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第八章:沈黙の温度計――潜熱という「隠れた熱」の正体

これの続き

原始人は、実験を重ねるごとに火力のコントロール技術を向上させていました。特に、上質な炭を使い、燃焼の状態を一定に保つことで、単位時間あたりに供給する熱を一定にする技術を確立したのです。彼は、この安定した火こそが、熱の量を正確に測るための「時間の物差し」になると確信していました。
彼は、この一定の火力を用いて、マイナス20℃の氷を温める実験を行いました。 予想通り、氷の温度は一定のペースで上昇していきました。比熱の実験で知っていた通り、氷は水よりも約2倍温まりやすい性質を持っていましたが、その上昇は極めて規則的でした。
しかし、氷が融け始めた瞬間、不可解な事象が起こりました。 水銀柱が0度の位置でピタリと止まり、火で炙り続けているにもかかわらず、全く動かなくなったのです。
原始人は衝撃を受けましたが、同時に「やはりそうか」という確信もありました。そもそもセ氏温度を定義したとき、氷水の状態が常に一定だからこそ、それを基準にできたのです。しかし問題は、加え続けている「一定の熱」が、今この瞬間に何をしているのか、ということでした。
氷がすべて融けきると、水銀柱は再び上昇を始めました。そして、水が沸騰し始めると、再び100℃で上昇が止まりました。原始人はこの「沈黙の時間」をじっと観察し、一つの結論に達しました。

原始人は咆哮した! その眼差しは、形を変えゆく物質の「絆」を捉えていた! 「熱は、温度を上げるためだけに使われるのではない! 温度を変える代わりに、自らの姿を、固体を液体に、液体を気体へと変える『変身』のために使われているのだ!」 彼は、この温度計に現れない隠れた熱を**「潜熱(せんねつ)」**と名付けた。 「融ける時に使われる熱は融解熱! 蒸発する時に使われる熱は蒸発熱! 見よ、この莫大なエネルギーを!」 彼はさらに、地球という壮大な舞台に思いを馳せた。 「水がこれほどまでに温まりにくく、かつ姿を変えるのにこれほど膨大な熱を必要とする……。だからこそ、この星の温度は守られ、命の揺りかごが保たれているのだ!」 物理学が、単なる机上の計算から、地球の環境を守る大いなる知恵へと昇華した瞬間であった。

■第八章の論理的補足 原始人が到達したのは、「相転移(状態変化)」における潜熱の概念です。 物質が固体から液体、液体から気体へと変化する際、加えられた熱エネルギーは温度を上げる(分子の運動を激しくする)ためではなく、分子同士の結合を断ち切るために使われます。 水の融解熱は約 80cal/g、蒸発熱は約 540cal/g と非常に大きく、この性質が地球の気温の急激な変化を防ぐ巨大なサーモスタットの役割を果たしていることに原始人は気づいたのです。
■第八章の練習問題 原始人が 0℃ の氷 100g を、すべて 0℃ の水に変える実験を行いました。
1. 氷の融解熱を 80cal/g とすると、この変化に合計で何 cal の熱量が必要ですか?
2. 全てが水になった後、さらに 1000cal の熱を加えると、水の温度は何 ∘C になりますか?
【解答】
2. 100g×80cal/g=8,000cal
4. Q=mcΔt より、1000=100×1×Δt なので、Δt=10℃。 0℃ から 10 ℃上がったので、答えは 10∘C。

続く

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