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許状申請

水無月を食べ
薄茶を飲む

今日は夏越しの祓えの日
私は二日ほど前に茅の輪くぐりをやって来た

むっちゃんはずっとお茶のお稽古をご無沙汰している
「今日の二時からお稽古をしませんか」

また唐突にお師匠さんからお誘いがくる

やっぱり来たか…今日は何の用事もない
洗濯をしてベランダに山のような洗濯物を干していた

二時からのお稽古だと何時に家を出たらいいのかと逆算する
あんまりのんびりとは出来ないな

結局慌てて家を飛び出す

慌てた割には一本早い電車に乗っていた


階段をトントントンと昇り
四階の稽古場に着く
もうむっちゃんは来ている

午前中にむっちゃんはお師匠さんと華さんと三人で近隣の神社へ茅の輪くぐりをして来たらしい


お師匠さんの行きつけの古着屋さんでは破格のしつけの付いた着物を買ってきたと見せてくれる

むっちゃんは春から着物の着付け教室に通い、五月の大神おおみわ神社でお笛の奉納に出演した


私はまだ奈良までは行く気力がないので、東京で芹沢光治良先生の文学会に参加することに

人の道は千筋の道があると言われるから、私は私の道を行く

お師匠さんからお借りしていたプラスチックの篠笛もまだやる気にならないからと、先日お返したばかりである

ただただお茶のお稽古だけは続いている

何が、どう気に入ったのか自分でも分からないが辞めようとは思わないで、喰らいつく

毎回毎回、柄杓ひしゃくにはもてあそばれるし
乱暴にお道具も扱っている

最近よく一緒なるミクさんは御茶碗やお道具に話し掛けて丁寧に扱う

ふんふん、こうやって可愛いがってあげればいいのかとミクさんから学ぶことがいっぱいある

久しぶりのお稽古なのでむっちゃんからお点前をすることに

私はお客さんのお稽古だ

「お点前頂戴いたします」
「お先にいただきます」
お茶をいただいたら御茶碗の飲み口を指で拭い、懐紙の端でその指をそっとふく
御茶碗を二回回して縁外に置く、持ち上げずに低いところから御茶碗を拝見、お返しする

お客さんにもいろいろな作法が待っている
まだまだ身に付くところまではいっていない

むっちゃんのお点前が終わりにさしかかる頃に日舞を習っている若いママさんが涼しそうな着物姿でお稽古にいらっしゃる

むっちゃんは若いママさんにもお茶を一服差し上げる

やはり着物でのお稽古はいいなあ

お師匠さんの娘さんのミナ先生のお弟子さんだ

ミナ先生はしっかりと風炉点前のお稽古をつけている

いいのよ、いいの
私にはやさしいお師匠さんが一番だから

やさしさに包まれながらもしっかりと指導をしてくださる

おやさまから(本当は母からだとお師匠さんには言われるが)頼まれて
不思議な縁を感じている

私は今日はお客さんだけなのか…それはそれで、まあいいかと思った途端に

「はい、次はカナちゃんがお点前をやりましょう」
そうか今日は殿しんがり

お師匠さんの言葉でお点前の準備を始めた
なつめにお抹茶を入れ直して、御茶碗に茶巾をたたみ茶筅ちやせん茶杓ちゃしゃくを用意する
棚点前には建水は金属製、蓋置は陶器製を柄杓も忘れない

最近ではゆっくりと焦らずにと心がけてお点前をするように
内心はドキドキだけど


いつもは悪戦苦闘する引き柄杓も上手くゆくことに我ながら驚いた

今日はまだまだ身体が覚えている
「やっぱり時を空けてはいけないね」
お師匠さんにもそう言われた


ゆっくりだけど、こうやって身体が覚えてくるらしい

お茶を点てるのも、左利きの私は上手く点てられなくて「表千家のようだ」とお師匠さんには冗談っぽく指摘されていたが、
少し前からお裏(裏千家)のようにしっかり泡を立てられるようになってきた

お師匠さんの言われるままに身体がついてくる

ほんのちょっとしたことだけど、小さな積み重ねを大切に

少しでも焦りが見えると
すぐに柄杓にもてあそばれる

やっぱりお茶は侮れない

焦らない、焦らない

私はいつもお稽古でお点前を二回する
二回目は大抵一度目よりも上手くなる


お師匠さんからは相変わらず
「いつ辞めるか、いつ辞めるか」とハラハラしていたと言われる続けるが
遂に入門許状の申請をすることを決意したと聞かされた

今まではこっそりとお師匠さんからお茶を習う人だけだった私もこれからは大手を振って?
「裏千家で習っています」と言えるようになるのである

本当にゆっくりと、ゆっくりと少しずつ進んでいるようだ

これからまた少し違う世界が見えてくるのか
新しい道が始まるのだろうか

全く何にも変わっている感じはしないのに
勝手に物事が進んでいるように
何かに引っ張られている気がしてる

お茶のお稽古をしているとそれだけで頭の中から余計なことがなくなってゆく

ただ黙ってお湯の沸く音が流れ、お点前だけをする

深い深い心の底から湧いてくる何かに触れたのか
その何かを分かりたい私がここにいる

相変わらず
落ち込んは立ち上がり
また落ち込む
その繰り返しだけど

この先を楽しみにして生きられたらいいのだろう



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