ドイツ | 落第が普通の国 | “敗者復活戦”がある!?
こんにちは、ドイツ在住「煮ても焼いてもドイツ」のニヤキです。
ドイツ生活のあれこれを中心に情報発信をしています。
先日、ドイツの学校に子どもを送っている親としての「複雑な思い」を綴った記事には、教育関係の方を筆頭に多くのリアクションや反響をいただき、ありがとうございました。
この記事だけだと、血も涙もない国(いや、実際結構そうですが)だと思われそうなので、一応、「逆」ケースも存在するということを記しておきたいと思います。
先日の記事では、ドイツの学校制度では「落第がある」「10歳で進路が決まる」「ギムナジウムでついていけなければ容赦なくレアルシューレへ転校させられる」といった厳しい側面を紹介しました。
その通りで、ドイツの教育制度は早期選抜が特徴で、子どもたちは幼い頃からテストや成績に大きなプレッシャーを感じています。
しかし、ケースは多くはないにせよ、ドイツの学校では“敗者復活戦”も制度として存在します。
ただし、ここが重要なのですが、 制度としては存在しても、実際にそのルートを使える子どもはごく少数であるということ。 統計的に見ても、途中から上位校へ上がる生徒は例外的で、むしろ落第や下位校への転校の方が圧倒的に多いのです。
今回は、この「制度上の柔軟さ」と「現実の狭さ」のギャップに焦点を当ててみたいと思います。
制度上は“いつでも移動できる”ことになっている
ドイツの教育制度を説明する資料には、必ずと言っていいほど次のような文言が登場します。
「学校種間の移動は基本的に保証されている」
これは事実です。 レアルシューレからギムナジウムへ編入することも、職業学校を経由してアビトゥアを取得することも、成人後に再挑戦することも制度上は可能です。
実際、私の旦那(ドイツ生まれ、ドイツ育ちのドイツ人)も、小学校卒業後に行ったのはレアルシューレでした。
✅ギムナジウム: 大学進学を前提に、抽象的思考と高度な学力を早期から求める最上位校
✅レアルシューレ: 実践的な学力を重視し、中堅レベルの進学や職業教育につながる中等学校
✅ハウプトシューレ: 基礎学力の習得を中心に、職業訓練や実務系進路へつながる学校
当時、旦那の育った地域では、進路については小学校の担任の決定が絶対的だったそうで、旦那は担任から嫌われていたこともあり(我が家によくあるパターン)、進学先として言い渡されたのはレアルシューレでした。
旦那のお母さんが学校へ異議申し立てをしたそうですが、聞き入れられず。そのままレアルシューレへ進学しました。
結局、以下に紹介する敗者復活(というと表現が悪いですが)制度で、11年生からギムナジウムへ進学。そのまま大学へ進学し、最終的には最高学位である博士課程まで修めたので、小学校の担任の見立てがどれだけ的外れのものであったかが伺えます。
ここで強調したいのが、ギムナジウムがよくて、レアルシューレが劣る、という訳ではないということ。
学校の特徴、そして目指しているゴールが違う、というだけです。
またドイツは職人文化が今でも根付いているため、大学の学位はそこまで重要ではなく(勿論職業によります)、職業学校などやインターンを経て、ある分野のマイスターとしてしっかりした地位を得ることも可能です。
旦那もレアルシューレではとても素晴らしい先生たちに恵まれたそうで、本当にいい思い出ばかりだそうです。その後進学したギムナジウムの先生とは比べ物にならない位、仕事にコミットしてプロフェッショナルな先生たちがいる学校だった、とレアルシューレにとてもポジティブな思い出を持っています。
・・・要はどの学校へ行ったかではなく、どんな先生とであったか、だと思います。(世界中それは同じですね)
旦那の場合は非常にレアなケースというか、たまたまうまくいったケースでしたが、制度が開かれていることと、実際に多くの子がその道を歩めることは別問題です。その理由を見ていきましょう。
統計から見える現実:途中から上位校へ上がる生徒は少ない
ドイツ連邦統計局(Destatis)のデータを見ると、9年生時点での学校種の割合は長年ほぼ変わっていません。
ギムナジウム:36%
レアルシューレ:17%
ハウプトシューレ:9%
総合校(Gesamtschule・ゲザムトシューレ):21%
もしレアルシューレから大量にギムナジウムへ移動しているなら、ギムナジウムの割合はもっと増えるはずです。しかし、割合はほぼ横ばい。 つまり、途中編入は制度上可能でも、実際には少数派だということが読み取れます。
さらに、レアルシューレやハウプトシューレの生徒数は年々減少し、総合校に吸収される傾向があります。これもまた、学校種間の移動が「制度上はあるが、現実には一般的ではない」ことを示しています。
追加情報:総合校(Gesamtschule)は、ギムナジウム・レアルシューレ・ハウプトシューレの機能を一つの学校にまとめた総合校で、校内に複数の学力コースが併設されています。
子どもは自分の学力や得意分野に応じてコースを選び、必要に応じて上位・下位コースへ移動できます。ギムナジウム相当の上位コースを修了すればアビトゥア取得も可能で、大学進学にもつながります。
複数の進路を一つの学校で完結できるため、途中で進路を変えたい子どもにとって柔軟性の高い仕組みです。
レアルシューレからギムナジウムへ転校する子は確かにいる
うちの旦那の例のように、レアルシューレからギムナジウムへ転校する生徒はゼロではありません。 レアルシューレで成績を伸ばし、途中からギムナジウムへ編入する子は確かに存在します。
レアルシューレで優秀な成績を維持
担任や学校から推薦
州ごとの編入試験をクリア
ギムナジウムへ移動
この流れは制度として正式に認められており、学校側もサポートします。
ただしこのルートを歩めるのは、レアルシューレの中でもごく一部の成績上位者に限られるという点です。
ギムナジウムの学習進度は速く、科目数も多く、途中から追いつくのは簡単ではありません。 そのため、制度上は開かれていても、実際に移動できる子は限られているといいます。
ちなみに、ギムナジウムからレアルシューレへの転校が難しいケースもあります。それが「第2外国語」。
レアルシューレでは第2外国語が主に「フランス語」だけなのに対し、ギムナジウムでは「ラテン語」もしくは「フランス語」の選択肢があるところが多く存在します。(中には「ラテン語」が必須のギムナジウムも)
もしギムナジウムでラテン語を選択していた生徒がレアルシューレに移ることになった場合、ゼロからフランス語クラスへ入ることは事実上大変難しいと聞きます。
すると、転校だけでなく、留年(フランス語履修のため)もするというケースも存在します。1科目だけのために学年を落とさなくてはいけなくなる、ということです。
こうした弊害も念頭に入れておかなくてはならないのがドイツの教育制度です。
小学校で留年してもギムナジウムへ
ドイツでは小学校で留年すること自体は珍しくありません。
読み書きや算数の基礎が不十分だったり、発達の成熟度にばらつきがある場合、1年生や2年生でも留年が選択されます。
制度上、留年した子どもも4年時の成績が良ければギムナジウムへの推薦を受けることは可能で、実際にそうしたケースも存在し、上の子の小学校でも4年生を2回やったのち、ギムナジウムへ進学した子どもがいました。
しかし、これはあくまで例外的です。
小学校で留年する理由の多くは基礎学力の遅れや学習ペースの問題であり、ギムナジウムが求める速い進度や抽象的思考とは方向性が異なります。
そのため、現場では留年は「現状の学習環境が合っていない」というサインと受け止められ、むしろレアルシューレや総合校への進学が勧められることの方が多いと聞きます。
小学校での留年と進路先の関連性を知りたくて、統計を探してみたのですが、私には見つけられませんでした。こういった統計は全体像を把握するのに必要だと思うのですが、もし、統計をとっていないのなら、それはそれで問題だな、と思います。
ギムナジウム以外からアビトゥアを取るルートは確かにある
職業学校(Berufskolleg)や総合校(Gesamtschule)を経由してアビトゥアを取得するルートも存在します。 成人後に夜間学校で再挑戦する人もいます。
Abitur(アビトゥア)は、ドイツで大学進学に必要となる公式資格です。主にギムナジウムの最終学年で受験します。筆記試験と口頭試験を組み合わせた最終試験の点数に応じて大学や応用科学大学への入学資格が得られます。
しかし、これらのルートも「誰でも簡単に行ける」ものではありません。
学習期間が長い
専門科目が多い
途中で脱落する人も多い
制度としては開かれていても、現実にはハードルが高いのです。
結論:「逆」の進路変更は存在するが、多くはない。
ここまで見てきたように、ドイツの教育制度には確かに“逆方向”の進路変更、つまり下位校から上位校へ移動するルートが制度として存在します。
レアルシューレからギムナジウムへの編入、職業学校を経由したアビトゥア取得、成人後の再挑戦など、表面的には「やり直しが効く柔軟な制度」に見えます。
しかし、統計的傾向や学校種ごとの構造を踏まえると、実際にこの柔軟さを活かして上位校へ進む生徒はごく少数です。
ギムナジウムの学習進度は速く、抽象的思考力や語学力が早い段階から求められるため、途中から追いつくのは容易ではありません。さらに、選択科目の違いなど制度的な壁も存在します。
一方で、落第や下位校への転校は制度上も現場でも一般的で、実際の進路変更の大半を占めています。つまり、制度は「上にも下にも動ける」と謳っていても、現実には下方向への移動の方が圧倒的に多いのです。
この「制度の表面的な柔軟さ」と「現実の狭さ」のギャップこそが、ドイツの教育制度の特徴であり、課題でもあります。
早期選抜の厳しさを和らげるために用意された“敗者復活戦”は確かに存在しますが、それを実際に使いこなせるのは一部の子どもだけ。
多くの子どもにとって進路は早い段階で固定化され、その後の変更は簡単ではありません。
ドイツの教育制度を理解するうえで重要なのは、「柔軟な制度がある=誰でもやり直せる」という単純な構図ではないということです。
制度の裏側には、学力要求の高さ、科目構造の違い、学校文化、家庭のサポート力など、進路変更を難しくする要素が複雑に絡み合っています。
だからこそ、制度上の可能性と実際の到達率の差を正しく理解することが、この国の教育を語るうえで欠かせない視点なのだと思います。
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