「マンジャロで痩せたい」と言われて、内科医が一番伝えたかったこと
「先生、マンジャロって、どこで打ってもらえますか」
先日、健診で少し体重が気になっていた20代の女性が、そう聞いてきました。SNSで見て、興味を持ったとのことでした。糖尿病でも、肥満症の治療対象でもない、いわゆる「健康診断で少し引っかかった」レベルの方です。
正直に言うと、こういう質問を受ける機会が、この一年で明らかに増えました。SNSで劇的なビフォーアフター写真を見かけたり、広告で「医師監修」という言葉とともに紹介されていたりするのを見て、興味を持つ方が増えているのだと思います。
今、SNSではGLP-1薬を使ったダイエットが、ちょっとした過熱状態になっています。中には、著名なタレントやインフルエンサーを起用した広告で、オンライン診療のハードルの低さを強調するようなものも見かけます。今日は、この薬について、内科医として知っておいてほしいことを、正直にお伝えしたいと思います。
💉①そもそも、何のための薬なのか
マンジャロ(チルゼパチド)やオゼンピック(セマグルチド)といったGLP-1受容体作動薬は、もともと2型糖尿病の治療薬として開発されたものです。血糖値を下げる働きに加えて、食欲を抑える作用があることから、一部は肥満症の治療薬としても承認されています。
ただし、その「肥満症治療」として使えるのは、医学的な基準を満たした、治療が必要な方に限られます。「健診でちょっと引っかかったから」「もう少し痩せたいから」という理由で、自由診療のクリニックを通じて使用するケースは、本来の承認された使い方とは異なる、いわば目的外の使用にあたります。
⚠️②「痩せる薬」として使うことの、知られていないリスク
SNSでは「劇的に痩せた」という体験談ばかりが目立ちますが、正直に言うと、その裏側で起きていることは、あまり語られません。
吐き気や嘔吐、便秘といった消化器症状は、比較的よく見られる副作用です。まれではありますが、急性膵炎や胆のうの疾患のリスクも報告されています。そして何より、本来これらの薬を必要としている糖尿病の患者さんに、薬が届きにくくなるという、供給不足の問題も現実に起きています。
美容目的での需要が急増したことで、実際に治療が必要な患者さんの元に、薬が十分に行き渡らない状況が、国内外で報告されているのです。
📉③「体重は落ちても、リバウンドしやすい」という現実
GLP-1薬は、使い続けている間は食欲が抑えられ、体重も落ちていきます。ただし、薬をやめると、多くの場合、食欲は元に戻り、体重も徐々に戻っていくことが、研究でも示されています。
つまり、根本的な生活習慣を見直さないまま、薬の力だけに頼ってしまうと、「使い続けるしかない」状態に陥りやすいのです。しかも自由診療である以上、費用は基本的に全額自己負担。決して安くない金額を、長期間払い続けることになります。
月々の費用は、クリニックやプランによって幅がありますが、決して気軽に続けられる金額ではないことがほとんどです。「痩せたら終わり」ではなく、「維持するためには使い続ける必要がある」という構造を、始める前にきちんと理解しておく必要があります。
🏥④厚生労働省も、正式に注意喚起しています
こうした状況を受けて、厚生労働省は、糖尿病や肥満症の治療対象ではない方が、美容・ダイエット目的でGLP-1薬を使用することについて、安全性や有効性が十分に確認されていないとして、注意を呼びかけています。日本医師会も、同様の懸念を表明しています。
「話題になっている」「みんな使っている」ということと、「医学的に安全性が確認されている」ということは、まったく別の話なんです。糖尿病や肥満症といった明確な適応がない方への長期的な安全性データは、まだ十分に蓄積されていません。今、健康な体で使っている方々が、数年後にどうなるか。正直、私たち医療者にも、まだ完全にはわかっていないのです。
😌⑤あの患者さんに、実際に伝えたこと
冒頭の女性には、まず彼女の健診結果を一緒に見直しました。BMIも血液検査の数値も、実は薬による治療が必要なレベルではありませんでした。
「マンジャロを使わなくても、今の生活に少し運動を足すだけで、十分に改善できる範囲だと思います」
そう伝えると、少し拍子抜けしたような顔をしていましたが、最終的には「まずは生活習慣から試してみます」と言ってくれました。派手さのない答えだったと思います。それでも、体に負担の少ない方法から試すことには、ちゃんと意味があると、私は思っています。
✅本当に治療が必要な方へ
誤解のないようにお伝えしたいのですが、糖尿病や、医学的な基準を満たす肥満症の治療として、医師の管理のもとでGLP-1薬を使うことは、有効な治療の選択肢です。すでにこの薬で救われている患者さんも、実際に多くいらっしゃいます。
問題なのは、あくまで「治療が必要かどうかの判断を飛ばして、話題性だけで使ってしまうこと」です。気になる方は、まず、かかりつけ医や専門医に、ご自身の状態を確認してみてください。
なぜ今日、この記事を書いたのか。SNSの情報だけを頼りに、本来必要のない治療に手を伸ばしてしまう方を、これ以上増やしたくないと思ったからです。
この記事が、誰かの「まず相談してみよう」のきっかけになったら嬉しいです。フォローやスキで教えていただけると、次に書く力になります。
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