大学DXで本当に重要なのは、「AI導入」ではなく「責任の設計」かもしれない
生成AIの活用が広がるなかで、大学職員の仕事も今後大きく変わっていくのだと思う。
現在は、文章の作成や要約、アイデア出しなど、個人がChatGPTを便利な道具として使うケースが中心である。しかし、これからは単に「AIを使う」だけではなく、申請、審査、問い合わせ対応、書類確認といった業務フローの中に、AIを組み込むことが求められていくのではないだろうか。
ただし、大学の事務業務にAIを導入することを考えると、単純に「AIに任せれば効率化できる」という話では終わらない。
むしろ重要なのは、AIに何を任せ、人がどこで判断し、最終的な責任を誰が負うのかを設計することだと感じている。
生成AIの導入は、RPAやDXに近いのではないか
大学職員の業務には、書類の作成や確認、データ入力、問い合わせへの回答など、事務的な作業が多い。
そのため、生成AIの活用という言葉からは、個人がチャット画面に質問を入力する姿よりも、RPAやDXのように業務プロセス全体を見直すイメージのほうが近い。
例えば、申請書を受け付けた後に、記載漏れがないかを確認し、必要な情報を整理し、担当者に回付する業務があるとする。
このうち、形式的なチェックや情報の整理は、AIが得意とする可能性が高い。一方で、例外的な事情を考慮した判断や、申請を認めるかどうかといった最終判断まで、すべてAIに任せることには不安が残る。
AIを導入する際には、既存の作業をそのままAIに置き換えるのではなく、業務を細かく分解し、どこを自動化し、どこを人が担当するのかを考える必要がある。
これは、単なるツールの導入ではなく、業務設計そのものを見直すDXの取り組みだと思う。
一次対応はAI、最終確認は人
現時点で私がイメージしているのは、AIが一次対応を行い、その結果を人が最終確認する業務フローである。
例えば、AIが書類の不備を確認し、問い合わせへの回答案を作成する。担当者はその内容を確認し、必要に応じて修正したうえで、最終的な処理や回答を行う。
病院に例えるなら、AIの役割は診断を確定する医師というよりも、判断材料を提示する補助者に近いのかもしれない。
AIが最初に情報を整理し、見落としの可能性がある箇所を示す。そのうえで、人が状況や背景を踏まえて最終判断を行う。
生成AIは非常に優秀である一方、確率的に回答を生成する仕組みであり、常に正しい回答を出すわけではない。事実と異なる内容を、もっともらしく提示する可能性もある。
だからこそ、AIの出力をそのまま採用するのではなく、人による確認を業務フローの中に組み込むことが必要になる。
なぜ人が最終判断を行うのか
人が最終判断を行う最大の理由は、責任の所在にある。
AIに判断を任せることはできても、問題が起きた際にAIへ責任を取らせることはできない。
誤った案内によって学生や受験生に不利益が生じた場合、最終的には大学や担当者が説明責任を負うことになる。
特に大学では、入試、成績、学籍、奨学金、個人情報など、学生の人生に大きな影響を与える情報を扱っている。効率化だけを優先し、判断過程が不透明なままAIを利用することは難しい。
重要なのは、「AIにどこまで判断させられるか」だけを考えることではない。
「その判断によって問題が起きた場合、誰が説明し、誰が責任を負うのか」まで含めて設計しなければならない。
AI時代の業務設計では、処理の流れだけでなく、責任の流れも可視化する必要があるのだと思う。
ツール導入より先に、リテラシー教育が必要
大学で生成AIを活用するうえでは、職員のAIリテラシーにも課題がある。
便利なツールが提供されると、その仕組みや危険性を十分に理解しないまま、業務上の文章やデータを入力してしまう可能性がある。
特に注意が必要なのは、個人情報や機密情報の取り扱いである。
学生の氏名、成績、連絡先、入試情報などを、利用条件を確認せずに外部の生成AIサービスへ入力すれば、情報管理上の問題につながる可能性がある。
「生成AIは便利だから使う」という段階から、「どのサービスに、どの情報を、どのような目的で入力してよいのか」を理解して使う段階へ進まなければならない。
そのため、AIツールを導入する前に、最低限の利用ルールとリテラシー教育を整備する必要がある。
禁止事項だけを並べるのではなく、安全に使える場面や、確認が必要な場面を具体的に示すことも重要だと思う。
AI導入の成否は、運用設計で決まる
生成AIの性能は、今後さらに向上していくはずである。
しかし、どれほど高性能なAIが登場しても、大学の業務が自動的に改善されるわけではない。
どの業務に利用するのか。どの情報を入力してよいのか。AIの結果を誰が確認するのか。誤りが発生した場合に、どのように修正するのか。
こうした運用を決めないまま導入すれば、かえって確認作業が増えたり、新たなリスクが発生したりする可能性もある。
大学DXで本当に重要なのは、最新のAIを導入すること自体ではない。
AIと人の役割を切り分け、最終判断と責任の所在を明確にすること。そして、職員が安全に利用できるルールと教育を整えること。
生成AIの導入を考えるとき、技術の性能だけに注目するのではなく、「どのような業務と責任の仕組みをつくりたいのか」という視点から考える必要があるのではないだろうか。
