALUE BOOKSが好きなポイントの一つだ。
出版業界全体を良くしたい、という想い
ところで、古本屋が本の著者、ひいては出版業界に寄与するようなことはなにかあるだろうか。古物商は概ねそういうものだが、あまりないのが普通だ。VALUE BOOKSもその枠組はどうしてもある。誰しもが古本を買う、ということは市場原理的にありえないので悪影響というほどの悪影響は見られないかもしれないが、著者に印税は入らないのでやはり寄与しているとは言い難い。
しかし、多くの作家や読書家は古本を買っているはずだ。絶版みたいなケースもあるが、読書家はそうでない人が想像できないほどの量の本を日常的に買っている。はっきり言って異常な量である。無い袖は振れない、古本屋のお世話になることも大なり小なりあったことだろう。だからだろうか、あまり古本屋に対して、社会の接し方は厳しくないように思う。
しかし、VALUE BOOKSは古本屋でありながら、出版業界に恩返しをしたいと考え、多くの取り組みを行っている。
まずは、「バリューブックス・エコシステム」である。要するに、VALUE BOOKSが売って得た利益を出版社に還元しようというものだ。その使い道は出版社に委ねており、著者に還元するというケースも有るようだ。
この取り組み、VALUE BOOKSに良いことがあるかと言われるとかなり薄い利点しか無いように思う。この仕組みを知ってる人が、どうせなら出版社にも還元される仕組みがあるVALUE BOOKSを選んで、その利益の一部が得られる、という風が吹けば桶屋が儲かる並に遠回りな利益ぐらいだ。社会貢献というほかない。
つぎに、「ブックギフト」だ。ブックサンタというのを聞いたことがある人もいると思う。要するにそれである。バリューブックスが買い取れなかった本の一部を寄付するような仕組みなのだが、別に価値のないものを押し付けているわけではない。バリューブックスが買い取れないと判断する本というのは、必ずしもだめな本というわけではない。むしろ、滅茶苦茶たくさん売れた本なんかはその対象になりやすいのだという。なぜなら、市場が飽和してしまっているからだ。だが、たくさん売れたというのは当然、それだけ読みたいという人の多い本でもある。市場の外である、寄付が必要な人、あるいはありがたいと思う立場の団体としては、やはり社会貢献として見えるはずだ。
VALUE BOOKSという会社
このあたりの取り組みについて深く掘り下げていくと、「ああ、いい会社だなぁ」と思う。けど、別にそうではないんだということも積読チャンネルの飯田さんがnoteにまとめている。
一方で、ゆる言語学ラジオのスポンサーとしての振る舞いや、ただお金を払って環境にいいことをしていますみたいな感じというより、ある業界にフォーカスして全体を盛り上げようとする動きは時として「どうかしてるな…」という印象も受ける。
会社というのは普通、なんらかの利益を効率的に追求するものだ。社会貢献というか、公共としての利益は行政が賄うのが普通である。しかし、それだけでは全体が利益中心主義になり、業界が萎んでしまうということもある。古本屋も、なるべく安く買い取り高く売って、出版業界に背を向けていても利益は出せるが、そうはしない。出版業界が萎むと、自分たちの事業にも悪影響があるという実利の部分ももちろんある。だけど、こういう社会貢献の原水は彼らが本に生かされた経験があるのだろうな、と思う。
無機質な読書ばかりになっていた私も、かつて本に癒やされ生きたことがあった。自分の人生にかける問いを本から得たことも1度や2度ではない。きっと、そういう経験に強く動機づけられたのだと思う。そうでないと、こんな狂気じみたことはできない。
推しポイントは他にも色々あるのだが、長くなってしまった。ぜひ、積読チャンネルや、掲載したリンクを通じて、VALUE BOOKSの取り組みを知ってみてほしい。

