『暗殺教室』を全巻読んだ
感想
月の大半を破壊した超生物が中学校の教師になり、生徒たちが先生を暗殺することを国から命じられるという導入は、どう考えても普通ではない。
しかし最後まで読み終えた今、自分の中に残っているのは「暗殺」でも「超生物」でもなく、「教育」という言葉だった。
この作品は、生徒たちが先生を殺す物語でありながら、同時に先生が生徒たちを全力で育てる物語でもある。
殺せんせーはとにかく変な先生だ。
見た目は化け物だし、言動もふざけているし、常識から大きく外れている。
それなのに、読めば読むほど理想の教師に見えてくる。
生徒一人ひとりの長所を見つける。
失敗を責めるのではなく、次につながるように導く。
努力を見逃さない。
生徒の未来を本気で考える。
言葉にすると当たり前のことのように思えるが、それを徹底して実践できる人はそう多くない。
特に印象的だったのは、殺せんせーが生徒たちを決して一括りにしないところだ。
勉強が得意な生徒もいれば苦手な生徒もいる。
運動能力が高い生徒もいる。
人付き合いが得意な生徒もいれば、不器用な生徒もいる。
普通なら目立つ生徒ばかりに光が当たりそうなものだが、この作品ではそうならない。
誰にでも役割がある。
誰にでも武器がある。
それを本人より先に見つけてくれるのが殺せんせーだった。
だから読んでいて、E組の生徒たちの成長が本当にうれしくなる。
最初は自信を失い、周囲から落ちこぼれ扱いされていた生徒たちが、自分の力を信じられるようになっていく。
その変化が丁寧に描かれている。
単なる成功体験の積み重ねではない。
失敗もする。
挫折もする。
悔しい思いもする。
それでも前を向いて進んでいく姿に説得力がある。
だからこそ、読者も彼らを応援したくなるのだと思う。
そしてこの作品のすごいところは、教育論を押しつけがましく語らないところだと思う。
説教臭くなろうと思えばいくらでもなれる題材なのに、ギャグやアクションや青春ドラマを織り交ぜながら自然に伝えてくる。
気づけば笑っているし、気づけば真剣に考えさせられている。
特に「失敗の価値」を描く姿勢が好きだった。
社会では成功した人ばかりが注目される。
けれど殺せんせーは、失敗した経験こそが人を強くすると何度も教えてくれる。
転んだからこそ見える景色がある。
負けたからこそ学べることがある。
そんな当たり前でありながら忘れがちなことを、物語としてしっかり伝えてくる。
読んでいて、自分自身の学生時代を思い出した。
もしあの頃、自分の可能性を本気で信じてくれる先生がいたらどうだっただろう。
もし失敗しても大丈夫だと言ってくれる人がいたらどうだっただろう。
そんなことを考えてしまった。
だからこの作品は、生徒たちの成長物語であると同時に、大人に向けた物語でもあると思う。
社会に出ると、人は評価する側にも評価される側にもなる。
後輩や部下を指導する立場になることもある。
そんな時に、この作品が描く「人を育てるとは何か」というテーマは強く胸に響く。
そして何より、最終回が本当に素晴らしかった。
結末は知っていた。
有名な作品なので、どういう終わり方をするのかは何となく耳に入っていた。
それでも涙をこらえられなかった。
それは単純な別れの悲しさだけではない。
生徒たちと殺せんせーが積み重ねてきた時間を知っているからだ。
笑った日々も、怒られた日々も、成長した日々も全部知っている。
だから最後の瞬間があまりにも重い。
物語の構造上、最初から避けられない結末だったはずなのに、読み進めるほど「終わってほしくない」と願ってしまう。
その気持ちと現実との間で揺さぶられ続け、最後に感情が一気にあふれ出した。
読み終えた後もしばらく余韻が消えなかった。
ギャグ漫画としても面白い。
学園漫画としても面白い。
バトル漫画としても面白い。
しかしそれだけでは終わらない。
これは人が成長する物語であり、人を育てる物語であり、別れを受け入れる物語だった。
自分にとって『暗殺教室』は、笑えて泣ける漫画というだけではない。
「良い先生とは何か」「教育とは何か」「人の可能性とは何か」を考えさせてくれる作品だった。
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