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【読了】 #117 『すりーあいあとらす』

『すりーあいあとらす』

著:川成 灯


文学フリマで購入した前作を読んであまりにも好みだったのでオンラインで追加購入した。

まず、タイトルが良い。

すりーあいあとらす。

ひらがなで書かれているのに、どこか宇宙っぽい。かわいいのに、少し遠い。声に出すとやわらかいのに、意味を知ると急に果てしない。

3I/ATLASは、太陽系の外からやってきて、またどこかへ去っていく恒星間天体らしい。

一度近づいて、離れて、もう戻ってこない。
それだけで、もうエッセイのタイトルとして強すぎる。
でも面白いのは、この本が彗星についてのエッセイではないところだ。

川成灯さんは、生活の中にある一度きりの出会いや、もう戻らない時間を、彗星みたいに眺めている。

人との会話。なんでもない日。離れていかないでほしかった夜。
その時は大きな意味なんてなかったのに、あとから思い出すと妙に光っている出来事。

そういうものを、「あれも彗星だったのかもしれない」と言うように拾っていく。

その距離感がすごく好きだった。

『ぼくら雨をきってきらきらはしる』にも感じたけれど、川成さんの文章は、生活を無理にドラマチックにしない。

泣かせようとしない。綺麗にまとめようとしない。
でも、なんでもないことをなんでもないまま終わらせない。

今回の『すりーあいあとらす』は、前作よりもさらに軽やかだったように感じる。

どうでもいいことも書いてある。
でも、そのどうでもいいことが良い。

人生って、たぶん大事なことだけでできていない。

むしろ、あとから思い出すのは、どうでもよかったはずの会話だったり、帰り道の空気だったり、もう名前も思い出せない人の表情だったりする。

この本は、そういう生活の端っこにあるものを、ちゃんと光らせていた。

あと、装丁の話を読んでから本を見ると、さらに好きになる。

表紙が2枚あること。コズミックラテ色の表紙。
新居で撮ったフィルム写真。取り外せる帯。太陽系の軌道の柄。

文章だけじゃなくて、本そのものを作っている感じがする。

ZINEって、ただ文章を紙に載せるだけじゃないんだなと思った。

読むものでもあり、持つものでもあり、眺めるものでもある。
『すりーあいあとらす』は、エッセイ集であると同時に、小さな天体みたいな本だった。

片手に収まるサイズなのに、その中に生活の軌道がある。

誰かと近づいたり、離れたり。忘れたり、思い出したり。
ちゃんと意味があったのかどうかもわからないまま、それでも確かにそこにあった時間たち。

読みながら、自分の中にもいくつかの「すりーあいあとらす」がある気がした。

もう戻れない場所。もう会わないかもしれない人。
その時は何でもないと思っていたのに、なぜか今も残っている言葉。

全部を大切に覚えていなくてもいい。
全部に意味をつけなくてもいい。
でも、ふと思い出した時に「あれは光っていたな」と思えたら、それでいいのかもしれない。

この本を読んで、エッセイって、通り過ぎたものにもう一度小さく名前をつけることなのかもしれないと思った。

生活の中を一瞬だけ横切ったもの。

近づいて、離れて、もう戻らないもの。
でも確かに、あの時そこにあったもの。

それを彗星と呼ぶ感性が、ものすごく好きだった。

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