赤いワンピースの少女〜アンナ #1
神様の信念
世の中の事件や事故、さらには戦争まで人間界の醜い争いは一向に減少する兆しが見えない。神様は、毎年やさしさを心に持っている少女を人間界に送り込み続け、人々の心を癒やし続けてきた。しかし、それ以上に発生する事件や事故を憂えてもいた。神様は人間界を作った責任を痛切に感じ始めていた。転生を繰り返しながらもっと賢く学んでくれるはずだったのに、どうして人間は同じことを、いやそれ以上に悪いことを繰り返してしまうのだろう。すでに、現在の人類は、神様が創造した時の人間ではなくなり、独自の進化を遂げていた。地球の神様は、他の星の神様から「そろそろ破壊する時がきたのではないか」と言われ続けていた。その度に、「いや、人類という種はそれほど愚かではない。一部の愚かな人間が存在しているに過ぎない。だから、その一部の愚かな人間の心を癒やしてあげることができれば、地球は宇宙で一番住みやすい星になるはずだ。それに、人類は自分達で浄化する術も知っているはずだ。そのために私は努力をおしまない」と返していた。しかし、すでに数百年の年月が経過しているのも事実だった。神様は、人類に対し、自らが解決して成長してほしいと願っていることがあった。それは、人類の過ちによって引き起こされた事件や戦争、そして腐敗である。地球上の国々には法があり、それを遵守する術も人類は身につけた。その機能を正しい判断で実施し続けることを神様は期待し、そのような出来事に対しては手を差し伸べることはなかった。人類による自浄作用を信頼していたのだ。一方でそれらのことが起こった時には力を持たない人たちが犠牲になることが多いことに関しては、とても気にかけていた。だから、継続して犠牲になった人たちを救い、周りに影響されて犠牲になるような人を作り出している行為をした人たちの心を救うことに力を注いでいたのだ。そのため、定期的に神様の代わりに少女に心を癒やす行為を託し続けていた。
今、信じられないような戦争が起こってしまった。どんなに国として正当な理由があろうとも、一般人の住まいや何も知らない人々を殺傷していいという理屈は通らない。人の命は平等なものであり、他人の手によって奪っていいものでは無いのである。同様に、戦争を起こした張本人であっても、本来はその命を奪ってもいいということにはならない。しかし、人類は平和な社会を維持するための手段の一つとして、刑罰の中に「死刑」を取り込んだのだった。そのことは神様としては悲しいこととして捉えていた。死刑を宣告されて、亡くなった人々は、生きている間に悔い改めることなく魂となり転生してしまう可能性が高いからだ。本来なら、命の限り悔い改めて魂となって次の人にバトンを渡すことを望んでいたのだった。残念ながら、神様の意志は人類に届いていないのかもしれないし、判断する時にも極刑は死刑だという意識が働いているのかもしれない。
今回神様が選択したのは、残念ながら予想だにしない空爆によって命を全うできなかったキーウで育った少女アンナだった。アンナは家族と共にアパートにいた時に亡くなった。いきなり空爆が始まったのだ。隣のアパートにミサイルが落ちたのを見て幼い弟を守るように覆いかぶさっていた時、ミサイルが着弾して爆発し飛散した破片が飛んできてアンナの体を切り裂いてしまった。きずは心臓まで達し、なす術もなく命を落としたのだった。幼い六歳の弟はアンナに守られ無事だった。その時アンナは、十六歳だった。両親は戦争を憎んだ。でもその時魂となったアンナは、空の上から両親に届かない声で訴えていた。「私は死んでしまったわ。私のことでこれからの人生を悩まないで、弟のためにその時間を使ってあげて」このことを見ていた神様は、涙を流した。「まだ、こんな人間がたくさんいるはずだ。きっと人類は自分達の過ちを正せるはずた」そう思いながら、アンナが神様のところにきた時に呼び止めた。
「アンナ、こちらへ来なさい。なぜ、ここに来たか理解しているかな」
「はい、神様、私は死んでしまいました。それでここにいるのだと理解しています」
「そうじゃな。その通りじゃ。戦争を起こした人が憎いかな」
「戦争そのものは憎いと思います。でも、人を恨んだり憎んだりするつもりはありません。それよりも、私の家族や他の犠牲になった家族を持つ人たちが、一日でも早く忌まわしい出来ことから解放され、笑って暮らせるようになってほしいと思っています」
「やさしい心を持っているのだな。それを見込んで頼があるのじゃが」
「はい、何でしょうか」
「わしの代わりにもう一度人間界に行って、みんなの心を癒やしてやってはくれないだろうか。アンナが思っているように前向きに生きていけるように手助けしてきてほしいのだが、どうかな」
「私が、困った人を救ってあげることができるのですか」
「もちろんじゃ、ただ、金銭的なことで救うということではないぞ。あくまでも心を癒やして明日も頑張ろうという気持ちにしてあげるということじゃ。そこから先は癒やされた人が自分で進んでいくであろう。そのために、お前には、二つの力を授けることにとする。右手には人を救う力、左手には人の命を奪う力だ。人を救う力は、心を救うことが目的だがまだ死んでいなければ予期せぬことで負った傷も癒やすことができるだろう、そして、命を奪う力は、心の中に悪き思いがはびこっている時はその心を消滅させることができる。使い方をよく考えて、人々の心を癒やしてきなさい」
「分かりました。二つの力を用いて多くの人の心を救いたいと思います」
「よし、では行ってきなさい」
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