赤いワンピースの少女〜メイ #4
ニュースでは、社員によるいじめがあったのではないかということが取り沙汰されている。ベトナムから一緒に研修生としてやってきていた他の二人から、社員からのいじめが酷かったという証言がマスコミに流れていた。光一は、やらせだったにしろ、周りから見ればいじめに見えるように振る舞っていたので、「はい、いじめに見えるような行為を行っていました」と事実を話していた。しかし、光一が殺したという証拠が見つからず、状況証拠のみで検察側は立件しようとしていたのだ。その報道を耳にしたメイは、「おかしい」と直感で思った。
「怒りや妬みなどの心はものすごく小さくなっているはずなのに、あの後で殺人という残虐な行為を犯すなんてことはありえない。何か、私の知らない事実があるんだわ。もう一度訪ねてみようかしら。でも、私が余計なことをしたから光一という人は疑われてしまったのよね。どうしたらいいのかしら。どうすれば本当に人の心を助けることができるのかしら」メイは悩んだ。表面的なところばかりを見ていても人の心は救えないということを最初の仕事で知ってしまったのだった。
人の行動と考えていることの違い、心の中の動きがこんなにも複雑なんだということをメイは感じていた。メイ自身は素直に成長した経験しか持っていないため、人を騙すとか恨むとかといった経験がなかった。メイの短い人生経験の中ではありえない出来事に遭遇しているわけである。しかし、それでもメイはなんとかして人々の心を助けなければと考えていた。心の中を読む力は神様から授かってはいない。ただ、癒すか奪うかの力だけを授かったのだ。メイは考えた。「少なくとも、右手で触れば善の心が増幅され、左手でさわれば悪の心が小さくなる。そして、両手で触った時は、善の増幅が最初に作用し悪の心を滅亡させる作用が働くみたいね。注意することは左手だけでさわったら、命を奪ってしまう結果になるということね。でも、通りすがりで状況を正しく判断して対処することはむずかしいわ。どうしたらいいんだろう」
メイの陥った悩みはごく自然なことだった。今回の件も、メイの対応を見ている人がいたとしたら、称賛しているだろう。そのくらい、人の心は大人になるにつれ複雑になるのだった。真っ直ぐに生きてきたメイには理解できないし、想像もできないことだった。しかし、これまでの赤いワンピースの少女との違いは、左手だけを使おうという意志が全くないというところだった。これは、神様の思惑通りかもしれない。力を与えてもらったが、メイは単独で左手を使うことを全く想像すらしていなかった。どんな理由があるにせよ、人の命を奪うという行為のほうが愚かであると考えていたからだ。
しかし、今回は助けたつもりだったのが、それが原因で死んでしまうことになったため、メイの頭は混乱していたのだ。「でも、あの時遭遇したなかでは、左手だけを使う相手はいなかった。それは間違いない。じゃあ、なぜこんなことになったの」
メイははっとした。「先入観ね。病院にいた時学んだことがあったわ。偏った考え方で物事に対処してしまうと、ミスをまねくことがあると。あの時は、光一のみが悪いと無意識に思ってしまったわ。クオンに対しても右手を差し出すべきだったのね。そして、両手で包んであげていれば最悪の結果には繋がらなかったのかもしれない」メイが出した一つの結論だった。メイは、争いごとなどには必ず相手が存在していて、どちらの心も癒してあげることが必要なのだということを今回の件で学んだ。できることなら当事者全員を癒やしてあげられるのならば、それが一番いいのかもしれない。メイはもう少し警察の捜査を見守ることにした。
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