小料亭 ゆう凪
ここは山深い谷の奥にひっそりとたたずむ小さな料亭。
聞こえてくるのは静かなせせらぎの音、そして虫たちの奏でるかすかな響きだけ。
電車をいくつも乗り継ぎ、さらにバスを降りて1時間ほど歩く。
久しく袖を通していなかった着物は着崩れることなく、私の体をしっかり支えている。
草履の鼻緒に少しだけ痛みを感じたが、その痛みが今の私にはよく似合っているような気がした。
家族を置いて、ひとりここへ来た。
ひとりでなければいけない理由があった。
誰とも言葉を交わさず、ただひたむきになる。
そのような時間が今の私には必要なのだった。
嶺岡豆腐。
その冷菓を想うだけで私の心には平安がおとずれる。
きりりきりりと真綿のようなもので締め付けられ、いよいよ呼吸を失いかけた肉体が、ゆっくりと緩んでいく。
ほどよく冷えたその菓子を、すぅっとひとさじ、口へと運ぶ。
やわらかな白さが、甘みとともにひろがり、きえていく。
このいっしゅんのあじわいのためだけに ここへきた。
やさしくまぶされたきなこのこうばしさが ふわりとわたしをつつみこみ、
しずかにまぶたをおろさせた。

【あとがき】
昨日作った「嶺岡豆腐」の型崩れのひどさを以てして、
「逆にこのいぶし銀感がちょっとお高い和食屋のデザートで出てくるときのそれ」と表現してくださったこぶらさん。
見事な料亭の一品に仕立ててくださいました。
こうして私の作った似非嶺岡豆腐はこぶらさんの手によって美しく生まれ変わったのです。
こぶらさん、ありがとうございました!!
こちらはこぶらさんの世界。ぜひとも味わってみてください。
昨日の型崩れ。
