【短編】心残り人の街 -2
旅行者とワイン
バックパックひとつで旅行をしながら世界中を歩き回っている日本人のケンという若者がいた。一人で旅行をするのが好きでいろんな国を旅行していた。大抵は、訪れた国でも田舎の方ばかりを旅していた。格好はいつも同じでシャツにジーパン、トレッキングシューズというハイキングにでもいく格好だ。ただ、テントやシュラフを背負っているのでリュックは大きめだった。もちろん、突然の雨にも困らないように大きめのレインコートも常備している。知らない土地の都会は怖いし田舎の方がなんとなく親切な人が多く、事件にも巻き込まれにくいだろうとケンは考えていたようだった。それに、ケンが旅行をする目的は、観光ではなく世界の人たちと触れ合うことがメインだったので、伝統や風習が残っている田舎を好んで旅していた。
ある時、フランスの田舎の葡萄畑が多くある地域を歩いていると、ワイン作りをしているマリーという女性から声をかけられた。薄化粧で長い髪を後ろで結び白いシャツがよく似合う笑顔が素敵な女性だった。
「ねぇ、どこからきたの。私はマリー。みんなからはメリーと呼ばれているわ。バックパックでこんなところまで来るなんて、もしかしてワインが好きなの」
「あっ、日本という国から来ました。ケンといいます。世界中を回っているんです。いろんな人に会って話をしたいので。なので、ワインが特別に好きというわけではありません」
「なあんだ。ただの旅行者なのね。てっきり、ワインの仕入れ交渉にきたひとかとおもっちゃったわ。残念」
「すみません。なんだか期待を裏切ったみたいですね。よかったら、その期待の訳なんか聞かせてもらえませんか。力にはなれそうもないけど、話を聞くことはできますよ」
「あら、意外と積極的なのね。ケン、、だっけ、名前は。じゃあ、私の自慢のワイン工場に行って話でもしましょうか。もう、夕方になるし、何か食べ物も用意してあげるわ」
「うわーっ、ありがとうございます。実はお腹空いていたんです」
ケンとメリーは一緒に歩き出した。歩きながら、お互いに自己紹介を兼ねた話で会話が弾んだ。メリーは、数年前に事故で両親を亡くし、今は一人で葡萄畑を維持しワイン工場でワイン作りに励んでいるらしい。もっとも一人で全てはできないので、村のみんなの助けを借りて維持しているようだった。しかしながら、メリーが作っているワインは両親が作っていた時ほどの味わいがなくなり、なかなか売れないのだそうだ。このままだと、工場も葡萄畑も手放すことになるかもしれないという切羽詰まった状態だった。ケンは、何もできないのにとんでもない時にやって来たなと思いながらも、少しでも明るくしようと話をした。真っ先に思いついたのが、日本のレトロな車でスカイラインという名前のかっこいい車のことだった。
「そういえば思い出したんだけどね。日本にはね、僕たちの名前がついたかっこいい車があったんだよ。だいぶ昔だけど。ケンとメリーのスカイラインっていう車なんだ。すっごい人気があった車なんだよ。その車のコマーシャルで使われていたのは日本の北海道というところなんだけどちょうどここみたいに広大なところにヒョコンと立ってる木のところでコマーシャルが撮影されていたんだ。もちろん、ケンとメリーが恋人みたいに出演してたんだよ」
「すごーい。じゃあ、私たち恋人同士だね」
「あっ、いや、そういう意味じゃないけど」
「もう、冗談よ。きっと私の方がおねえさんでしょ。今高校生くらいかな」
「やっぱり日本人って若く見られちゃうね。これでも29歳なんだけど」
「えーっ、嫌だごめんなさい。じゃあ、おにいちゃんだ。びっくり」
こんな話をしている間に、ワイン工場についた。どうやら、自宅と繋がっているようだった。凄まじい樽の香りに包まれている場所でワイン樽がものすごく沢山並べられているところだったが、ケンは嫌いではなかった。メリーはワイングラスを二つ持って奥の方の樽から白ワインを注いでチーズと共に持って来た。
「どうぞ。これもご縁。我が家のワインを召し上がれ」
「うわー、ありがとう。本場のワインだね」
二人は、グラスを軽く傾けカチンと音を立ててワインを口に運んだ。
「お味はどお。ちょっと薄く感じない」
「言われてみれば、サラッと飲めるような感じがする」
「どうしてもアルコール度数が上がらないのよね。これで5%も無い位なの。たぶん葡萄の糖度が足らないのよね。でも今の状況ではこれ以上無理なのよ」
「あぁ、だからこんなに飲みやすいんだ。じゃあ、アルコールが弱いことを売りにすればいいかも知れないね」
「えっ、どういうこと。アルコールが低いことを売りにできるの」
「うーん、ネット上で、超低いアルコール度数の飲みやすいフランス産ワインみたいなキャッチで販売してみると面白い気がする。仕事をしている女性の家飲みとかにマッチしそうな気がするな」
ケンは、いろんなところを回っていろんなアルコールも飲んできたけど、最近はあまり強く無いお酒が好まれる傾向にあることを感じていたので、こんな話をしたのだった。この後しばらくワインの話をして、メリーがふと気づいたかのように聞いて来た。
「この辺りはホテルもないわよ。夜は、どうするつもりだったの」
「あぁ、いつもシュラフは持って回っているから、最悪は野宿。そんなに寒くも無いし」
「よかったら、泊まっていいよ。部屋は余っているから。あっ、変な考えはなしだからね。ケンはとってもいい人に感じたから。それに、、」
「うわー、助かるなぁ。ん、それにって何かあるの」
「うん、この地方では、向こうの山を越えたあたりからほのかな灯りが見えるんだけど、行くと何もないの。で、その中に入っていった人で戻って来た人がいないの。噂でしかないけど、村の人たちは、祖先の呪いかもしれないと言って近寄らないのよ。だから、夜は家の中にいた方が安全よ」
「えっ、恐っ。じゃあ、喜んで部屋を借ります」
こうして、メリーの家にケンは泊まることになった。正直ホッとしたという感じだった。メリーは一応パソコンも持っていて、快適とは言えないまでもインターネット環境もあった。そこでケンは、メリーのパソコンを借りて、日本で酒屋を経営している同級生にメールを送ってみた。今、日本はお昼くらいだからきっと見てくれるだろうと思った。
思った以上にレスポンスが良くすぐに返事が来た。
どうなるかわからないのでメリーに内緒でメールしてみたけど、嬉しい返事だったので、横にいるメリーにすぐに話した。ケンから説明を受けて、飛び上がって喜んだ。早速、明日日本に送る準備をするといって喜んでいた。人助けができたような気になったケンもなんとなく気分よく眠りにつくことができた。
翌日、ケンも荷造りを手伝ってこのワイン工場を発つことにした。ちょっぴり別れが悲しくもあったが、また帰りに必ず立ち寄ることを約束して出かけた。再び戻って来た時に、ワイン販売が軌道に乗っていることを願いながら。
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