許状申請②
やっとここまでやってきた
母の新盆供養のお茶会のあの日から
長いようで短かったのか
短いようで長かったのか
遠い昔のことなのか
昨日のようなことなのか
カチコチに固まって初めてお茶をいただいた
懐紙もなく、扇子も持たずに
この身ひとつ
あの日から始まったお茶の道
あの頃はお師匠さんは普通のお友達に過ぎなかった
「お友達はお弟子にしない」と言われていた
その通り、他のお友達も断られたと聞かされる
案外、私は暢気者でなんとかなると思っていたが、全くお茶を知らない私をみたお師匠さんは「さわりだけでも教えてあげる」と言って下さる
そこから先はトントンと母の帛紗が出てくるとお師匠さんは母の気持ちを感じ取り、いつの間にか「お弟子にしましょう」とおっしゃった
私の知らぬ間に道がついてくる
そのうちにお師匠さんはおやさま、お社さんからも私をお願いされていた
私はおやさま、お社さんからお師匠さんにお茶の弟子として預けられる
何も知らない赤子のような私に母のように一からお茶を教えてくれるお師匠さん
お師匠さんは篠笛の名取になって、もうお茶のお弟子さんは取らないと決めていた
しかしおやさまからのお願い事で私をお弟子にして下さる
こんな風に道が開かれるのか
長いことお茶を教えていると、とてつもなく不器用で自分の不器用さに嫌になり辞めてしまう人を何人も見てきたからか、私もいつか辞めるのではないかと思われて、しばらくは黙って様子見をしていたが、私には一向にその気配が感じられない
必死にお茶と悪戦苦闘している時にお師匠さんの篠笛仲間のむっちゃんが「入れて」とやって来た
むっちゃんは昔々にお茶を習っていた
しっかりと所作は身に付いている
お師匠さんは「むっちゃんには貯金がある」と言われている
私には貯金もない、ミクさんのように前世でもお茶とは縁がなかったようで、全く一からのお稽古となる
むっちゃんはお客さんをしながら、私の所作がだんだんとなんとか形になってゆくのを眺めていた
そして或る時、「私もお客さんだけではなく、お点前のお稽古をしようかな」と言い出した
「かなちゃんは少しずつお点前が上手くになって来ている」
いつもそう言ってくれている
むっちゃんと「チームおさるさん」と名付けられたお弟子が二人、いい歳をしたお弟子である
真面目な姉弟子さんからは奇異な目で見られることもあったけれど、お師匠さん家のお弟子さんはみなさん個性的だから大丈夫、私もいつしか馴染んでいた
お師匠さんは多趣味で篠笛は言わずもがな、お香や源氏物語、鼓に一中節を習っている
以前は殆ど家にいることが無かったと姉弟子さんからこっそりと教えられた
私がお稽古を始めてからは少しは家にいるようになったらしい
それでも鮪のように動きまわる
捕まえるのは難しい
私のほうは相変わらず絵に描いたような不器用もので、まだまだ気持ちと身体が伴わない
縁のある方たちのお点前を見て学んでいるつもりである
人より何倍も時間も掛かるし、手間も掛かっている
それでも辞めようとは思わない
やっとやっと辿り着く
小さな進歩を見落とさず
お師匠さんの判断でオッケーが出て
入門、小習、茶箱許状の申請となる
これはただの通過点
さぁどこまで行けるのでしょうか
前のことは分からない
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