【SS】晴れた日に (2222字) #シロクマ文芸部
晴れた日に、眩しいばかりの太陽の光を背中で受けて懸命に畑仕事に精を出す若い夫婦の姿があった。額から流れ出る汗を拭いながら大地に向かって仕事をする姿からは「生命」を感じられる。そんな畑のそばの畦道に座り、スケッチブックの上で鉛筆を走らせる圭太がいた。
「おう、今日も絵描きに来たんだな。飽きないもんだねぇ」
「どうせなら綺麗に描いてね。ふふ」
若い夫婦が圭太に気づいて、声をかける。だがそんなことにはお構いなしで圭太は鉛筆を走らせる。
「本当に変わった子になっちゃったな、圭太は」
「ええ、でも両親を亡くしてかららしいのよ。あんなになったのは…」
「ああ、そうだったなぁ。もう四年くらい前になるのかなぁ。あの洪水から」
「そうね。一歩間違ってたら私たちも流されていたかもしれないものね」
「ああ、全くだ。あの時は運良く畑仕事を休んで隣町の温泉に行ってたもんなぁ。神様のご加護があったのかもしれないな」
若い夫婦は、時折伸びをして背筋を伸ばしながら、おしゃべりと共に菜花の収穫を続けていた。夫婦は食用の菜花と観賞用の菜の花の両方を育てている。今日は菜花の収穫にやってきていたのだ。観賞用の菜の花とは区画が綺麗に別れているため、隣には鮮やかな黄色の花が咲き誇っている。一方、黄色くなる前に収穫をしなければならない菜花は緑のかわいい蕾が摘まれるのを待っている状態だ。
「そういえば、圭太のおじいちゃんももう年だから畑仕事ができないようなことを聞いたんだよな。大丈夫なのかなぁ」
「あら、そうなの。じゃあ、私たちが畑を借りて菜の花を作ってあげましょうか」
「うーん。とはいっても、二人だけじゃ厳しくないか。二人の時間がなくなっちゃうよ」
「何、そのにやけた笑いは、いやね。変なこと考えてたんでしょ」
「へへ、だってね。俺たちまだ若いし」
「もう、全く。畑を借りて圭太に教えてあげましょうよ。もう、学校へもいってないみたいだしさ。それに、あんなにスケッチに来るくらいだから菜の花を好きなのよきっと」
「なるほど。それは言えるかもしれないな」
おしゃべりしながらも収穫はきちんとこなした二人は、太陽を見上げ昼時になったことを感じ、昼食にすることにした。いつも、おにぎりと卵焼き、そして菜花のおひたしは欠かせない。二人はお弁当を持って圭太に近寄って行った。
「圭太くん、お腹空いたでしょ。私たちと一緒にお昼ご飯食べない」
「えっ、僕、お弁当持ってきてないんだ」
「大丈夫よ。たくさんおにぎり握ってきたから。おにぎりは嫌い?」
「ううん、大好きです」
「そう、じゃあ、菜の花は?」
「菜の花も大好きです。だから春が一番好きです」
「そうか、圭太くんは菜の花が好きか。じゃあ、黄色い花の菜の花と緑の蕾の菜花はどっちが好きなんだい」
「僕は、菜花の蕾が大好きです」
「へぇ。珍しいね。なんで」
「だって、美味しいから」
「あ、なるほどねー」
三人は同時に青い空に向かって笑った。
「じゃあさ、絵を書くのもいいけど、俺たちと一緒に菜花作りをやってみないか」
「えっ、僕が…ですか」
「そうよ、一緒にやろう、ネッ」
「でも、僕は学校もいってないし、畑の仕事ってやったこともないし…」
「圭太くんは今いくつだ? もう十七歳ぐらいになるのかな」
「はい。今年の誕生日で十八になります」
「おお、もう成人じゃないか。じゃあ、歳をとったおじいちゃんの代わりに畑を耕してみてもいいじゃないか。きっと喜んでくれると思うよ。俺たち夫婦が手伝ってやるから」
「えっ、手伝ってくれるんですか?」
「もちろんだよ」
圭太の目が光り輝いた。圭太は高校へは進学したものの、両親が洪水で流されるという痛ましい事故で亡くなった後、ショックのために不登校となってしまい、そのまま退学。その後は、おじいちゃんとの二人暮らしを続けていた。将来への希望も無く絵を描いていたのだった。
圭太は若い夫婦に菜花作りを教えてもらうことになった。手始めに荒れ果てた畑を耕し直すところから始まった。足腰が弱くなった圭太のおじいちゃんはホッとした様子で若い夫婦に感謝するように頭を下げていた。
一年が過ぎ、再び春が来た。圭太が耕した畑にも可愛い緑の蕾がたくさんついた。思わず笑みが溢れる。若い夫婦も隣で一緒に喜んでくれた。
「いやぁ、見事にできたなぁ、圭太くん」
「はい、教えていただいたおかげです。本当にありがとうございました」
「いや、これでもう圭太くんは立派な菜花栽培農家だ」
三人は白い雲が静かに流れる青い空の下で、喜びを分かち合った。
「あ、そういえばさ。いつもスケッチブックを持って晴れた日に来てたよね。一回も見せてもらったことないんだけど、圭太くんが描いた絵、見せてくれないかな」
「あー、そういえば見たことないわよね。見たいなぁ」
「えー、あの時の絵ですか〜。がっかりするだけだと思いますけど…」
「そんなことはないさ。見せてよ、一度くらい」
「わかりました。じゃあ、持ってきます」
そういって圭太は自分の部屋に置いてあったスケッチブックを持ってきた。若い夫婦は自分たちがどんなふうに描かれているのか気になってしかたなかった。
圭太は少しハニカミながらもスケッチブックを開いた。めくってもめくっても青い空に気持ちよく浮かぶ雲が描かれていた。
「あっ、そういうことかぁ。やられたなぁ」
「本当だ。だから晴れた日にしか来なかったのねぇ」
「ごめんなさい」
三人は青い空に向かって大きな声で笑った。
了
あとがき
「晴れた日に」で連想していると何か不吉なことが起きるとか不幸の手紙が届くとかを真っ先に考えてしまいました。そこで一度邪念を追い払い、ハッピーエンドのショートショートにしたいなと思い、考えた結果のストーリーです。終始明るいストーリーとはいきませんでしたが、笑って終わらせることができたので自分ではよしとします(笑
表紙の画像はCHATGPTに作ってもらいました(内容と誤差があるのはご愛嬌)
下記企画への応募作品です。
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