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顔のない問いさんに捧ぐ短編小説〜魔法使いの弟子〜

僕は魔法使いに弟子入りした。
師匠は本当に凄い魔法使いで、今日も僕なんかには思いつかないような魔法を深淵から取り出して、魔導書に記載している。
しかもそれを無料で人々に配っている。
僕はその姿を見て、一層師匠を尊敬した。
でも僕がそれを伝えると、師匠は少し困ったような顔をして
「僕の作る魔法は、生活に役に立たないから。」
って言うんだ。

……本当にそうなのかな?

もちろん、生活に役立つ魔法は大切だ。
火をつけたり、部屋を温めたり。体を冷たい風から守ったり、日差しから目を守ったり。
早く移動したり、遠くにいる人に声を届けたり…なんていうのもある。
でも師匠の魔法は、人の中に作用する。
考え方、感じ方、そこから自分を知って、どう世界と向き合っていけばいいのかのヒントが隠れてる。
僕はそれこそが素晴らしいと思うし、そんな魔法使いになりたいと思って弟子入りしたんだ。

……押しかけだけど。

それに深淵から魔法を取り出す速さは、師匠の右に出る者はいないと思う。
呼吸をするように問いが湧いて、それを深淵に投げて、気がついたらもう魔法を取り出しているんだ。
僕にとっては瞬きする間くらいの速さに見える。
なのに師匠は
「そんなことないよ。」
って遠慮がちに言うんだ。

………本当にそうなのかな?

僕は黒い布に覆われた師匠の背中を見た。
その背中はとても大きくて、その背中についていきたいのに遥か遠くに見える。
僕は持っていた箒の柄の先を顎に当てて考えた。

……こんなにすごい人についていけるのかな。

でもすぐに頭を振る。
だって僕が師匠に魔法の種を見せたときに、師匠はすごく面白そうに興味を持ってくれたんだ。
種の育て方を教えてくれて、なんなら一緒に育てようとしてくれた。
まだ僕は自分の力で深淵から魔法を取り出せないから、師匠が手伝ってくれて種を僕に渡してくれたんだ。
それを見せた時の師匠の顔が忘れられない。
種を大事に、そっと僕の手に乗せてくれたんだ。

僕は魔法の種の植わっている、透明なガラス瓶を見た。魔法の種は淡く光りながら、芽吹くのを待っている。瓶の中には深淵から師匠が取り出してくれた液体なのか気体なのかよく分からない物質に満たされて、魔法の種をつつみ込んで様々な色に染まっている。
その瓶を見ながら、僕は思う。

…やっぱり僕の師匠は凄い。
 だって“面白がり”なんだもの。

魔法の種を育てようなんて、普通の魔法使いは考えない。何故なら自分で深淵から魔法を取り出した方が早いから。
弟子にアイデアだけ出させて、魔法は自分で取り出す魔法使いのなんと多いことか。
それなのにうちの師匠は、僕のアイデアを種にして、しかも僕に育てさせてくれている。
師匠の背中を見ながら、僕は魔法の種をちゃんと芽吹かせることが出来るようにしっかり世話をしないと、と決意する。
急に師匠が叫んだ。
「わっ!またやっちゃった。」
僕は師匠の背中を見て苦笑いした。
師匠は魔法を取り出すのが速すぎて、まとまらない魔法をよく取り出している。
その魔法は難しすぎて、使える人がものすごく限られるんだ。

……それも凄いと思うんだけどな。

僕は箒とちりとりを持って師匠の側に行った。
飛び散った魔法の欠片を集めるために。
これ、ちゃんと綺麗にしておかないとへんてこりんな魔法が生えちゃうことがあるんだよね。
師匠に目配せすると、師匠は苦笑いをしながら深淵と繋がる大きな壺から一歩退いた。

「師匠、あっちにお茶が用意してあります。」
僕が声をかけると、師匠は照れくさそうに笑って奥のテーブルの方へ歩いていった。
僕は箒とちりとりで魔法の欠片を集めながら、その色とりどりの美しさに、やっぱり師匠は凄いなって気持ちを強くした。
こんな綺麗な魔法の欠片を飛び散らせることが出来るなんて。
思わず緩んだ頬を師匠に見られないように気をつけながら掃除をする。
ふと見ると、魔法の欠片に混じって深淵から飛んできた混沌がこびりついているのが見えた。

……ヤバい。あれ、吸い込むと気持ち悪くなるやつ。

僕は慌てて、こびりついた混沌を落とすためのヘラと専用のたわしを取りに走る。

……師匠、これさえなければ完璧なのに。

そう思うけれど、それもまた面白くて。
僕もすっかり師匠とおなじ“面白がり”になったみたいだ。
そんなことを考えながら、僕はしつこくこびりついた混沌を剥がすことに悪戦苦闘した。
師匠は少し済まなそうな顔をしながら、それでも温かい目で僕を見つめてくれていた。


顔のない問いさんの記事を読んだら、この物語が浮かびました。自分なりのファンレターのつもりです。今回初めて詩ではなく物語がファンレター化しました。
………すみません、こんなやつで。
顔のない問いさんの記事はこちら。

この物語の元になった詩はこちら。



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