大犬空港物語(3)「旅立ち」
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俺の名前は、大谷浩平。
かつて高校球児だった俺は、丸刈りだった青春時代の反動か、髪型には少しだけこだわりがある。行きつけのヘアサロンは表参道。
ドアを押した瞬間、アロマの香りと涼しい空気が、俺とすれ違うように外へ流れた。
「お待ちしておりました、大谷さん。今日はどうします?
グッドラックのキムタク風?それとも、グランメゾンのキムタク風?
あ、それとも、ロンバケのセナくんで行きます?」
「キムタクしか選択肢ないじゃん」
俺が笑うと、スタイリストも笑った。
――ロンバケの頃って、生まれてなかったよね、きみ。
「うんと黒く染めて。昭和のサラリーマンみたいに、七三分けにしてくれるかな」
スタイリストはまた笑った。――いや、マジで。本気だよ。
赴任は7月上旬。本当は6月末に出向先の会社の取締役に就任していたが、転勤者に与えられた二週間の猶予を、俺は東京で使い切った。
そして、いよいよその日。
俺は草原の中にある小さな空港に降り立った。
飛行機が着陸すると、旅客ターミナルまでは5分もかからない。短い滑走路。
搭乗橋が接続され、客が地上に降り立つと、すぐに手荷物が出てくる。
コンパクト。必要最小限の旅客ターミナル。俺の家より小さい…(いや、さすがに言い過ぎか)。
羽田空港なら飛行機を降りてから30分以上かかることもある。着陸から10分で出口まで行けるのは、なるほど快適だと思った。山の緑が鮮やかだ。
そして初めて、会社の事務所に足を踏み入れた。
「……ふるっ」
古い。内装が。インテリアが。
わさび色のパーテーションで仕切っているせいで、狭い事務所がさらに狭く思える。
規則性もなく並んだ四角い事務机の上には、おびただしいほどの紙、紙、紙。
――なんだここ。
こんな場所で、俺にできることなんてあるのか…?
作者のひとりごと
第3話を読んでくださって、ありがとうございます。
大犬(おおいぬ)空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。 そして私の“本業”は、そのモデルとなっている空港のファンクラブ会員を増やすことです。
次回はいよいよ初仕事。
第4話もぜひ読んでいただけるとうれしいです。
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