真夜中を越えるためのツートン、ツーツートントンとシュシュシュ。 #書く人生がはじまった瞬間
真夜中の親指シュッシュから、こんなに世界が広がるとは。
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想像してみてほしい。
電気の消えた6畳のリビング。真っ暗で、Wi-Fiの明滅やテレビの赤灯ランプだけがぼんやり浮かんでいる真夜中。その部屋の中をそろーりそろーり、何時間もただひたすら歩き回ったことがあるだろうか。ぐるぐる歩き回り、ひと言もしゃべらず、動いては止まりを繰り出し、また元の位置に戻る。
妖怪ですか?
いいえ、寝かしつけです。
長男が生まれて、パートナーと交代での寝かしつけは苦戦の連続だった。すべてがはじめましてのフルコンボ。爆誕した命というやつは、全方位に無防備だから超多忙。しかし、慣れない育児にも人はなんとか適応しようとするもの。なんとか編み出したのが、この方法だった。
ぐるぐる、ぐるぐる。
まったくの余談だが、長男はいつもの抱っこより少し低空の位置でツーっと床と平行移動してトン。2回ツーツーしてトントンと繰り返すと、一番寝かしつけに成功することがわかった。アイススケートのようにすり足を繰り出しトントンと背中をやさしく叩く。ツー、トン。ツーツー、トントン。そろり、そろり。その姿、まるで能である。
いま思い出すと……どう考えても謎の儀だが、当時は真剣に寝かしつけ方法を模索して辿り着いた境地だった。人間、なんにでもコツはあるといったのは誰だっけ。ちなみに次男にはまったく効かず、いい感じな科学的根拠めいたものもないので、単なるおまじないみたいなもんと思っていただきたい。子育ては十人十色、コツって100種類あんねん。
ツー、トン。
ツーツー、トントン。
夜を越えるために、ぐるぐるぐるぐる歩き回り、時間の感覚が溶けた頃にやっとこさ寝息を聞くことができた。かつてしずかちゃんのパパは産声を天使のラッパに聞こえたと言っていたが、スースー寝息も天使のファンファーレくらいはある気がする。あ、すみません……!ありがたいけど、音量小さめでお願いします天使。
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しかし、きみ専用の寝かしつけのコツは編み出したものの、その後がさらに強敵だった。
そう、背中センサーである。
背中センサーとは、赤ちゃんの背中にもう絶対に付いてるだろう(と思わされる)やつで、どんなに深く眠っている(と信じてる)赤ちゃんでも、ベッドに寝かせると即起床ギャン泣きのコンボが繰り出させるという無慈悲な機能である。
長男の背中センサーはそりゃあもう強力で、ひとたびベッドに触れようものなら即ギャン、たちまち振り出しに戻る……である。そしてまた、ぐるぐるがはじまるのだ。いろいろ試したが、どうしてもここは突破できず抱っこしたままソファに座り朝を迎えることも多かった。腰を生贄に寝かしつけを召喚する日々。
世界にひとりきりみたいな夜。
見上げた天井、エンボス加工された壁紙に星座を見出だすのにも飽きてくる。長い。長過ぎる。テレビはつけられない。スマホも音は出せない。音楽も聴けない。寝ちゃいたいけど落としたらどうしよう。怠惰だな夜、サボってないで早く時を進めてくれ。頼むよ。
睡眠不足も重なって泥のような夜はネガテイブな思考を運んでくる。眠い。辛い。なんだっけ?暇。明日なにするんだっけ?今何時だ。眠い。しんどい。朝までこれか……。
そんなときに、なんとなくスマホで開いたのがnoteのアプリだった。当時は今ほど登録者もいなくて、知ってる人は知ってるやつって感じだった。前職の先輩が有料noteを書いてて、応援も兼ねて購入するためにつくったアカウント。なんとなく、トップから数記事を選んで読み進めてみる。
真夜中のインターネットで、世界とつながる。
そこには暮らしや生活が書き綴られていて、人がいて、役に立ちそうなものもくだらないものもあって、流行りもなつかしいもあって。夜な夜な読むのがたのしくなった。長男を抱っこして、空いた右手でスマホをタップ。シュシュシュ。親指ひとつで世界とつながる、気がした。
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読み進めるうちに、ちょっとずつ書くことにも興味が出てくる。読むだけでは足りない。伝えたい。書きたい。泥のような夜を、少しずつ文字にあてはめて感情をことばに変えていく。
はじめは読書感想文とか、日記とか、メモ。それからコンテストに応募してみたり、書き方を読んでみたり、何を伝えたいか調べてみたり。スマホをフリックでシュシュシュっと、生活を綴っていった。いま読み返してみると、すごく……なんだか自分の歴史が詰まってて、うれし恥ずかしの感情の波が何回でも再生できる。すごい。完全に贈りものになっていた。書き重ねてきてよかった。
気がついたら、同人誌をつくったり、noteで読んだり読まれたり、お仕事で書いてみたり、作家さんやエッセイストさんとおしゃべりしたり。書くとそのまわりの人生が広がって、今日まで続いている。
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あの真夜中。たまたま右手が空いていたからはじまった書く人生。よく読ませてもらっていた中には、いつの間にかいなくなったり、書くものが変わったり、やめちゃったりした方も多い。やっぱり、ちょっと切ない。
けれど、当時あなたの書いたものが、少なくとも世界で一人、わたしを救い上げてくれたんだよって伝えたい。書くことは、つながることだ。
特にインターネットの広い海では、その向こう側、世界中の誰かたった一人にそのたった一文届くかもしれない。その瞬間を知っているから、これからもまた言葉を書き重ねていきたい。いく。
おわり。
こちらのコンテストに応募しました!
出版おめでとうございます〜〜〜!!!!🎉🎉🎉
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待てうかつに近づくなエッセイにされるぞ
あ、ああ……あー!ありがとうございます!!