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【SS】追い込まれた決断 (2039字)  #シロクマ文芸部

 ゆっくりと男は目を開けた。ついに最後の決断を下したのだ。一人きりの暗い部屋で手を伸ばし、無機質な赤いボタンに指を重ねた。一度大きな深呼吸をした後、右手の人差し指を押し下げた。

 数年前までは大国だった国も、反映していた頃の面影は消え去り、退廃した街並みに変わっていた。人の気配もない。国の首謀者たちは地下へと避難し、国民は近隣諸国へと流れ出てしまった。

「この国も終わりだな。まさかこんな形で終焉を迎えるとはな」
「ああ、全くだ。俺も志願して軍隊に入ったが今思い起こせば家族と共に逃げ出しておけばよかったよ」
「全くだ。しかし、あの弱小だった国がこんな短期間で世界を席巻することになろうとはな…」

 最前線で戦っていた兵士たちがあちこちで呟いていた。一年も続く戦闘となって、国が滅びてしまうとは誰一人として考えることはなかった。自分たちの国が世界で一番強い国だと信じ込んでいたから。

 四年前に大統領になったチェスは、自国の地位を確固たるものにしようと考え、防衛費を倍増し、高い関税をかけて世の中を波乱の渦に巻き込んだ。そんな中、アフリカの中心付近で、小さな小さな国が生まれたのである。

 国の名はホープ。人口一千万人の小さな国の誕生だった。だが、大統領になったソードは昼夜を惜しんで近隣諸国との外交だけで国土を広大なものにしていた。瞬く間にアフリカの半分の領土がホープ国となったが、欧米諸国は意にも介さなかった。

「あんな荒れた土地をいくら広げたところで国としての発展はできないだろう」
「全くだ。ホープの政治家たちは一体何を考えているんだろうな。貧困な国を大きくしていくだけなのにな」
「まぁ、大した資源もない国を意識しても仕方ないさ」

 欧米諸国は国土が急速に拡大するホープ国を無視し続けた。しかし、ソード大統領は知っていた。国の中心の地下に膨大なエネルギー資源とレアアースが眠っていることを。立国してからたった三年で、ホープ国の内需産業は目覚ましい発展を遂げ、全国民が潤った。干ばつや飢饉とは無縁の先進国家となったのだ。

 ホープ国は国の防衛にも力を入れた。アフリカ全土を幾重にも囲う強靭な塀を建設し、そこからは空中地雷で制空圏を手に入れた。それを危ぶんだ欧米諸国は危機感を感じていた。いち早く危険だと感じ取った大国のチェス大統領は、上から目線でホープ国を押さえつけにかかったのだった。

 ホープ国は一切の要求を拒否した。怒りが頂点に達した大国のチェス大統領は、理不尽な理由をこじつけて武力攻撃を開始すると宣言してしまった。誰しもが退廃するホープ国をイメージしていた。しかし、それは大きな誤りだった。ホープ国のソード大統領は声明を発表した。

「我が国の領土を少しでも侵そうとする国が行動を起こした場合、我が国は完膚なきまでその国の軍事設備を秒単位で攻撃し続けることになるだろう。我が国の安全を我が国で守るために」

 大国のチェス大統領はその声明を鼻で笑い、即座に攻撃命令を出してしまった。しかし、弾道ミサイルや戦闘機はホープ国の中心は愚か、アフリカ大陸に差し掛かると同時に撃墜され続けたのだ。ホープ国は全くの無傷だった。それでも執拗な攻撃を終了させるために再度声明を発表した。

「我々の声明を無視し攻撃を仕掛けてくる大国に対し、すぐに謝罪がなされなければ一時間後から三ヶ月間に渡り昼夜を問わず十秒間隔での攻撃を実行する。我が国に亡命したいと願うものは手厚い待遇で受け入れる。ただし、政府関係者はその限りではない。賢明なる判断を期待している」

 声明を受けても大国のチェス大統領は鼻で笑っていた。

「弱い犬ほど吠えるものだ。攻撃を倍にして叩きのめしてしまえ。奴らには報復するほどの体力はないはずだ」

 その時、兵士の半数は国外脱出を決め込んでいた。賢いビジネスマン家族はその前に国外脱出してしまっていた。脱出して行った先はホープ国。ホープ国は快く受け入れ、住まいと仕事まで提供してくれた。

 気がつけば大国の国民はほとんどがホープ国へと逃げ出してしまった。経済活動も継続できないほどに人口が減少してしまい、チェス大統領は自国に起きていることが理解できずにいた。一人で地下に作られた要塞に逃げ込み、外の情報を遮断、自分は間違ってないといいきかせた。

 チェス大統領はホープ国からの止むことのない攻撃から目を背け続けた。そして、ひとつの結論へと辿り着いた。

「もう、私の人生は終わりだ。歴代の大統領がなし得なかったことを私は実行してやる。私を裁けるのは他の国でも我が国の国民でもない。ましてやホープ国なんてあってはならないのだ。私を裁けるのは私のみ。そう私の判断のみということを世の中にわからせてやる」

 チェス大統領は、窓のない部屋で椅子に座り、じっと赤いボタンを見つめた。ボタンの上には位置を示す数字が並んでいる。静かにその数字を自国の座標に修正し、目を閉じた。チェス大統領が国の代表から一人の男に戻った瞬間だった。


あとがき

 最近、戦争が少なくなるどころか拡大している世界を見ていて、悲しい気持ちになっています。そんな戦争を扇動しているのは国民ではなく指導者のエゴ何ではないかと時折思えてなりません。そんなことを思い描いて綴ったショートショートです。戦争は誰も幸せにしてくれませんよね。

 表紙の画像はCHATGPTに作ってもらいました(内容と誤差があるのはご愛嬌)


下記企画への応募作品です。

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